2017年基礎科学部門生物科学(進化・行動・生態・環境)
グレアム・ファーカー 写真

グレアム・ファーカー
(Graham Farquhar)

  • オーストラリア / 1947年12月8日
  • 植物生理学者
  • オーストラリア国立大学 特別教授

光合成の機能モデルの開拓と地球環境変化の科学への貢献

光合成の炭素同化反応の機能モデルを開発することで、植生と大気の間での二酸化炭素交換の環境応答が予測できるようにし、加えて光合成や蒸散における炭素と酸素の安定同位体が分別される反応の数理モデルを開発して、環境科学と気候変動科学の発展に寄与してきた。

プロフィール

略歴

1947年
オーストラリア タスマニア州ホバート生まれ
1973年
オーストラリア国立大学(ANU) 博士(生物学)
1973年-1975年
ミシガン州立大学・米国エネルギー省(MSU-DOE)植物研究所 リサーチ・アソシエイト
1975年-1976年
MSU-DOE植物研究所 リサーチ・スペシャリスト
1976年-1980年
ANU リサーチ・フェロー
1980年
ANU シニア・リサーチ・フェロー
1980年-1983年
ANU フェロー
1983年-1988年
ANU シニア・フェロー
1988年-2003年
ANU 教授
2003年-
ANU 特別教授

主な受賞・栄誉

2011年
フンボルト賞
2013年
オーストラリア勲章(オフィサー)
2015年
首相科学賞、オーストラリア政府
会員:
オーストラリア科学アカデミー、米国科学アカデミー、ロンドン王立協会

主な論文

贈賞理由

光合成の機能モデルの開拓と地球環境変化の科学への貢献

植物による光合成は、地球上のすべての生態系を支える基盤であり、その機能的理解は農業生産と生態系の環境応答を解析する上で重要である。陸上植物は、乾燥を防ぎながらも二酸化炭素を大気から取り入れるために、気孔の開閉を制御する。その結果、光合成による二酸化炭素同化速度と水の蒸散は切り離して考えることができない。
グレアム・ファーカー博士らは、炭素同化酵素であるルビスコの反応が光合成の律速要因として重要であることに注目して、光合成の機能モデルを開発した。1980年に発表されたこのモデルは、細胞や個葉から森林生態系まで広く応用され、植生と大気間の二酸化炭素交換の環境応答を数値解析することを初めて可能にした。このモデルは、農地、草原、森林などの多様な植生が人間活動による大気中の二酸化炭素増加にどのように応答するか、また、その応答は水の供給や温度にどのように影響されるか、などを解明するための光合成反応のモデル解析に広く使われている。特に、現行の陸域生物圏炭素循環モデルのほとんどに組み込まれており、気候変動科学においてはなくてはならない存在である。
さらに、陸上植物の光合成や蒸散において、炭素と酸素の安定同位体が分別される反応も数理モデル化した。これらの光合成の機能モデルは、その後の植物科学、農学、環境科学、古生物学(年輪解析)、生態系生態学(同位体を用いた食物連鎖の解析)などに広く利用されている。また、ファーカー博士自身も植物科学と環境科学において現在に至るまで活発に研究の前線で活躍を続けている。農学分野への貢献としては、博士は自ら開発した光合成の機能モデルを用いて水分欠乏に強い小麦やピーナッツの選抜に成功し、それらの研究は水利用効率の鍵遺伝子の同定にもつながった。
また、ファーカー博士は、京都議定書を採択した気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)にオーストラリア代表および科学アドバイザーとして参加し、IPCCのメンバーとして気候変動の科学と緩和・適応政策の発展にも大きな貢献を果たしてきた。
このように、過去40年近くにわたって、ファーカー博士は環境科学と気候変動科学の発展に寄与してきた。今後、気候変動の科学がますます重要度を増す中、博士の光合成の機能モデルは世界規模でのさらなる貢献を続けるであろう。
以上の理由によって、グレアム・ファーカー博士に基礎科学部門における第33回(2017)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

