1989年思想・芸術部門音楽
ジョン・ケージ 写真

ジョン・ケージ
(John Cage)

  • アメリカ / 1912年-1992年
  • 作曲家

偶然性や非西欧的思想によって音楽の新しい地平を開いた作曲家

「偶然性の音楽」をもって、伝統的な西洋音楽に非西欧的音楽思想や音楽表現による大きな衝撃を与えるとともに、その音楽表現を現代音楽の主要な様式の一つに定着せしめ、終始、現代作曲界の最尖鋭部分の牽引力として自己変革の先頭に立ち、音楽家のみならず、舞踏家、詩人、画家、彫刻家、写真家など広い分野の芸術家に大きな影響を与えた現代アメリカを代表する作曲家である。
[受賞当時の部門: 精神科学・表現芸術部門]

プロフィール

略歴

1912年
カリフォルニア州ロサンゼルスに生まれる
1931年
ヘンリー・コウェルに現代音楽を学ぶ
1934年
U.C.L.A.にてアーノルド・シェーンベルグに師事
1945年
コロンビア大学にて鈴木大拙に禅を学ぶ(2年間)
1956年
ニューヨーク社会研究所にて講師を務める
1988年
ハーバード大学 詩学教授就任

主な受賞と栄誉

1949年
アメリカ芸術文学アカデミー協会賞
1951年
ウッドストック・フィルム・フェスティバル最優秀賞
1979年
カール・ズッカ賞
会員:
ウエスレヤン大学 高等研究センター、アメリカ芸術文学アカデミー協会、アメリカ芸術科学アカデミー

主な作品

1939年

『鋼鉄の音楽』、『想像の風景 第1番』

1943年

『アモーレス』

1947年

『四季』

1952年

『4分33秒』

1957年

『冬の音楽』

1961年

『イクリプティカリス地図』

1987年

『ユーロペラ』

贈賞理由

偶然性や非西欧的思想によって音楽の新しい地平を開いた作曲家

偶然性や非西欧的思想によって音楽の新しい地平を開いた作曲家

ジョン・ケージ氏は、20世紀のアメリカを代表する作曲家であるが、いまや世界的な存在である。

ケージ氏は、西洋音楽の世界の反逆児として1950年代の初めに彗星のようにデビューしたが、氏の出現とともにヨーロッパの音楽が一瞬にしてことごとく過去形の存在に変わったことは事実である。様式と作法とで厳しく仕切られ、音楽を人間の情感やロマンの従者としてだけ位置づける過去のやり方は、ケージ氏によって根本的に否定されることになった。

それでいて、ヨーロッパ文明の保守的な風圧に、ケージ氏は決して敗れはしなかったのである。20世紀の芸術のなかに、ケージ氏は、時代の精神を先取りする予言者であった。

氏の「偶然性」の音楽は以後、現代音楽の主要な様式のひとつとなって定着した。また、氏の行う「パフォーマンス」は、音楽とは元来、身振りや行為を伴うものであることを改めて人々に想起させ、その面でも第二次大戦後の作曲様式に多大の影響を与えた。

演奏以外の音のハプニングを予定した音づくりは、ひいては「サウンドスケープ」論のような裾野の広い音の思想にまでつながっていった。作曲家があらゆる音を支配し、そして聴衆は作曲家の知的な作業の追体験を強いられるという窮屈な音楽は、ケージ氏にとって無意味なことであった。バイオリンやフルートなどの古典的楽器だけが音楽を生むという通念も、氏にとってはナンセンスであった。音は自由に存在し、自由を意味し、そして自然音こそが音でなくてはならなかったのだ。

ケージ氏は、一時シェーンベルクについて十二音音楽を学び、その影響を反映した作品もある。しかし、インド音楽の思想や、鈴木大拙からの禅の影響を受け、次第に非西欧的な境地に向かった。禅だけでなく、易経など中国古典思想を深く学んでもいて、そこで合理主義的な予定調和の論理を否定する別の「現実」感覚を体得することにもなった。

