1996年先端技術部門情報科学
ドナルド・アーヴィン・クヌース 写真

ドナルド・アーヴィン・クヌース
( Donald Ervin Knuth )

  • アメリカ / 1938年1月10日
  • コンピュータ科学者
  • スタンフォード大学 教授

プログラミング技法から画期的な電子出版ツールまで幅広い分野におけるコンピュータ科学への多大な貢献

アルゴリズムの解析、プログラミング言語の設計、情報処理技術の開発などにより、計算機・情報科学の基礎から応用に至る幅広い分野で大きな研究成果をあげるとともに、ソフトウェア科学を体系化しその基礎を創るなど、研究と教育を通じ、20世紀の情報科学の発展に多大な貢献をした。

プロフィール

略歴

1938年
ウィスコンシン州ミルウォーキーに生まれる
1960年
ケース工科大学卒業
1963年
博士号取得(数学)カリフォルニア工科大学
1963年
カリフォルニア工科大学数学教室助教授
1966年
カリフォルニア工科大学数学教室準教授
1968年
スタンフォード大学情報科学教授
1977年
スタンフォード大学電子工学教授

主な受賞と栄誉

1971年
グレイス・ホッパー賞、ACM
1974年
チューリング賞、ACM
1979年
サイエンスメダル、U.S.A.
1982年
IEEEコンピュータパイオニア賞
1986年
ACMソフトウエアシステム賞
1987年
ニューヨークアカデミー科学賞
1988年
フランクリンメダル
1989年
ワーニア賞

主な論文・著書

1965年
On the translation of languages from left to right,  Information and Control 8., 1965.
1968年

The Art of Computer Programming, Vol.1, 1968.

1969年

The Art of Computer Programming, Vol.2, 1969.

1970年
Simple word problems in universal algebras (with P. B. Bendix). in Computational Problems in Abstract Algebra, 1970.
1973年

The Art of Computer Programming, Vol.3, 1973.

1976年
 Mathematical and Computer Science: Coping with finiteness,  Science 194., 1976.
1984年
Literate programming,  The Computer Journal 27., 1984.
1984年

The TEX book, 1984.

贈賞理由

プログラミング技法から画期的な電子出版ツールまで幅広い分野におけるコンピュータ科学への多大な貢献

ドナルド・アーヴィン・クヌース博士は計算機・情報科学の基礎から応用に至る幅広い分野で大きな研究成果を挙げるとともに、ソフトウェア科学を体系化しその基礎を創るなど、研究と教育を通じ、20世紀の情報科学の発展に多大な貢献をした。

クヌース博士は、コンピュータ処理に関する基本アルゴリズムを体系化するとともに、準数値アルゴリズムとしてコンピュータの内部演算と調和する数値計算の算法を確立し、コンピュータ・アルゴリズムの基礎を築いた。それらの内容を集大成した「コンピュータ・プログラミング技法」3巻は、世界的な情報科学の教科書あるいは事典であると同時に、アルゴリズムの本来的な意味と問題を深く洞察したバイブルでもあり、多様化する個別専用システムにおいて核となるアルゴリズムの確立を可能とし、ソフトウェア科学の研究および教育に大きく寄与した。また、コンピュータ・プログラムを文書として第三者が読み、利用できるべきであると提唱し、プログラミング言語とプログラムの文書化を一体とするシステムWEBを作成することにより実現した。その思想を「文芸的プログラミング」に発表され、情報科学全体に関わる影響をもたらしたことは、博士の優れた洞察力に負うものである。さらに、文書化技術の一つとしてコンピュータを用いて質の高い印刷物を作成する文書整形システムTEX、ならびに文字フォント設計システムMETAFONTを開発した。これによって、読みやすいプログラム出力を実現したばかりか、複雑な数式や論理式の印刷、引用文献の管理、文書構成を含めた文書作成の手法を確立するに至り、情報科学の領域に文書化技術という新たな分野を打ち立てることになった。現在、ヨーロッパ主要言語をはじめ、日本語、韓国語などの文書作成システムとして広く使用されるとともに、米国数学会を筆頭に多くの学会の掲載論文がTEXで作成されるようになるなど、博士の業績は単に情報科学分野のみに止まらず学術的、社会的にも大きな影響を及ぼしており、まさにグーテンベルグ以来の大発明といっても過言ではない。

以上のように、クヌース博士は1970年代、80年代における情報科学および産業の急速な発達を支える基盤を築く上で、確固たる指針と具体的実現技術を与え、今世紀の情報科学の基盤を築いた。よってクヌース博士に、先端技術部門の第12回京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

デジタル印刷術

本の各ページの美しさには、様々な意味で、そこに書かれている情報と同じ位に重要である。粗末に印刷された本よりも見事な仕上がりの本に、著者も誇りを持つことができるであろう。ですから、本の仕上がりが素晴らしいものになると分かれば、著者は良い本を書くように努力をするものである。

私は1962年に「The Art of Computer Programming」という本のシリーズを書き始め、1968年と1969年に第1巻が出版された。質の高いこの本の印刷技術は、19世紀に発明された機械によるものである。数十年間にわたる改良は、これらの機械が科学技術書の出版のニーズに如何に見事に答えたかを表している。

しかし、その機械も1970年代には時代遅れとなった。出版社は数学関係以外の本は別として、もはや1960年代の品質に匹敵するものをつくる余裕がなくなったのである。なぜなら、数学関係の本はそれに見合う採算がとれなかったからである。その結果、出版社に私の本の再販を初版と同じ品質で仕上げてもらうことはできなかった。

私の落胆はこの問題がコンピュータプログラミングによって解決できるということがわかるまで続いた。この講演で私は、書物印刷のすべてを数式で定義する方法の開発に費やした9年間の冒険についてお話したい。この研究の結果、著者は今や、将来印刷技術が変わっても、本の仕上がりはそれに左右されることはないと確信することができるようになった。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

明日を拓くソフトウェア技術

Software Science - The Frontier Technology of Tomorrow

日時
1996年11月12日(火) 13:20-17:30
場所
国立京都国際会館
企画・進行
稲垣 康善 先端技術部門専門委員会委員、名古屋大学大学院工学研究科教授 都倉 信樹 先端技術部門専門委員会委員、大阪大学大学院基礎工学研究科教授

プログラム

13:20
開会 稲垣 康善
挨拶 稲盛 豊実 稲盛財団常務理事
挨拶 野口 正一 先端技術部門審査委員会委員、情報処理学会会長
13:30
業績紹介 長尾 真 先端技術部門審査委員会委員、京都大学大学院工学研究科教授
13:35
受賞者紹介 有澤 誠 慶應義塾大学環境情報学部教授
「StanfordのKnuth先生」
13:40
記念講演 ドナルド・アーヴィン・クヌース 先端技術部門受賞者
「The Stanford Graph Base」
15:00
15:20
パネル討論 「クヌース先生を囲んで -ソフトウェア科学を展望する」
司会 土居 範久 慶應義塾大学理工学部教授
パネリスト ドナルド・アーヴィン・クヌース、有澤 誠、筧 捷彦 早稲田大学理工学部教授、鈴木 則久 ソニー米国 Chief Technology Officer、高木 直史 名古屋大学大学院工学研究科助教授、宮野 悟 東京大学医科学研究所教授
17:30
閉会 稲垣 康善
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