2018年先端技術部門バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー
カール・ダイセロス 写真

カール・ダイセロス
(Karl Deisseroth)

  • アメリカ / 1971年11月18日
  • 神経科学者
  • スタンフォード大学 教授 / ハワード・ヒューズ医学研究所 研究員

光遺伝学の創成と因果関係を証明するシステム神経科学の展開

緑藻類の光依存的イオンチャネルであるチャネルロドプシンに着目し、ミリ秒単位で神経活動を光で制御できる方法を開発し、新たな学問領域「光遺伝学(Optogenetics)」を創成した。これにより、システム神経科学に神経集団活動と脳機能の因果関係を証明可能とする方法論を与え、大きな変革を引き起こした。

プロフィール

略歴

1971年
米国マサチューセッツ州ボストン生まれ
1998年
スタンフォード大学 博士(神経科学)
2000年
スタンフォード大学 博士(医学)
2000–2004年
スタンフォード大学 精神科研修医および博士研究員
2004–2008年
スタンフォード大学 生物工学科および精神医学・行動科学科 研究主宰者・助教
2008–2012年
スタンフォード大学 生物工学科および精神医学・行動科学科 准教授
2012年–
スタンフォード大学 生物工学科および精神医学・行動科学科 教授
2012年–
スタンフォード大学 D・H・チェン教授
2014年–
ハワード・ヒューズ医学研究所 研究員

主な受賞と栄誉

2005年
米国国立衛生研究所長パイオニア賞
2005年
米国若手科学者・エンジニア大統領賞
2009年
若手研究者賞、米国神経科学会
2010年
HFSP中曽根賞
2011年
パール-UNC神経科学賞、ノースカロライナ大学
2012年
チュールヒ賞、ゲルトルート・レームツマ財団
2013年
ブレイン・プライズ、ルンドベック財団
2014年
ディクソン賞科学部門、カーネギーメロン大学
2014年
慶應医学賞
2015年
ディクソン賞医学部門、ピッツバーグ大学
2015年
BBVA財団フロンティアーズ・オブ・ナレッジ賞生物医学部門
2016年
ブレイクスルー賞生命科学部門
2016年
マスリー賞、南カリフォルニア大学
2016年
ハーヴェイ賞、テクニオン-イスラエル工科大学
2017年
フレゼニウス医学研究賞
2018年
ガードナー国際賞
会員
米国医学アカデミー、米国科学アカデミー、レオポルディーナ(ドイツ国立科学アカデミー)

