2012年基礎科学部門生命科学(分子生物学・細胞生物学・神経生物学)
大隅 良典 写真

大隅 良典
(Yoshinori Ohsumi)

  • 日本 / 1945年2月9日
  • 分子細胞生物学者
  • 東京工業大学 特任教授

細胞の環境適応システム、オートファジーの分子機構と生理的意義の解明への多大な貢献

細胞が栄養環境などに適応して自らのタンパク質分解を行う自食作用「オートファジー」に関して、酵母を用いた細胞遺伝学的な研究を進めて世界をリードする成果をあげ、その分子機構や多様な生理的意義の解明において、多大な貢献を果たした。

プロフィール

略歴

1945年
福岡県生まれ
1967年
東京大学 教養学部 基礎科学科 卒業
1974年
東京大学 理学博士
1974年
ロックフェラー大学 博士研究員
1977年
東京大学 理学部 助手
1986年
東京大学 理学部 講師
1988年
東京大学 教養学部 助教授
1996年
基礎生物学研究所 教授
2004年
総合研究大学院大学 生命科学研究科 教授
2009年
基礎生物学研究所 名誉教授
2009年
総合研究大学院大学 名誉教授
2009年
東京工業大学 特任教授

主な受賞と栄誉

2005年
藤原賞、藤原科学財団
2006年
日本学士院賞、日本学士院
2009年
2008年度朝日賞、朝日新聞社

主な論文

1992年
Autophagy in Yeast Demonstrated with Proteinase-Deficient Mutants and Conditions for its Induction (Takeshige, K. et al.), J. Cell Biol. 119: 301-311, 1992
1993年
Isolation and Characterization of Autophagy-Defective Mutants of Saccharomyces cerevisiae (Tsukada, M. and Ohsumi, Y.), FEBS Lett. 333: 169-174, 1993
1998年

A Protein Conjugation System Essential for Autophagy (Mizushima, N. et al.), Nature 395: 395-398, 1998

2000年

A Ubiquitin-like System Mediates Protein Lipidation (Ichimura, Y. et al.), Nature 408: 488-492, 2000

2001年
The Pre-Autophagosomal Structure Organized by Concerted Functions of APG Genes Is Essential for Autophagosome Formation (Suzuki, K. et al.), EMBO J. 20: 5971-5981, 2001
2007年
Atg8, a Ubiquitin-like Protein Required for Autophagosome Formation, Mediates Membrane Tethering and Hemifusion (Nakatogawa, H., Ichimura, Y. and Ohsumi, Y.), Cell 130: 165-178, 2007
贈賞理由

細胞の環境適応システム、オートファジーの分子機構と生理的意義の解明への多大な貢献

大隅良典博士は、細胞が栄養環境などに適応して自らタンパク質分解を行うオートファジー(自食作用)に関して、酵母を用いた細胞遺伝学的な研究を進め、世界をリードする成果をあげた。オートファジーは、1960年初頭に、動物細胞内の食胞として知られているリソソーム中に細胞質成分であるミトコンドリアや小胞体が一重膜で囲まれて存在していることから提唱された概念で、細胞内成分や細胞内小器官がリソソームに取り込まれて分解を受ける過程を意味する。その後、多種類の細胞やいくつかの臓器でこの現象が報告されてきたが、オートファジーの分子メカニズムや生理的意義は不明なままであった。大隅博士は、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeで空胞の機能を研究していたが、1992年、タンパク質分解酵素B欠損株を低栄養培地に曝すことにより空胞中に一重膜で囲まれた細胞内小器官成分が出現すること、即ち、酵母でオートファジーが誘導できることを発見した。同博士は、ついで上記現象を利用して、タンパク質分解抑制と栄養飢餓によってもオートファジーが誘導されない多数の変異株を同定した。博士の酵母におけるオートファジーと変異株の発見は、オートファジーの分子機構解析に道を拓いたものである。これが基盤となり、これまでオートファジーに関係する数十の分子が同定され、これらの機能解析により、飢餓などの刺激に応じて、どのようにして細胞内成分や細胞内小器官を囲む新規の膜構造が形成され、これがリソソームに融合するかの道筋が明らかになりつつある。

