2011年基礎科学部門地球科学・宇宙科学
ラシッド・アリエヴィッチ・スニヤエフ  写真

ラシッド・アリエヴィッチ・スニヤエフ
(Rashid Alievich Sunyaev)

  • ロシア・ドイツ / 1943年3月1日
  • 宇宙物理学者
  • マックス・プランク宇宙物理学研究所 所長/ロシア科学アカデミー 宇宙科学研究所 チーフサイエンティスト

膨張宇宙を探索する宇宙背景放射揺らぎ理論の提出と高エネルギー天文学への多大な貢献

宇宙背景放射の温度揺らぎに刻印された初期宇宙の音波振動や宇宙背景放射の銀河団中の熱い電子ガスによる散乱の理論的研究によって、現代の観測的宇宙論へ大きな影響を与えるとともに、高密度天体への物質降着とエネルギー放出機構の理論的研究や国際的観測プロジェクトの主導により高エネルギー天文学へも多大な貢献をしている。

プロフィール

略歴

1943年
ウズベキスタン タシケント生まれ
1973年
モスクワ大学 理学博士号
1971年
ソ連科学アカデミー 応用数学研究所 上級研究員
1975年
モスクワ物理工科大学 教授
1982年
ロシア科学アカデミー 宇宙科学研究所 チーフサイエンティスト
1996年
マックス・プランク宇宙物理学研究所 所長
2010年
プリンストン高等研究所 客員教授

主な受賞と栄誉

1989年
ブルーノ・ロッシ賞、アメリカ天文学会
1995年
ゴールド・メダル、王立天文学会
1998年
サー・マッセイ・ゴールド・メダル、王立協会/COSPAR
2000年
ブルース・ゴールド・メダル、太平洋天文学会
2003年
ダニー・ハイネマン賞、アメリカ天文学会
2003年
グルーバー賞、グルーバー財団
2008年
クラフォード賞、クラフォード財団
2008年
シュヴァルツシルト・メダル、ドイツ天文学会
2009年
キング・ファイサル国際賞、キング・ファイサル財団
会員
ロシア科学アカデミー、米国科学アカデミー、王立協会、米国芸術科学アカデミー、レオポルディナドイツ科学アカデミー、オランダ王立芸術科学アカデミー

主な論文

1970年

Small-scale fluctuations of relic radiation (with Zeldovich, Yakov B.). Astrophysics and Space Science 7: 3-19, 1970

1972年

The observations of relic radiation as a test of the nature of X-ray radiation from the clusters of galaxies (with Zeldovich, Yakov B.). Comments on Astrophysics and Space Physics 4: 173-178, 1972

1973年

Black holes in binary systems. Observational appearance (Shakura, Nikolai I. and Sunyaev, Rashid A.). Astronomy and Astrophysics 24: 337-355, 1973

1980年

Comptonization of X-ray in plasma clouds. Typical radiation spectra (with Titarchuk, Lev G.). Astronomy and Astrophysics 86: 121-138, 1980

1987年

Discovery of hard X-ray emission from supernova 1987A (Sunyaev, Rashid A. et al). Nature 330: 227-229, 1987

贈賞理由

膨張宇宙を探索する宇宙背景放射揺らぎ理論の提出と高エネルギー天文学への多大な貢献

ラシッド・アリエヴィッチ・スニヤエフ博士の第一の貢献は、近年、精密科学のレベルに達した観測的宇宙論を支える理論への貢献である。1970年、スニヤエフ博士はヤーコフ・ゼルドヴィッチ博士との論文で、熱い宇宙初期の水素再結合時に到る物理過程を考察し、原始的な密度揺らぎによる音波振動の存在が宇宙背景放射の強度揺らぎとして観測されることを明らかにした。

宇宙の膨張で温度が低下し、陽子と電子は水素原子に結合し、熱放射は物質との作用が切れて宇宙は晴れ上がり、現在、当時の熱放射は宇宙背景放射として観測されている。したがって、この宇宙背景放射には原始的揺らぎとその後に通過した時空の情報が刻印されている。スニヤエフ博士らが予言した原始的揺らぎに伴うバリオン音波振動は2003年になって観測衛星WMAPにより観測され、これによっても加速膨張を発見するなど、宇宙モデルの決定に大きな役割を果たした。膨張宇宙モデルのパラメーターをバリオン音波振動の観測で決めることを提唱したのは博士らの先駆的な功績である。

現在の宇宙には銀河団が散在するが、宇宙背景放射がこの銀河団を通過する際に、熱い電子ガスとの衝突によって、そのスペクトルが変形することが1972年にスニヤエフ博士らにより示された。現在、SZ効果と呼ばれるこの効果の今後の観測は宇宙の大規模構造を解明する重要な観測原理になっていくと考えられている。

スニヤエフ博士の第二の業績は高エネルギー天体の研究に対する大きな貢献である。X線天体の発見によりその正体とX線放射機構が問われたが、1973年、スニヤエフ博士はニコライ・シャクラ博士と共に、ブラックホール等の高密度天体に物質が降着する機構を定式化し、そのエネルギー放射量とスペクトルを定量的に解明した。この理論はシャクラ-スニヤエフの標準モデルとよばれ、多様な天体への物質降着とそれに伴うエネルギー放射を記述する出発点になっている。

スニヤエフ博士は1980年代後半からは高エネルギー天文学の観測的研究にも活動を拡げ、ロシア及びヨーロッパのX線・γ線天文衛星プロジェクトを主導しており、多くの共同研究者を束ね、各種天体からの硬X線、軟γ線放射の生成機構を解明し、高エネルギー天文学の発展に寄与を続けている。