主な論文

業績

光遺伝学の創成と因果関係を証明するシステム神経科学の展開

カール・ダイセロス博士は、光遺伝学(Optogenetics)と総称される、細胞情報を物理的な光刺激によって誘導・修飾する新たな学問領域を創成し、システム神経科学の研究方法に大きな変革を引き起こした。これにより、神経回路レベルの活動操作を行い、正常・病態の脳機能における動的な細胞集団活動の必要性・十分性を実証し、因果関係を証明可能な、新たな普遍的技術の開発に成功した。
光遺伝学導入以前のシステム神経科学の方法論は、動物の行動に対応する神経発火活動を発見する、主には相関に頼るものであった。光遺伝学以前にも、電気磁気刺激、電流による破壊、薬物による可逆的刺激と破壊、機械的な損傷など、因果関係に迫ろうとする方法論も多数存在したが、分子マーカで区別できる細胞種に特異的に、ミリ秒の時間分解能で、空間的脳活動を興奮、抑制できるという点で、光遺伝学的手法は画期的である。ダイセロス博士は、光遺伝学創成にあたり、次の3つの貢献をなした。
第一に、緑藻類の光依存的イオンチャネルであるチャネルロドプシンに着目し、補因子である全トランス型レチナールが哺乳類脳組織より自発的に供給されるため、ミリ秒単位の活動電位発火制御を哺乳類脳で実施可能な分子デバイスであることを見い出し世界に先駆けて実証した(1)。これを契機に、チャネルロドプシン分子の変異改良を進め、活動電位発火と活動電位抑制の実験的な制御に成功した(2–5, ただし 6, 7も参照)。さらに細胞種特異的Creマウスとウイルスベクターを駆使することにより、生きた動物個体の脳における動的な回路機能を特定の脳部位において研究することを可能にし(8, 9)、世界中の1,000以上の研究室で操作的な神経回路研究が開始され、システム神経科学のモデル動物としてげっ歯目がより頻繁に利用される流れを生み出した。
第二に、光遺伝学が脳活動を人為的に引き起こすことができる特性を活用して、記憶学習(10)、不安恐怖(11)、報酬快楽(9)、意志決定などの高次脳機能への光学的介入を実現した(12)。光遺伝学で誘導できるパターンは時間的に定常的で、自然に起こる脳活動に対応しているという保証はないが、責任神経回路の特定な集団活動のパターンが、特定脳機能遂行に十分であることを示す実証的システム神経科学を樹立した。
第三に、神経変性疾患・精神疾患の病態基礎が回路学的活動破綻であるという仮説を補強するデータを得た(13, 14)。この結果、中枢神経作動薬の標的探索を、「特定分子経路の同定」から「責任神経回路活動の同定」へと拡張させ、新たな創薬を可能にする道を拓いた。
ダイセロス博士は、光遺伝学創成期における革新的研究を先導するばかりでなく、開発した変異体・実験プロトコールを広く共有するとともに、幅広い普及活動を実践した。その研究成果は、多数の論文に結実し、数多くの賞が単独または共同で授与されている。自身でも、光遺伝学的分子デバイスを活用した創薬を実践するベンチャーを立ち上げ、前臨床早期探索を推進しているとともに、自身の研究室で幅広い講習活動を実践し、世界中から光遺伝学を学びたい若手研究者を受け入れ、脳神経科学の研究加速に大きく貢献している。

参考文献
(1) Boyden ES, et al. (2005) Millisecond-timescale, genetically targeted optical control of neural activity. Nat Neurosci 8: 1263–1268.
(2) Zhang F, et al. (2007) Multimodal fast optical interrogation of neural circuitry. Nature 446: 633–639.
(3) Gradinaru V, et al. (2007) Targeting and readout strategies for fast optical neural control in vitro and in vivo. J Neurosci 27: 14231–14238.
(4) Gradinaru V, et al. (2008) eNpHR: A Natronomonas halorhodopsin enhanced for optogenetic applications. Brain Cell Biol 36: 129–139.
(5) Gunaydin LA, et al. (2010) Ultrafast optogenetic control. Nat Neurosci 13: 387–392.
(6) Han X & Boyden ES (2007) Multiple-color optical activation, silencing, and desynchronization of neural activity, with single-spike temporal resolution. PLoS One 2: e299.
(7) Chow BY, et al. (2010) High-performance genetically targetable optical neural silencing by light-driven proton pumps. Nature 463: 98–102.
(8) Sohal VS, et al. (2009) Parvalbumin neurons and gamma rhythms enhance cortical circuit performance. Nature 459: 698–702.
(9) Tsai HC, et al. (2009) Phasic firing in dopaminergic neurons is sufficient for behavioral conditioning. Science 324: 1080–1084.
(10) Liu X, et al. (2012) Optogenetic stimulation of a hippocampal engram activates fear memory recall. Nature 484: 381–385.
(11) Tye KM, et al. (2011) Amygdala circuitry mediating reversible and bidirectional control of anxiety. Nature 471: 358-362.
(12) Zalocusky, KA et al. (2016) Nucleus accumbens D2R cells signal prior outcomes and control risky decision-making. Nature 531: 642–646.
(13) Kravitz AV, et al. (2010) Regulation of parkinsonian motor behaviours by optogenetic control of basal ganglia circuitry. Nature 466: 622–626.
(14) Yizhar O, et al. (2011) Neocortical excitation/inhibition balance in information processing and social dysfunction. Nature 477: 171–178.

