2010年思想・芸術部門美術(絵画・彫刻・工芸・建築・写真・デザイン等)
ウィリアム・ケントリッジ 写真

ウィリアム・ケントリッジ
(William Kentridge)

  • 南アフリカ / 1955年4月28日
  • 美術家

素描とアニメーション等を融合させた新しい表現メディアを創出し、独自の世界を切り拓いた芸術家

素描という伝統的技法をアニメーションやビデオ・プロジェクション等の多様なメディアの中に展開させながら、諸メディアが重層的に融合する現代的な新しい表現メディアを創り出し、社会と人間存在に対する深い洞察を豊かなポエジーをもって表現する独自の世界を創始した。

プロフィール

略歴

1955年
南アフリカ ヨハネスブルグ生まれ
1975年
ジャンクション・アヴェニュー劇団に所属
1976年
ウィトワーテルスラント大学 学士号(政治学・アフリカ研究)
1976年
ヨハネスブルグ美術財団で学ぶ
1978年
ヨハネスブルグ美術財団でエッチングの指導を行う
1981年
パリのエコール・ジャック・ルコック国際演劇学校でパントマイムと演劇を学ぶ
1982年
テレビシリーズや長編映画のアートディレクターとして働く
1989年
アニメーション<ソーホー・エクスタイン>シリーズの第1作目を完成
1992年
ハンドスプリング人形劇団との共同制作を開始
2005年
『魔笛』の監督、アニメーション制作、舞台美術を担当
2009年
タイム誌の「タイム100―最も影響力のある世界の100人」に選ばれる
2010年
ドミートリイ・ショスタコーヴィチのオペラ『鼻』の演出、アニメーション制作、舞台美術を担当

主な受賞と栄誉

2000年
カーネギー賞、カーネギー美術館
2003年
カイザーリング賞、メンヒェハウス美術館
2008年
オスカー・ココシュカ賞、オーストリア連邦政府

主な作品

1989年

ヨハネスブルグ、パリの次に素晴らしい都市

1991年

鉱山/私のもの

1994年

流浪のフェリックス

1997年

ユビュ、真実を暴露する

1999年

ステレオスコープ

2002年

ゼーノの筆記

2003年

ジョルジュ・メリエスに捧げる7つの断片

2008年

俺は俺ではない、あの馬も俺のではない

贈賞理由

素描とアニメーション等を融合させた新しい表現メディアを創出し、独自の世界を切り拓いた芸術家

ウィリアム・ケントリッジ氏は南アフリカ共和国に生まれ、ヨハネスブルグを拠点に活動する美術家であり、舞台監督や著述家としても幅広く活動を続けている。大学で政治学を修めた後、演劇、映画制作などの経験を経て、30代後半の1980年代末から「動くドローイング」とも呼べるアニメーション・フィルムの制作を開始した。その作品は、彼が生まれ育ち、現在も自覚的に居住し続ける南アフリカの歴史と社会状況を色濃く反映しており、なかでも自国の歴史を痛みと共に語る初期の〈ソーホー・エクスタイン〉の映像シリーズは、ポストコロニアル批評と共鳴する美術的実践として、世界中から大きな注目を集めた。

ケントリッジ氏は、自身が「石器時代の映画制作」と呼ぶ素朴な制作技法、すなわち、木炭やパステルで描くドローイングの変化の過程を1コマ毎に撮影する膨大な作業を通じて、素描という伝統的技法を、アニメーションやビデオ・プロジェクション、舞台の美術装置など多様なメディアの中に展開させ、諸メディアが重層的に融合する現代的な新しい表現メディアを創り出した。また、特定の地域の歴史や社会状況を題材としながらも、深い洞察力と人間存在の本質を見つめる視点によって、その表現は世界各地の一人ひとりが直面する根源的問題を考えることのできる作品としての普遍性を獲得している。

