純粋化学から材料工学までを見通す広い視野に立ち、有機分子が無機物質の上で自己組織化して超薄膜を作る過程に着目し、両物質が接する界面で起きる現象を系統的に解明し、これを制御・活用する卓越した技術を開発した。特に、この技術がナノメートル級の機能材料の構築に活用できることを独創的な実例で示し、有機分子を活用したナノ材料の研究分野に新領域を拓き、材料科学の発展に大きく貢献した。
Monolayer Films Prepared by the Spontaneous Self-Assembly of Symmetrical and Unsymmetrical Dialkyl Sulfides from Solution onto Gold Substrates: Structure, Properties, and Reactivity of Constituent Functional Groups (with Troughton, E. B. and others). Langmuir 4: 365-385, 1998.
Molecular Self-Assembly and Nanochemistry: A Chemical Strategy for the Synthesis of Nanostructures (with Mathais, J. P. and Seto, C. T.). Science 254: 1312-1319, 1991.
Features of Gold Having Micrometer to Centimeter Dimensions Can Be Formed through a Combination of Stamping with an Elastomeric Stamp and an Alkanethiol Ink Followed by Chemical Etching (with Kumar, A.). Appl. Phys. Lett. 115: 5877-5878, 1993.
Self-Assembly of Mesoscale Objects into Ordered Two-Dimensional Arrays (with Bowden, N. and others). Science 276: 233-235, 1997.
Soft Lithography (with Xia, Y.). Angew Chem. Int. Ed. Engl. 37: 551-575, 1998.
Self-Assembly at All Scales (with Grzybowski, B.). Science 295: 2418-2421, 2002.
Chaotic Mixer for Microchannels (with Stroock, A. D. and others). Science 295: 647-651, 2002.
ホワイトサイズ教授は、純粋化学から材料工学までを見通す広い視野に立ち、有機分子が無機物質の上で自己組織化して超薄膜を作る過程に着目し、両物質が接する界面で起きる現象を系統的に解明し、これを制御・活用する卓越した技術を開発した。特に、この技術がナノメートル級の機能材料の構築に活用できることを独創的な実例で示し、有機分子を活用したナノ材料の研究分野に新領域を拓き、材料科学の発展に大きく貢献した。
自己組織化とは、特定の材料やデバイスを形成する上で必要とする分子や原子が、自ら集合・配列し、望ましい構造を自然に形成することを意味する。例えば生体では、細胞内のタンパク質や膜構造において自己組織化が大きな役割を果たしており、同様の現象をエレクトロニクスに応用する可能性が探索されている。
ホワイトサイズ教授は、硫黄の原子を末端にもつ炭化水素分子群(有機チオール)が、金や銀の基板の表面によく吸着して整列化する事実に着目し、この時得られる自己組織化単分子膜(Self‐Assembled Monolayer: SAM)の活用に関する技術を開発した。この単分子膜は、1nmほどであるが、きわめて安定で、無機材料の保護膜としてだけでなく、膜上に異種の有機分子や生体分子を配列・操作させることにも活用でき、有機ナノテクノロジーの分野できわめて重要な材料の一つになっている。教授は、このチオール系のSAMに留まらず、多様な物質の組み合わせを対象として、分子や原子の間の相互作用と分子集団の自己組織化過程を物理化学的な手法で詳しく評価し、有機分子と金属など異種物質で構成される機能材料の新たな可能性を明らかにした。
さらにホワイトサイズ教授は、極微のスタンプを用いて単分子膜(SAM)のパターンを作り、これを基板上に転写する「ミクロ接触印刷法」を考案しその有効性を示した。集積回路の製造に広く用いられるリソグラフィ法では、感光性の有機樹脂を半導体の上に塗って加工する。このため、他の有機材料への適用が困難であったが、本印刷法の登場で、複雑で微細な有機物質のパターンの形成も可能となった。この方法はソフトリソグラフィとも呼ばれ、タンパク質などの生体分子を特定のパターンに従って配置できるため、バイオ・デバイス分野でも活用されつつある。特に、生体分子の2次元的な配列の制御やパターン化を活用したセンサー・DNAチップ・タンパク分析チップなどにも応用できる可能性があり、広汎な成長が期待されている。
以上のように、ホワイトサイズ教授は、有機分子の自己組織化を軸に、単分子膜を用いた機能物質構造に関する卓越した技術を開発し、ナノ材料の合成や構築法に貴重な知見を与えるとともに、応用への新たな展望を拓くうえで多大な寄与をなした。
以上の理由によって、ジョージ・マクレランド・ホワイトサイズ教授に先端技術部門における第19回(2003)京都賞を贈呈する。
研究とは、きわめて有用かつ重要な営みです。自然科学や工学における研究は、自然界を理解し、巧みに利用することを目的としています。こうした試みが最高の形で結実すると、個人や社会を利する問題解決策が生まれます。しかし、社会が抱える問題が困難の度合いを増すにつれて、その解決策を見出すことはより難しくなります。
研究とは、人間の営みでもあります。それを行うのは、様々な経歴、スキル、関心を持った人間の集合体です。研究者も生身の人間であり、最高の仕事をするためには、最高の環境、つまり、仕事仲間、研究資金、現実的な目標が欠かせません。
大学の研究活動は、問題の理解を促し、実用的な解決策を導き出す、産学官の研究体制において重要な役割を果たしています。次世代の研究者育成においても、大学は独特な役割を担っています。けれども大学で行われている研究は、知識の探求に主として重点が置かれ、そうした知識を実際に生み出す人に脚光が当てられることはほとんどありません。
研究、そしてそれを行う研究者のどちらもが大事なのです。大学が今以上に、研究活動の人間的側面に注目すべきであると私が考える理由は3つあります。1つは、そうすることにより、経歴や専門の異なる研究者グループの共同作業が求められる研究を直接強化できること。2つ目は、あらゆる種類の研究の環境改善につながること。3つ目として、長期的には、大学の研究スタイルを「1人の学生が、1人の教授を指導者に、1つの課題を与えられ、1つの論文に取り組む」式の従来型モデルから、「多くの研究者と連携する」、より広範かつ柔軟なシステムに変えていくことができます。こうしたシステムにより、複雑な問題に対して取り組みやすくなり、また、より創造力豊かな研究者が生まれるのです。
Self-Assembly of Organic Molecules and New Developments in Nanotechnology