記念講演

記念講演要旨

脳の秘密を照らす光遺伝学――単細胞藻類のタンパク質の研究から

ここ、京都賞受賞への道のりは、1980年代のハーバード大学から始まりました。初めは、職業として執筆活動に専念しようと考えていました。しかし気が付けば、科学との出会いによって、生物学と工学から生まれる新たな原理の数々に魅了され始めたのです。スタンフォード大学(ここで今でも患者さんの治療を行っています)で医学と神経科学の博士号を取得し、精神科の研修を受けた後、同大学の生物工学科で研究を始めました。そして脳の疑問に関して新たな答えを見つけるため、あるいは少なくとも新たな疑問を投げかけるため、これまでとは異なる脳研究手法の構築に取り組み始めました。疑問を探り出す新たな方法が必要なのです。脳は生体であり、細胞や血液からなる器官です。しかし精神疾患の場合、骨折した脚や弱った心臓を診察したり理解するような今のやり方では、器官そのものには何の損傷もないことになります。

私が開発した最初の技術の一つである光遺伝学では、古細菌や緑藻類の遺伝子を哺乳動物の特定の脳細胞に導入します。奇妙なことではありますが、確かな論理に基づき、こうして導入された微生物の遺伝子から、光を電気に変換するタンパク質が生成されます。電気は、脳の基本的な言語です。これらのチャネルロドプシンタンパク質は光駆動性イオンチャネルであり、藻類はこれを使うことで光合成に適した光条件を求めて動き回ることができます。私たちは、タンパク質の構造を解明し、イオンの選択性、動態、スペクトル特性を変化させて再設計することにより、このタンパク質が働く原理を解明することができました。これによって、藻類の行動に関する光駆動性イオンチャネルの動作を制御する基本原理が明らかにされたばかりでなく、動物の行動を解明するための新たなタンパク質の創出も可能になりました。その結果、現在ではレーザーライトを照射(細い光ファイバーを通して脳深部まで届ける)することで、神経細胞のオン・オフを切り替え、行動への影響を観察できるようになっています。

この研究により今では、快楽、報酬、社会的行動、課題に取り組む動機づけといった主な行動や、(マイナス面の)不安、うつ状態、恐怖などの症状を、脳内のどの細胞や連結が実際に制御しているのか明らかとなっています。この光遺伝学の技術は神経科学界全体に定着してきており、今では脳の回路を制御することで行動に関する脳の働きを細胞レベルで正確に調べることができます。

ワークショップ

ワークショップ

脳機能への因果的アプローチ―光遺伝学とその先

Causal Approaches to Brain Functions Through Optogenetics and Beyond

日時
2018年11月14日(水)13:30~17:35
場所
東京大学医学部教育研究棟14階 鉄門記念講堂
企画・司会
尾藤 晴彦[東京大学大学院医学系研究科 教授]
お申し込み
<a href="https://www.kyotoprize.org/registration/">https://www.kyotoprize.org/registration</a>
主催
公益財団法人 稲盛財団
共催
東京大学大学院医学系研究科
後援
文部科学省新学術領域研究「脳情報動態」 京都府 京都市 NHK
協賛
日本神経化学会 日本神経科学学会

プログラム

13:30
開会挨拶
13:35
受賞者紹介 尾藤 晴彦
13:40
受賞者基調講演 カール・ダイセロス
「脳を照らす」
15:00
休憩
15:15
講演 神取 秀樹[名古屋工業大学大学院工学研究科 教授・オプトバイオテクノロジー研究センター長]
「ロドプシンの生物物理学」
16:00
講演 ポリーナ・アニキーバ[マサチューセッツ工科大学 准教授]
「電気的、光学的、磁気的な神経インターフェイス」
16:45
講演 ミケル・G・シャピロ[カルフォルニア工科大学化学及び化学工学部門 助教・研究員]
「非侵襲的な超音波イメージングと細胞機能制御のための音響生体分子」
17:30
閉会挨拶 檜物 省一[公益財団法人 稲盛財団 常務理事]
17:35
閉会
PAGETOP