ケントリッジ氏の作品とその幅広い活動は、個人が世界との関係をいかに築くか、善意と抑圧の両義性、矛盾し分裂した個人の精神など、近代人が直面してきた普遍的な問題を絶えず問い続け、視覚表現の歴史を遡行しながら検証しようとする強靭な意志に貫かれている。南アフリカという辺境に位置しながら、欧米の美術界の動向や批評にも多大な影響を与えているケントリッジ氏の存在と、鋭い知性と豊かなポエジーとを併せ持つその世界は、多くの美術家たちに強い影響を与えると同時に、世界中の幅広い鑑賞者に、様々な政治的、社会的な難題が渦巻く現代の社会的閉塞感の中においても、なお個人の挑戦と実践が有効であり基本であるという希望と勇気を与え続けている。

以上の理由によって、ウィリアム・ケントリッジ氏に思想・芸術部門における第26回(2010)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

この世界とともに -ヨハネスブルグ物語-

見るという行為は、構築の行為でもある。

私は、生まれてからずっとヨハネスブルグに住んでいて、学校、大学、住居、家屋、スタジオ、それらのすべてが、相互に半径6キロメートル以内にあります。私の作品は街のイメージを描き、街の歴史の影響を受けています。本日の講演では、街の歴史と美術家として成長していく自分自身の歴史という2つの歴史をたどります。つまり、私のイメージ創造への姿勢における重要な要素が、どのようにして50年以上にわたるこの街での具体的な成長体験から生まれてきたのかを明らかにします。

ヨハネスブルグは、隠されたもので特徴づけられる街です。この街の「存在意義」は、地下に埋蔵されている金です。街は掘削で作られ、景観は鉱山とその屑山で形作られています。私の素描の特徴である連続した変化と消し跡は、この街を理解するための掘削と考古学の反映でもあります。終生にわたる素描活動は、ずっと住み続けてきた街を理解するためのプロセスとなっています。また、この街は、他のゴールドラッシュに見舞われた街と同様に、移住者による国際色豊かな街でもあります。この街の大きな強みと2人の偉大な市民であるマハトマ・ガンジーとネルソン・マンデラの存在は、歴史、文化、そして知性が混在することの強さと必要性を証明しています。世界の中で矛盾し雑多なものから意味あるものを創り出すという行為は、私が映像と物語の両方を結びつける方法にとって不可欠であり、誤解と誤訳のもつ生産的なパワーについての私の確信を例証しています。

変遷する街の政治史を振り返りますと、当面の、そしてより大きな世界が、決して与えられるものではなく、常に作り変えられるものであることが解ります。この世界は、現実の場所というより、暫定的で変化する場所であります。この消すことと変化させることは、私の作品の中核を成しています。

講演では、個人的なこと、家族のこと、そして私の世界観の美術的構築に触れ、どのようにして、私という人物が、この世界で経験したことによって形成される一方で、それによってもう一つの世界を作っているのかを追いかけてみたいと思います。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

2, 3, 4次元パフォーマンスとしての多視的なドローイング

Resist the Single-Point Perspective! Drawings as Performances in Two, Three and Four Dimensions

日時
平成22年11月12日(金)13:00~16:30
場所
国立京都国際会館
監 修
高階 秀爾[(審査委員会 委員長)大原美術館 館長]
企画・司会
河本 信治[(専門委員会 委員)京都国立近代美術館 特任研究員]
企画協力
永田 絵里
主催
財団法人 稲盛財団
後援
京都府、京都市、NHK
協賛
南アフリカ共和国大使館

プログラム

13:00
開会挨拶受賞者紹介 高階 秀爾
ワークショップ 第一部:ドローイング/物語(歴史)
第二部:映像/アニメーション
第三部:演劇/文学
受賞者レクチャー:ウィリアム・ケントリッジ[思想・芸術部門 受賞者]
パネル討論 司会:河本信治
パネリスト:ウィリアム・ケントリッジ
       高階 秀爾
       仲正 昌樹[金沢大学 大学院人間社会環境研究科 教授]
       土居 伸彰[早稲田大学 演劇映像学連携研究拠点 研究助手]
       森山 直人[京都造形芸術大学 芸術舞台学科 准教授]
16:30
閉会
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