1996年思想・芸術部門思想・倫理
ウィラード・ヴァン・オーマン・クワイン 写真

ウィラード・ヴァン・オーマン・クワイン
(Willard Van Orman Quine)

  • アメリカ / 1908年-2000年
  • 哲学者
  • ハーバード大学 名誉教授

全体論的知識論の立場から、分析・総合の区別を破棄し、認識論を自然化することによって、現代哲学の発展に多大な貢献を果たした哲学者

認識論から言語哲学・科学哲学の広い分野にわたって数々の洞察に満ちたきわめて刺激的な議論を展開し、20世紀後半の新たな哲学のパラダイムを創出した論理学、分析哲学、言語哲学の第一人者である。
[受賞当時の部門 / 対象分野: 精神科学・表現芸術部門 / 哲学・思想]

プロフィール

略歴

1908年
アメリカ、オハイオ州アクロンに生まれる
1930年
オバーリン大学卒業、数学専攻
1932年
ハーバード大学哲学科で博士号取得、ホワイトヘッド教授の指導のもと論理学専攻
1948年
ハーバード大学 哲学科 教授
1957年
アメリカ哲学連合会東部地区 会長
1978年
ハーバード大学 名誉教授

主な受賞と栄誉

1948-1978年
ハーバード大学フェロー
1956-1959年
プリンストン高等研究所フェロー
1970年
バトラーゴールドメダル、コロンビア大学
1991年
フランチセック・ポラッキゴールドメダル、チェコ共和国
1993年
ロルフ・ショック賞哲学部門、スウェーデン
1993年
チャールズ大学シルバーメダル、プラハ
名誉博士:
オバーリン大学、ワシントン大学、シカゴ大学、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、他
会員:
アメリカ哲学協会、アメリカ科学アカデミー、他

主な論文・著書

1950年

Methods of logic(邦訳『論理学の方法』)

1951年

Two Dogmas of Empiricism(邦訳『経験主義の二つのドグマ』)

1953年

From a logical point of view(邦訳『論理的観点から』)

1960年

Word and Object(邦訳『ことばと対象』)

1970年

Philosophy of logic(邦訳『論理学の哲学』)

1974年

The roots of reference(邦訳『指示の根』)

贈賞理由

全体論的知識論の立場から、分析・総合の区別を破棄し、認識論を自然化することによって、現代哲学の発展に多大な貢献を果たした哲学者

ウィラード・ヴァン・オーマン・クワイン博士は分析哲学の巨頭として、論理学、認識論、科学哲学、言語哲学の分野にわたって数々の洞察に満ちた理論を提示し、今世紀における哲学の前進のために卓絶した貢献を行った。

クワイン博士はまず数理論理学・集合論の領域で、B・ラッセルの論理体系を形式的にさらに単純化するという画期的な業績をあげた。そしてその後、ヨーロッパの論理実証主義と活発な思想的交流を行うとともに、それをアメリカのプラグマティズムの伝統に則って根本的に改変し、従来の経験論の徹底した形態ともいうべき独創的な全体論的哲学を構築するに至った。すなわち、博士は科学理論における仮説の検証が、従来の経験論で前提されていたように、一つの文だけで孤立して経験的事実とつきあわされるのではなく、ひとまとまりの文体系である理論全体として事実と照合されることを指摘した(クワイン=デュエム・テーゼ)。この全体論的知識論によれば、論理実証主義がその認識論において前提していたような、経験とは独立にその真理が定まる「分析的命題」(数学や論理学の命題)と、経験によってのみその真理が定まる「総合的命題」(経験的命題)の区別は、維持できないことになる。こうした分析的-総合的の区別は、合理論哲学やカントの批判哲学にも共有されていた理論的前提であるから、博士の指摘は、西洋の近世認識論の伝統に根本的な批判を投げかけるという意義を持っている。博士はこうした従来の認識論に代わるべきものとして、哲学を自然科学と連続的な理論的営みと捉える視点を提唱したのである。(「自然化」された哲学)。さらに博士は、互いに未知の言語間で翻訳が行われる場合には、経験的には等価だが、論理的には両立不可能な複数の翻訳マニュアルが存在しうることを指摘した(翻訳の不確定性テーゼ)。この言語哲学上の洞察は、語の意味や対象の指示にまつわる根本的な問題を提起すると同時に、文化の相対性や相互理解といった幅広い問題に、論理的な論拠を提供するという役割を果たした。

