2014年思想・芸術部門美術(絵画・彫刻・工芸・建築・写真・デザイン等)
志村 ふくみ 写真

志村 ふくみ
(Fukumi Shimura)

  • 日本 / 1924年9月30日
  • 染織家

民衆の知恵の結晶である紬の着物の創作を通して、自然との共生という人間にとって根源的な価値観を思索し続ける芸術家

多種多様な草木から染め出した色糸を語彙として、紬織に即興性を取り入れ無限に色を奏で響かせる独創的な美の世界を拓き、絶え間ない自然との交感と思索によって「人間存在を自然の中に織り成す柔らかな思想」に到達した。

プロフィール

略歴

1924年
滋賀県近江八幡生まれ
1942年
文化学院卒業
1955年
織物をはじめる 母の小野豊の影響で柳宗悦の民藝運動に参加
1957年
第4回日本伝統工芸展に初出品で入選以降、第5回で奨励賞、第6回、第8回で文化財保護委員会委員長賞など、受賞を重ねる
1964年
資生堂ギャラリーにて第1回作品展を開催 以降、日本各地で作品展を開催
1968年
京都市嵯峨野に工房を構える
1983年
『一色一生』で第10回大佛次郎賞を受賞
1985年
「現代染織の美」展(森口華弘・宗廣力三・志村ふくみ)を東京国立近代美術 館で開催
1989年
娘の志村洋子とともに「都機(つき)工房」を創設
1993年
『語りかける花』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞
1999年
ソウル(草田繊維・キルト博物館)にて「志村ふくみ・洋子 二人展」を開催
2013年
染織の世界を学ぶ芸術学校「アルスシムラ」を志村洋子とともに設立

主な受賞と栄誉

1986年
紫綬褒章受章
1990年
重要無形文化財「紬織」保持者(人間国宝)に認定
1993年
文化功労者に認定

主な作品

1958年

紬織着物 秋霞譜(しゅうかふ)

1959年

紬織着物 鈴虫

1960年

紬織着物 七夕

1961年

紬織着物 霧

1973年

紬織着物 磐余(いわれ)

1974年

紬織着物 紫根による作品 一

1992年

紬織着物 聖堂(みどう)

1998年頃より

「源氏物語」シリーズ

2000年

紬織着物 風露

2007年

紬織着物 奥琵琶

2007年

紬織着物 歓びの階梯

贈賞理由

民衆の知恵の結晶である紬の着物の創作を通して、自然との共生という人間にとって根源的な価値観を思索し続ける芸術家

志村ふくみ氏は、柳宗悦の民藝思想に触れ、それを契機に染織の道に入り、日本の農家の女性たちによって普段着の着物として織られてきた紬を対象に美を探求し続けてきた。草木から染め出された類まれな多彩さと芳醇さを有する色糸を語彙として携え、経緯の糸の交差と集積という最も原初的で根源的な平織のなかに独自の感性に基づく即興性を取り入れ、無限に色を奏で響かせるという前人未到の美の機軸を拓いた。その仕事は日本の紬にまつわる伝統的ヒエラルキーをしなやかに超越し、まったく新しい美的価値観を構築するものであった。

糸を紡ぐ・草木で染める・織る・着る・語り伝えるという営為は、太古から連綿と世界各地で行われてきたものである。志村氏はなかでも最も素朴な紬の有り様に無限大の可能性を見出した。

草木染めは、多種多様な植物、すなわち自然そのものから色を得る行為である。志村氏は、大自然の営みの内奥に潜む真理を読み取り了解しようと努め、その複雑かつデリケートな植物の生命現象と息を合わせ、絶妙な色彩として顕現させる技法を極めた。それは、大自然の循環に心身を委ねることでもあった。天体の運行や月の満ち欠けと染め色との影響関係を認める志村氏の工房では、月齢を示す暦に基づき四季の移り変わりと生あるものの繁茂衰退など自然の姿を見つめながら活動を続けている。 植物から緑が染まらないのはなぜか。藍甕から糸を引きあげた瞬間に現れる緑がなぜすぐ消えるのか。これらの本質的な問いを掲げた志村氏は、ゲーテとシュタイナーの言葉に出会う。光のそばに黄色、闇のそばに青があらわれ、両者が結合した時に緑が出現するというゲーテ。「緑は生あるものの死せる像である」というシュタイナー。日本の古典的色彩論もあわせ、洋の東西を問わず色彩論を巡礼する志村氏は、植物の緑という得難い色を追求する中で出会ったこれらの言葉に「目に見えない世界との連繋」への確信や染めの奥儀を見い出し、透徹した思索を重ね、その成果を多くの作品と著作に結実させた。