以上の理由によって、ラシッド・アリエヴィッチ・スニヤエフ博士に基礎科学部門における第27回(2011)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

宇宙物理学・宇宙論の革命50年 ~ 一科学者の目を通して ~

私は、旧ソビエト連邦、かつてのシルクロードの多民族都市で、第二次世界大戦の最中に生まれました。そして、17歳の時に物理学を学ぶためにモスクワに行きました。高名なソビエトの物理学者、ヤーコフ・ゼルドヴィッチ先生との出会いは私の人生を根底から変えました。なぜなら、

1. 積極的で、勤勉で、そして非常に気さくな偉大な科学者と仕事をできる機会を得たこと、
2. そして、その前の指導教官たちから役に立たない科学と言われていた高エネルギー宇宙物理学と宇宙論の研究に導かれたからです。

これは非常に幸運な一歩でした。60年代前半までの天文学の進展は比較的遅かったのですが、60年代半ばになると、ほとんど毎年のように大きな発見が続いたからです。この過去50年間の大きな発見には次のようなものがあります。

1. 宇宙全体を満たす宇宙マイクロ波背景放射。その角度分布や周波数スペクトルには、宇宙全体の基本的性質に関する多くの情報が含まれている。
2. 宇宙論的距離にある準恒星状電波源(クエーサー)。あらゆるスペクトル帯で観測される超高輝度放射は、遠方銀河核にある超大質量ブラックホールへの物質降着によるものと、今日私たちは理解している。
3. 電波パルサー。強い磁場を持ち、高速で自転する中性子星。
4. ガンマ線バースト。数秒間にわたって天空すべてからの放射総量よりも明るいガンマ線を放射する。
5. 物質降着する恒星質量ブラックホールと中性子星。表面での準規則的な核爆発を伴う。
6. 太陽系外惑星。これは太陽系惑星の起源や特異性の理解を深める道を開いた。
7. 宇宙誕生期のインフレーションの証拠と暗黒エネルギーと暗黒物質の存在の証拠。但し、まだ誰も地上実験でその存在検知に成功していない。

私自身、これらの問題に熱心に取り組んでいる世界中の多くの観測天文学者、宇宙論者、そして理論宇宙物理学者を知っています。彼らの努力によって、科学者たちは新たに発見された現象の性質を理解したり、周知の物理学をもとにそれらを説明したりすることができました。しかし、より興味深いことは、理論家が新しい効果を予想し、放射線検出器技術の急速な進歩によってそれらの予想された出来事が実際に天空で観測されたことです。これらの一つ一つによって、私たちの宇宙に関する理解の正しさが確認されました。恩師のヤーコフ・ゼルドヴィッチ先生と私が共同で提案した効果の場合には、このような観測が可能になり現代宇宙論に役立つまでに40年以上の歳月が必要でした。私たちが予測した初期宇宙に存在した音波の痕跡が今後何十億年も天空で観測され続けるとは信じられない思いがします。また、大きな疑問があります。そのような先の時代にも地球上に観測者は存在しているのだろうか、と。

南極望遠鏡、チリの標高5千メートルの砂漠に設置されたアタカマ宇宙論望遠鏡、そしてプランク観測衛星が熱いガスを伴う銀河団の方向に“負”の電波源を数多く検知していることを、ヤーコフ・ゼルドヴィッチ先生がもはやお知りになれないことは残念なことです。

今や私たちは、宇宙について、そしてその性質やパラメーターについて多くのことを知るようになりました。それでも、まだ明らかにされていない多くの問題が残っています。私が関わっている科学分野、宇宙物理学と宇宙論は、この先少なくとも20年から30年は発展し続けるであろうと期待しています。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

観測的宇宙物理の進展:宇宙背景放射とX線天文学

"Proposal of the Theory of Fluctuations in the Cosmic Microwave Background Radiation to Explore the Expanding Universe, and Outstanding Contribution to High-Energy Astronomy"

日時
平成23年11月12日(土) 13:00~17:30
場所
国立京都国際会館
企 画
佐藤 文隆 [(審査委員会 委員長) 京都大学 名誉教授] 小山 勝二 [(専門委員会 委員長) 京都大学 名誉教授]
主催
公益財団法人 稲盛財団
後援
京都府、京都市、NHK
協賛
国立天文台、日本天文学会、日本物理学会

プログラム

司 会 佐藤 勝彦 [自然科学研究機構 機構長]
13:00
開会挨拶 受賞者紹介 佐藤 文隆
受賞者講演 ラシッド・アリエヴィッチ・スニヤエフ[基礎科学部門 受賞者]
「膨張宇宙再結合期の豊かで美しい物理機構」
講演 杉山 直 [名古屋大学 大学院理学研究科 教授]
「宇宙背景放射温度揺らぎの音響振動」
講演 嶺重 慎 [京都大学 大学院理学研究科 教授]
「降着円盤:シャクラ-スニヤエフとその後の進展」
司 会 田中 靖郎 [マックス・プランク宇宙空間物理学研究所 客員教授]
講演 ユージン・チュラゾフ [マックス・プランク宇宙物理学研究所 主任研究員]
「スニヤエフ-ゼルドヴィッチ効果:理論と観測」
講演 牧島 一夫 [東京大学 大学院理学系研究科 教授]
「高エネルギー天体の観測研究」
講演 小山 勝二
「観測技術の進歩と高エネルギー天文学」
閉会挨拶 田中 靖郎
17:30
閉会
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