2015年先端技術部門材料科学
國武 豊喜 写真

國武 豊喜
(Toyoki Kunitake)

  • 日本 / 1936年2月26日
  • 化学者
  • 公益財団法人 北九州産業学術推進機構 理事長

合成二分子膜の発見による分子組織化学の創出と材料科学分野への先駆的貢献

人工分子から生体膜の基本構造である二分子膜が自己組織的に形成されることを世界ではじめて報告し、更にこれが広範な有機溶媒中の両親媒性化合物に起こる普遍的な現象であることを見出した。またこれらの体系化と様々な合成技術の開発により、分子組織化学という新たな学問潮流の創出に本源的に貢献した。

プロフィール

略歴

1936年
福岡県久留米市生まれ
1962年
ペンシルベニア大学 博士号(化学)
1962年
カリフォルニア工科大学 博士研究員
1963年
九州大学 工学部 助教授
1974年
九州大学 工学部 教授
1999年
理化学研究所 フロンティア研究システム 時空間機能材料研究グループ グループディレクター
2001年
北九州市立大学 副学長
2007年
株式会社 ナノメンブレン 取締役
2009年
公益財団法人 北九州産業学術推進機構 理事長

主な受賞と栄誉

1978年
高分子学会賞
1990年
日本化学会賞
1998年
高分子科学功績賞
1999年
紫綬褒章
2001年
日本学士院賞
2007年
文化功労者に認定
2011年
瑞宝重光章
2014年
文化勲章
会員:
日本化学会、日本工学アカデミー、日本高分子学会

主な論文

1977
A Totally Synthetic Bilayer Membrane (T. Kunitake and Y. Okahata), J. Am. Chem. Soc. 99: 3860−3861, 1977.
1981
Formation of Stable Bilayer Assemblies in Water from Single-Chain Amphiphiles. Relationship between the Amphiphile Structure and the Aggregate Morphology (T. Kunitake et al.), J. Am. Chem. Soc. 103: 5401−5413, 1981.
1992
Synthetic Bilayer Membranes: Molecular Design, Self-Organization, and Application (T. Kunitake), Angewandte Chemie International Edition in English 31: 709−726, 1992.
1995
Assembly of Multicomponent Protein Films by Means of Electrostatic Layer-by-Layer Adsorption (Y. Lvov et al.), J. Am. Chem. Soc. 117: 6117−6123, 1995.
1997
Assembling Alternate Dye-Polyion Molecular Films by Electrostatic Layer-by-Layer Adsorption (K. Ariga et al.), J. Am. Chem. Soc. 119: 2224−2231, 1997.
贈賞理由

合成二分子膜の発見による分子組織化学の創出と材料科学分野への先駆的貢献

國武豊喜博士は、1977年に人工分子から生体膜の基本構造である二分子膜が自己組織的に形成されることを世界ではじめて報告した。その後の一連の独創的な研究によって、二分子膜の形成が広範な分子構造を有する両親媒性化合物について、水中のみならず有機溶媒中においても認められる普遍的な現象であることを確立した。このように、合成二分子膜の形成機構を独自の研究理念を通じて体系化し、さらに二分子膜固定化技術ならびに自己組織化材料創製技術を開発して、今日、隆盛を極める分子組織化学という新たな学問潮流を生み出すことに本源的な貢献をなした。

國武博士による合成二分子膜の研究は、「生体膜のような分子レベルの秩序組織構造は生体脂質によってのみ形成される」とする考えを覆す業績であり、自己組織化によって階層的に生み出される分子組織構造ならびにその物性と構成分子の構造の相関を、分子デザインに基づいて理解することを初めて可能にした。分子の自己組織化を水中のみならず有機媒体中にも拡張したことにより、それまでの両親媒性の概念を、より一般的な上位概念である「親媒性/疎媒性」に書き換えた。また二分子膜中において、高度な秩序構造に由来する特異的な官能基間相互作用が発現することを明らかにし、それらを分子レベルで制御する分子組織化学の基本概念を確立した。さらにこれらの基礎研究に基づき、材料科学分野のイノベーションを先導した。その主な業績として、(1)種々の二分子膜固定化法を開発し、精密組織膜を実現した。固定化された二分子膜は、臨床検査用の全自動電解質分析装置(医療・臨床検体検査)の電極に応用されている。(2)有機分子組織体を鋳型とする二次元高分子・二次元シリカ超薄膜の合成をはじめて実現した。(3)近年では極限的な薄さ(約15nm)を有し、十分な強度と柔軟性を兼ね備えた自立性巨大ナノ薄膜の作製手法を開発した。現在、燃料電池の開発をはじめ、広汎な分野への応用が期待されている。