つねに自然に寄り添い、自然との対話を通じて形成された志村氏の「紬の思想」は、「人間存在を自然の中に織り成す柔らかな思想」として人類の未来への示唆に富むものである。そのような奥深い思索を秘めた紬の美を通して、志村氏は自然との共生という人間にとって根源的な価値観を追求し続けている。

以上の理由によって、志村ふくみ氏に思想・芸術部門における第30回(2014)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

「光、生命、色」

1.生い立ち
大正13年9月30日、父 小野元澄、母 小野豊の次女として生まれる。2歳の時、父の弟、叔父である志村哲のもとへ養女とし てもらわれる。東京吉祥寺に住む。その事に関してはただ随縁という思いで、ありのままを受け入れている。養父母に対しては言葉に尽くせぬ感謝の念を一日も 忘れることができない。養父(日本郵船勤務)の転任に伴い、上海、青島、長崎、神戸と女学校を転々としたが、それは豊かな思い出として残っている。

2.人生の転機
17歳の時、初めて自分の出生を知り、人生が一変する。生みの親である両親と姉兄妹を一挙に得て、戸惑いの中にも測り知れない喜びを感じた。と同時に養父母に対しての複雑な気持ちに悩むこともあったが生まれてはじめて目の前に芸術の世界が開かれたことに圧倒された。

3.芸術への目覚め
は じめて出生の秘密を打ち明けられた年に次兄凌が亡くなり、母の機をはじめて見て、強く心ひかれた。慕わしい兄を失い機にめぐり会う。長兄元衞は絵画の道を 志し、激しく燃えるような朱色で佛や教会を描いていた。当時、兄も私も西村伊作の文化学院で芸術教育を受け、西村は反戦を唱え投獄、学校は閉鎖となった。 その時期、強烈な印象を受ける。

4.自立
30歳のはじめ、2人の子供をかかえて離婚する。柳宗悦のすすめで織物を志す。兄が29歳で亡くなり、その遺志を継いでいきたいと願った。

5.日本的色彩及びゲーテ、シュタイナーの色彩論
植物より無量の色彩を得る事を知った時、自然界の仕組、宇宙の働きなどを想像し、仕事の世界が広がった。日本古来の色彩はすでに万葉集、古今集、源氏物語など和歌や物語の世界に表現されていることを自覚した。それと同時にゲーテやシュタイナーの色彩論に出会い開眼した。

6.新しい教育
量 的にすべてを考える現代社会の発展の影にあって、質の問題を深く考える教育が大事であることに思い至り、「私の仕事」から一歩踏み出して、次の世代の若者 へ伝えたいという念願を抱き、娘、孫、弟子達と心を合わせて学校を設立した。今の学校教育では教えていない自然との共生、人間の魂、感覚の目覚めを若者へ 伝えたいと切に願っている。

ワークショップ

ワークショップ

「つむぎの思想 ―志村ふくみの世界」

Philosophy of Tsumugi: The World of Fukumi Shimura

日時
2014年11月12日(水) 14:00~17:30
場所
京都劇場
監修 
高階 秀爾[大原美術館 館長]
企画 
不動 美里[姫路市立美術館 副館長]
映像/サウンドインスタレーション
「つむぐ」 岸本 康(監督)・中川 陽介(構成)
主催
公益財団法人 稲盛財団

プログラム

14:00
開会挨拶 高階 秀爾
14:05
受賞者紹介 高階 秀爾
14:15
第一部 「志村ふくみの芸術世界」
15:00
作品紹介 佐治ゆかり[郡山市立美術館 館長]
15:40
第二部 鼎談「つむぎの思想」
17:30
閉会
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