マジカル・ミステリー・ツアー:物理学・応用数学から植物生理学へ

十代の初め頃からずっと、生物物理学者になりたいと言い続けていました。それは一つには、他人と違うように見せたい、大人びて見せたいと思ったからですが、新たに発展しようとしている分野を経験したいという気持ちもありました。その気まぐれな関心が、結局は本当に好きなことへと成長したわけですが、その途上で脇見をしなかったわけではありません。博士課程の前に三つの大学に行ったこともそうですが、博士課程を履修し始めたちょうどその時期にバレエを習い始め、見方によっては、それも脇見をしたことになるかもしれません。ダンスと科学はよく似ていています。技術の習得が重視されることや、振付家と研究室長の役割もよく似ていますし、創造性が魔法のように降って湧くという面もあります。実際に、ダンスは私の科学研究に力を貸してくれました。時間の効率的な配分を余儀なくされ、健康を保つことができ、実験で気持ちが落ち込んだときに気分を晴らしてくれ、また、巧みに実行された想像力溢れる企画に対する尊敬の念を育んでくれたのです。もちろん、交際範囲も広がり、固い友情も生まれました。40歳でダンスをやめ、18ヘクタールの田舎の土地に引っ越し、カンガルー、ハリモグラ、ウォンバットなどが楽しみになりました。また、3人の子育てはとてもやりがいのあることでした。その間ずっと、光合成、植物と水の関係、生態系と進化、経済性の諸側面と最適制御理論など、さまざまなことに思考を巡らせ、私に「趣味人(ディレッタント)」というレッテルを貼る人もいました。しかし、陸上植物は経済的に水と二酸化炭素を交換しているのか、という問題を考えるにあたって、それらすべてがその所を得てひとつにまとまりました。金持ちの経済的なお金の使い方は、貧しい人の経済的なお金の使い方とは違います。植物でも同じで、植物では豊富な水分供給が豊かさに相当します。長い時間をかけて、大胆な植物と用心深い植物をいかに識別するかを考えました。その結果、葉に含まれる重い炭素の安定同位体の量と、大気中の二酸化炭素に含まれる量とのわずかな違いを測定することで、それを識別できることがわかりました。素晴らしい! 数々の偶然の間をジグザグにたどった結果と見るか、深慮遠謀の成果と見るか、どちらにせよ、科学は私にとって大きな楽しみの源泉であり、何にも代えがたいものです。

【関連情報】
記念講演録全文(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

植物の生き方を知り地球環境の変化を予測する

From Understanding Plant Life to Projecting Changes of Global Environments

日時
2017年11月12日(日)13:00~16:50
場所
国立京都国際会館
企画・司会
巌佐 庸 [九州大学 教授]
主催
稲盛財団
後援
京都府、京都市、NHK
協賛
個体群生態学会、種生物学会、日本光合成学会、日本作物学会、日本植物学会、日本植物生理学会、日本数理生物学会、日本生態学会、日本地球惑星科学連合

プログラム

13:00
開会挨拶 巌佐 庸
13:05
受賞者紹介 北島 薫 [京都大学 教授]
13:20
受賞者講演 グレアム・ファーカー [基礎科学部門 受賞者]
「水分と二酸化炭素の交換にあたって、陸生植物は経済的だろうか?」
14:25
講演 寺島 一郎 [東京大学 教授]
「CO2濃度の増加が葉の光合成と蒸散に及ぼす影響」
14:55
休憩
15:15
講演 半場 祐子 [京都工芸繊維大学 教授]
「植物生理生態学における炭素安定同位体の利用」
15:45
講演 伊勢 武史 [京都大学 准教授]
「シミュレーションで予測する地球温暖化と生態系のかかわり」
16:15
講演 佐竹 暁子 [九州大学 准教授]
「森が色めく季節を遺伝子発現から知る」
16:50
閉会
PAGETOP