Carver Mead

第37回(2022)受賞

先端技術部門

エレクトロニクス

カーヴァー・ミード

/  電子工学者・応用物理学者

1934 -

カリフォルニア工科大学 ゴードン・アンド・ベティ・ムーア工学・応用科学名誉教授

記念講演会

情報革命の時代を生きて

2022年

11 /10

10:00配信スタート

会場:※今年はオンライン配信です。こちらの特設ウェブサイトでご覧になれます。

業績ダイジェスト

大規模集積回路(VLSI)システム設計の指導原理の構築と確立への先導的貢献

大規模集積回路(VLSI)の進歩に伴って複雑化する設計過程を、論理設計・回路設計・レイアウト設計に階層化し、製造工程から切り離す新たな方法論を提案・推進した。また各設計過程を自動化するCAD技術の確立にも多大な寄与をなし、VLSIを基盤とするエレクトロニクス技術と産業の発展に大いに貢献した。

贈賞理由

カーヴァー・ミードは、大規模集積回路(Very Large-Scale Integration: VLSI)の発展の初期段階から、複雑化が進む設計に注目し、設計を階層化し、論理設計と回路設計、レイアウト設計を、製造工程から切り離す方法論を提案した。さらに各設計過程を自動化することで、半導体設計用のCAD(Computer-Aided Design)技術の基本的な仕組みの構築と確立のために多大な寄与をなした。この結果、システム設計とデバイス製造との分離および両者の効率的共同作業が可能となり、集積回路産業の国際的または企業間での分業の素地が形成され、VLSIを基盤とするエレクトロニクス技術および産業の発展に大いに貢献した。

1970年代後半、集積回路における素子の微細化の進展に伴い、数十億個を越すトランジスタを載せたVLSIシステムの実現可能性が予測された(1)。ミードは、著しく複雑化していくVLSIシステムの設計の過程を抜本的に見直し、それまで製造企業ごとに異なっていたレイアウト設計の方法を単純化・共通化する流れを作るとともに、論理設計や回路設計も含めた設計工程を、製造工程から切り離したVLSIシステムのCAD技術を開発した(2)。その結果、システムの動作を記述したプログラムからチップ製造に必要なレイアウトの自動生成までのEDA(Electronic Design Automation)へつながる道が拓かれ、数十億個以上のトランジスタを載せたVLSIシステム設計の指導原理が確立された。

特に、リン・コンウェイとの共著であるIntroduction to VLSI Systems (3)を通じ、システム設計者が複雑な製造プロセスを意識せずにVLSI設計を行う方法論(4)を明確に示すことで、多くの技術者や学生が、VLSIの設計・試作を経験することを可能にしており、その後のVLSIの進歩に大きく貢献した。とりわけ、本書にはミードが1971年以来、カリフォルニア工科大学のマイクロエレクトロニクスコースの講義で導入したMulti-Project Chipsという仕組みが述べられている(5)。Multi-Project Chipsによって、個別に設計された複数の集積回路システムを単一ウエハ上に相乗りさせることで、合理的な費用でチップを実現することが可能になり、集積回路の教育・研究を加速させる役割を果たした。

ミードは、集積回路産業の多くが、多数の設計企業(ファブレス)と少数の製造専門企業(ファブ)へと分化することも予測し、国際的または企業間での分業が成立する基盤も作った(6)。これらの貢献なしには、VLSIを中心とする現代の半導体産業は存在し得なかったと言える。VLSIは、携帯電話やコンピュータに加え、家電や自動車など多くの工業製品に組み込まれており、情報化社会の基礎を築いたものと言っても過言ではない。

以上の理由によって、カーヴァー・ミードに先端技術部門における第37回(2022)京都賞を贈呈する。

参考文献
(1) Sutherland IE & Mead CA (1977) Microelectronics and Computer Science. Scientific American 237: 210–229.
(2) Mead CA (1979) VLSI and Technological Innovation. In Proceedings of the Caltech Conference on Very Large Scale Integration, California Institute of Technology: 15–27.
(3) Mead C & Conway L (1980) Introduction to VLSI Systems. Addison-Wesley.
(4) Mead CA & Lewicki G (1982) Silicon compilers and foundries will usher in user-designed VLSI. Electronics 55: 107–111.
(5) Mead C (1972) Computers That Put the Power Where it Belongs. Engineering and Science, 35: 4–9.
(6) Casale-Rossi M et al. (2013) Panel: The heritage of Mead & Conway What has remained the same, what was missed, what has changed, what lies ahead. In Design, Automation & Test in Europe Conference & Exhibition (DATE), IEEE: 171–175.

プロフィール

略歴
1934年
米国カリフォルニア州ベーカーズフィールド生まれ
1959–1962年
カリフォルニア工科大学 助教
1960年
カリフォルニア工科大学 博士(電気工学)
1962–1967年
カリフォルニア工科大学 准教授
1967–1977年
カリフォルニア工科大学 教授
1977–1980年
カリフォルニア工科大学 コンピュータ科学・電気工学教授
1980–1992年
カリフォルニア工科大学 ゴードン・アンド・ベティ・ムーア コンピュータ科学教授
1992–1999年
カリフォルニア工科大学 ゴードン・アンド・ベティ・ムーア工学・応用科学教授
1999年–
カリフォルニア工科大学 ゴードン・アンド・ベティ・ムーア工学・応用科学名誉教授
主な受賞・栄誉
1971年
トーマス・D・カリナン賞、米国電気化学会
1981年
業績賞(リン・コンウェイと共同受賞)、Electronics
1984年
IEEEセンテニアル・メダル
1984年
ハロルド・ペンダー賞(リン・コンウェイと共同受賞)、ペンシルベニア大学
1985年
ハリー・H・グッド記念賞、米国情報処理学会
1985年
ジョン・プライス・ウェザリル・メダル(リン・コンウェイと共同受賞)、フランクリン協会
1987年
名誉博士、ルンド大学
1987年
ウォルター・B・リストン公共政策賞、ハドソン研究所
1991年
名誉博士(理学)、南カリフォルニア大学
1996年
IEEEジョン・フォン・ノイマン・メダル
1997年
ACM-AAAIアレン・ニューウェル賞
1999年
レメルソンMIT賞
2001年
ディクソン賞科学部門、カーネギーメロン大学
2002年
米国国家技術賞
2003年
サイモン・ラモ創設者賞、米国工学アカデミー
2009年
米国発明家殿堂入り
2011年
BBVA財団フロンティアーズ・オブ・ナレッジ賞情報通信技術部門
会員
IEEE、スウェーデン王立工学アカデミー、フランクリン協会、 米国科学アカデミー、米国芸術科学アカデミー、米国工学アカデミー、 米国発明家アカデミー、米国物理学会

プロフィールは受賞時のものです