ケージ氏の創造活動と芸術観は、まさに文化革命であった。それは、単に音楽の面での革命というよりは、思想革命であり、精神革命でもあった。だからこそ、ケージ氏の影響力は、音楽界の壁を超えて文化や思想の様々な領域に広く及ぶことになった。

このように、ケージ氏は、第二次世界大戦後の西洋音楽の自己変革の先頭に立ち、終始、作曲界の最尖鋭部分の牽引力であり続けてきている。その意味で、20世紀音楽を代表する音楽家として、京都賞を受けるにふさわしい存在であるといえよう。

記念講演

記念講演要旨

私の人間形成について

私はかつて歴史家のアラゴン氏に、歴史というものはどういうふうに書かれるのか、尋ねたことがあります。そのとき彼は「あなたが考え出すもんだよ」と言ったのでした。それで、こんどは私が、私の生活や作品に影響を与えた重大な出来事や、人の名を挙げなさいと聞かれたのですが、実際のところ、全ての出来事が、全ての人々が、そしていまなお私に影響を与え続けているあらゆる事柄が、とても大事なのだというしかないのです。

私の記念講演は自伝的なものですが、以上の出来事や人々のなかから、いくつかについてお話しするとともに、出来る限り広く、でもときには限定しながら、いかにそれらの出来事や人々が私の作品に影響を与えたかということをお伝えしたいと思います。

私は次のような文章で締めくくりたいと思います。

私たちはいま時代の移り変わりに生きています。多くの人々は、音楽がどのように使われるのか、また私たちに何が出来るのかということについて、考えを変えようとしているのです。音楽は人間のようにしゃべりませんし、辞書に出てくる定義や、学校で習う理論などを教えてくれるわけでもありませんが、それが振動であるということを通して、私たちにとても簡明に語りかけてきます。この揺れ動く状態に注意を払うということは、固定した理想的なパフォーマンス等というものにとらわれないで、そのときどきに注意深く、いま起こっていることがどうなっているのかということに耳を傾けることなのです。その状態は、2度と同じである必要はありません。音楽は聴衆を、本来的な瞬間に運んでくれるのです。

これが私の現在の考え方なのです。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

ジョン・ケージ イン 京都

John Cage in Kyoto

日時
1989年11月12日
場所
国立京都国際会館
司会
海老澤 敏 精神科学・表現芸術部門審査委員会委員、国立音楽大学学長

プログラム

10:30
挨拶 稲盛 和夫 稲盛財団理事長
10:35
開会の辞 矢野 暢 精神科学・表現芸術部門審査委員会委員長、 京都大学教授
10:45
講演 ジョン・ケージ 精神科学・表現芸術部門受賞者
「作曲を回顧して」
11:30
記念演奏 「龍安寺」
打楽器・山口 恭範
ひちりき・東儀 兼彦、溝入 由美子、八百谷 啓
12:00
休憩
13:15
講演 武田 明倫 音楽学者、武蔵野音楽大学助教授
「音楽の解放者、ジョン・ケージ」
シンポジウム 「ケージの意味-多様な視点から」
司会 佐野 光司 音楽学者、桐朋学園大学教授
パネリスト 秋山 邦晴 音楽評論家、多摩美術大学教授
磯崎 新 精神科学・表現芸術部門審査委員会委員、建築家
柴田 南雄 精神科学・表現芸術部門専門委員会委員、作曲家、放送大学教授
中川 真 精神科学・表現芸術部門専門委員会委員、音楽学者、京都市立芸術大学音楽学部講師
三浦 雅士 文芸評論家
15:45
休憩
16:00
ケージ讃祝辞 黛 敏郎 作曲家
高橋 アキ ピアニスト
16:20
ケージ讃演奏 1. Music for six
 フルート・西沢 幸彦、ピアノ・高橋 アキ、一柳 慧、
 パーカッション・菅原 淳、藤本 隆文、鈴木 真樹
2. "Two" for fl. and pno.
 フルート・西沢 幸彦、ピアノ・高橋アキ
17:00
ケージ讃祝辞 一柳 慧 作曲家
17:15
閉会の辞
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