以上のように、國武博士は、先端材料設計の最も重要な概念の一つとして広く認められている「分子組織化学」の概念、ならびに自己組織化を基礎とする材料科学の基盤を確立するとともに、当該分野で優れた人材を数多く育成し、国際的な学術交流にも大きく貢献している。

以上の理由によって、國武豊喜博士に先端技術部門における第31回(2015)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

私の歩んだ道 ―研究に魅せられて

私は平凡な子供時代を過ごしました。両親は福岡県久留米市で食料品店を営んでいました。父親は教育熱心で、私が机に向かっているとなにも云いませんでしたが、遊ぼうとするとすぐに家の手伝いを命じました。小学生から中学生にかけても、机に向かうことを家の手伝いから逃げる言い訳としていた記憶があります。好奇心が強く天邪鬼の傾向のある子供でした。中学生の頃より、読書に夢中になりました。両親の目を盗んで手当たり次第冒険小説などを読みふけっていました。

高校3年になり大学進学が差し迫るまで、どのような分野に進むのか真剣に考えていませんでした。父親は堅い職業と見て私が薬剤師になることを望みましたが、私は気が進まず工学部の応用化学への進学で折り合いました。大学4年の卒業研究で、初めて研究の現場に身を置きました。仮説を立てて実験する、その通りにならないと新しい仮説を立てて試みる、この繰り返しです。この謎解きの面白さに引き込まれてしまい、研究開発を一生の仕事にしたいと心に決めました。

九州大学で修士課程を終えた後いくつかの事情が重なりフルブライト留学生として米国のペンシルバニア大学の博士課程で勉強しました。日米の生活格差が大きかった1960年のことです。さらに西海岸のカリフォルニア工科大で博士研究員を務めてから、九州大学工学部合成化学科のメンバーとなりました。それ以来1999年に定年で辞めるまで36年間同じ場所で過ごしました。

九州大学での学生時代の研究分野は新しいプラスチック材料の合成でした。石油化学の発展で、新しいプラスチックが次々に開発されていた時代です。助教授時代、この合成は引き続き大事な研究テーマでしたが、生物の体内で起こっている絶妙な化学にも関心がありました。二つの分野が交わるテーマとして研究したのが酵素モデルでした。その延長として合成二分子膜の研究が生まれ、分子組織化学へと広がっていきました。

【関連情報】
記念講演録全文(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

分子組織化学の創出と新たな展開

Development of Chemistry Based on Molecular Self-Assembly and Its Future Prospects

日時
2015年11月12日(木)13:00~17:10
場所
国立京都国際会館
企画
梶山 千里 [福岡女子大学 理事長・学長] 黒田 一幸 [早稲田大学 教授] 君塚 信夫 [九州大学 教授]
司会
君塚 信夫
主催
公益財団法人 稲盛財団
後援
京都府、京都市、NHK
協賛
科学技術振興機構、光化学、高分子学会、錯体化学会、繊維学会、電気化学会、日本化学会、日本分析化学会、日本膜学会、日本油化学会、有機合成化学協会(五十音順)

プログラム

13:00
開会挨拶・受賞者紹介 梶山 千里
13:15
受賞者講演 國武 豊喜 [先端技術部門 受賞者]
「合成二分子膜と分子の組織化」
14:15
休 憩
14:30
講 演 ヤコブ・サギフ [ワイツマン科学研究所 教授]
「自己組織化シラン単分子膜のパターニング: デザイン可能なナノスケール機能性材料」
15:20
講 演 黒田 一幸
「分子集合構造を利用したメソ多孔体合成と展開」
16:10
講 演 マリー=ポール・ピレニー [ピエール・エ・マリー・キュリー(パリ第6)大学 特別教授]
「ナノ超結晶:新しいチャレンジ」
17:00
閉会挨拶 君塚 信夫
17:10
閉 会
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