以上のような、緻密な論理分析に支えられたクワイン博士の業績は、哲学の根幹にかかわる議論の活性化、深化に大きく寄与したものであり、現代の哲学はクワイン博士の名を抜きにしては語りえない。よって、クワイン博士に精神科学・表現芸術部門の第12回京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

思想の明晰な簡素化

子供の頃地図に興味を持っていたため、構造と精密さを好むようになり、また世界に対する好奇心を持つようになった。数学が得意になり、また言語と哲学にも関心を持つようになった。大学では数学を専攻し、数理論理学で優等の成績をとった。この科目はアメリカでは人気がなかったが、ゲーデルの定理とコンピューター理論のおかげで一躍脚光を浴びることになった。ホワイトヘッドとラッセルは、数学をいくつかの論理記号と集合論に還元したが、私はその厳格さと簡素さに魅せられた。タルスキーやゲーデルと同じく、私はそれを強めさえした。

概念を定義によって還元するとともに、ホワイトヘッドとラッセルは定理を公理に還元した。すると、矛盾におちいる恐れが生じる。これは、それ自身ではない成員によってのみ成り立つ集合というラッセルの逆説にみられる。彼の解決は、文法を複雑化し、数学の対象を無限に倍加させることになった。私は彼の解決から、これらの欠点を取り除いた。これは体系を強化したが、再び矛盾を生じる恐れを招いた。しかしこれまでに矛盾は発見されていない。

こうした逆説とゲーデルの定理は、初等論理学と比較した場合の集合論の力を明らかにする。数学が論理学に還元されるという言い方は誤解を招く恐れがある。論理学と集合論に還元される、と言うべきである。

集合やその他の抽象的な対象を仮定するのを好まない人もいる。しかし、対象を仮定するというのはどういうことなのであろうか。それは直接に指定するのではなく、指定された種類の指定されない対象を、繰り返し指示するということである。これにより、科学に構造が与えられる。科学は集合を必要とするが、属性や意味は必要としない。これらには、同一性と相違について困難な点がある。

私は人生のなかばで、論理数学上の研究を一応完結させ、関心を自然科学の哲学に向けるようになった。しかし自然科学やその哲学でも、「思想の明晰な簡素化」が私の指針である。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

言語・ホーリズム・自然主義

Language, Holism, and Naturalism

日時
1996年11月12日(火)13:00~17:20
場所
国立京都国際会館
企画・司会
小林 道夫 精神科学・表現芸術部門専門委員会委員、大阪市立大学文学部教授 野家 啓一 精神科学・表現芸術部門専門委員会委員、東北大学文学部教授

プログラム

13:00
挨拶 稲盛 豊実 稲盛財団常務理事
挨拶 吉田 夏彦 科学基礎論学会理事長、立正大学文学部教授
挨拶 藤澤 令夫 精神科学・表現芸術部門審査委員会委員長、京都国立博物館館長
13:10
受賞者紹介 大出 晁 創価大学文学部教授
13:25
記念講演 ウィラード・ヴァン・オーマン・クワイン 精神科学・表現芸術部門受賞者
「本能・物化・外延性」
14:25
座長 石黒 ひで 精神科学・表現芸術部門審査委員会員、慶應義塾大学文学部教授
講演I 飯田 隆 千葉大学文学部教授
「数と個体化」
14:55
座長 神野 慧一郎 摂南大学経営情報学部教授
講演II 丹治 信春 東京都立大学人文学部教授
「観察文の理論負荷性」
15:25
質疑応答
15:45
休憩
16:00
座長 竹尾 治一郎 関西大学文学部教授
講演III 浜野 研三 名古屋工業大学工学部教授
「自然主義と規範」
16:30
座長 坂本 百大 日本大学文理学部教授、日本科学哲学会会長
講演IV 冨田 恭彦 京都大学総合人間学部助教授
「物象化と自然主義」
17:00
質疑応答
17:20
閉会
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