酵母におけるオートファジー関連分子の発見は、哺乳類を含む動物細胞でのオートファジー関連分子の同定につながり、これらを利用して、動物におけるオートファジーの多様な生理的意義が多くの研究者により明らかにされた。すなわち、オートファジーが出生に伴う飢餓状態への適応に不可欠であること、オートファジーが神経での異常タンパク質の蓄積を防ぎ神経細胞死を防止するために必要であること、心臓の収縮力を維持するためにオートファジーを伴う代謝回転が不可欠であることなどがある。

大隅博士の貢献は、生体の重要な素過程の細胞自食作用であるオートファジーに関してその分子メカニズムと生理的意義の解明に道を拓いたものとして高く評価されるものである。

以上の理由によって、大隅良典博士に基礎科学部門における第28回(2012)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

酵母から見えてきたオートファジーの世界-細胞内リサイクルシステム-

私は1945年、終戦の半年前に福岡に生まれ日本の戦後と共に生きて参りました。まさに45年になろうとする研究人生は、順風満帆とは言えず、実に細い道のりでしたが、多くの偶然や出会いによって支えられてきました。今私は、科学は人類の弛まぬ努力によって築かれてきた知の体系であり、私自身まさしく社会的な存在であることを感じています。

私の大学、大学院時代が分子生物学の確立期にあったことが、本来化学をめざしていた私に生物学の道を選ばせることになりました。若い時にタンパク質生合成の研究からスタートしたことは、その後、私の細胞研究に大変大きな影響を与えました。私の一貫した研究材料である酵母との出会いは、実は米国ロックフェラー大学のノーベル賞学者エーデルマン研に留学した時にさかのぼります。マウスの受精の研究を始めましたが、一転して酵母を材料とすることとなりました。そして日本に帰国後、東大理学部 安楽泰宏教授のもとで、現代の生物学に決定的な役割も演じてきた酵母の研究を本格的に開始し、液胞を研究の対象にすることにしました。私は競争の激しい分野で研究をすることが苦手で、人がやらないことを手掛けようというのが信条であり、当時細胞のゴミタメとの認識が拡がっていた液胞を解析し、液胞が活発で重要な機能を担うオルガネラであることを明らかにしました。

1988年に東大教養学部でまさしく最小の研究室を立ち上げ、液胞のもう一つの機能である分解をテーマにしようと考えました。直後に始めた顕微鏡観察がその後のすべてを決めることになりました。細胞が自分自身を分解するオートファジーは、動物細胞で50年前に発見されながら中々進展が見られませんでしたが、酵母の液胞での分解がその優れたモデルとなることを示すことが出来ました。ついで分子遺伝学的手法によりオートファジー遺伝子を同定することができました。これらの遺伝子は酵母から人に至るまで広く保存されていたことで、オートファジー研究は一気に加速し、現在、高等動植物における生理的な役割が爆発的に進展する時代を迎えています。分解というのは一見負のイメージがありますが、生物にとって合成と同じような大きな役割を演じています。

私は膨大な情報に惑わされずに、予断を持たず自然現象に向き合うことでまだまだ我々の理解が拡がって行くと考えています。

今日の生物学研究は一人でやり仰せるものではなく、受賞の対象となった研究は延べ80人にも及ぶ共同研究員の不断の努力の賜物です。素晴らしい研究仲間達を心から誇りに思っています。現在、私の研究室出身者がオートファジー研究を国際的にも牽引していることは大変嬉しいことです。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

オートファジーの50年

50 Years of Autophagy

日時
2012年11月12日(月)13:00~17:00
場所
国立京都国際会館
企画・司会
吉森 保[大阪大学 大学院医学系研究科 教授] 水島 昇[東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 教授]
主催
公益財団法人 稲盛財団
後援
京都府、京都市、NHK
協賛
日本細胞生物学会、日本植物学会、日本植物生理学会、日本生化学会、日本分子生物学会

プログラム

13:00
開会挨拶 小原 雄治[(専門委員会 委員長)情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 所長]
受賞者講演 大隅 良典
「酵母が拓いたオートファジーの世界」
講演 吉森 保
「哺乳類オートファジーの膜動態と疾患との関わり」
講演 水島 昇
「哺乳類オートファジーの代謝生理的役割と分子メカニズム」
講演 吉本 光希[フランス国立農学研究所 研究員]
「植物のオートファジー ~分子機構と高次機能発現における役割~」
講演 中戸川 仁[東京工業大学 総合研究院フロンティア研究機構 准教授]
「酵母におけるオートファジーの分子機構:膜形成と標的認識」
17:00
閉会
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