2001年基礎科学部門生物科学(進化・行動・生態・環境)
ジョン・メイナード=スミス 写真

ジョン・メイナード=スミス
(John Maynard Smith)

  • イギリス / 1920年-2004年
  • 進化生物学者
  • サセックス大学 名誉教授

進化的に安定な戦略(ESS)の概念提唱による生物科学への貢献

進化的に安定な戦略(ESS)概念の提唱によって、生物の社会活動や性のあり方など進化生物学の根本的な問題に統一的理解を確立する上に決定的な寄与をし、生物科学の発展に多大な貢献をするとともに、経済学、政治学などの分野にも大きな影響を与えている。

プロフィール

略歴

1920年
イギリス、ロンドンに生まれる
1941年
ケンブリッジ大学工学部卒業
1941年
航空機技師
1951年
ロンドン大学・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)動物学部卒業
1952年
UCL動物学講師
1965年
サセックス大学生物学教授
1965年
サセックス大学生物科学部初代学部長
1985年
サセックス大学名誉教授

主な受賞と栄誉

1977年
英国王立協会会員
1986年
ダーウィンメダル,英国王立協会
1990年
フリンクメダル、動物学協会(ロンドン)
1991年
バルザン賞(イタリア)
1995年
リンナーンメダル、リンナーン協会(ロンドン)
1995年
ASABメダル、動物行動研究協会(イギリス)
会員
米国芸術科学アカデミー外国人名誉会員
名誉博士
ケント大学、オックスフォード大学、シカゴ大学、サセックス大学、エジンバラ大学

主な著書・論文

著書
1983年

Evolution and the Theory of Games, Cambridge University Press, 1983 (『進化とゲーム理論』寺本英・梯正之訳、産業図書)

1989年

Evolutionary Genetics, Oxford University Press, 1989 (『進化遺伝学』厳佐庸・原田祐子訳、産業図書)

1995年

The Major Transitions in Evolution, W. H. Freeman, 1995 (『進化する階層』長野敬訳、シュプリンガー・フェアラーク東京)

論文
1964年

Group selection and kin selection. Nature, 200, 1964

1968年

Evolution in sexual and asexual populations. The American Naturalist, 102, 1968

1973年

The logic of animal conflict. Nature, 246, 1973

1977年

Parental investment: a prospective analysis. Animal Behaviour, 25, 1977

贈賞理由

進化的に安定な戦略(ESS)の概念提唱による生物科学への貢献

メイナード=スミス教授は、進化的に安定な戦略(ESS)概念の提唱によって、生物の社会行動や性のあり方など生物学の根本的な問題の統一的理解に決定的な寄与をし、生物科学の発展に多大な貢献をした。

現代生物科学の認識によれば、生物たちは種族維持のためではなく、各個体がそれぞれ自分の遺伝子を持った子孫をできるだけ多く後代に残すために、すなわち自分の適応度増大のために、利己的かつ競争的に生きている。この考え方と矛盾するように見える利他的・協力的な行動も、血縁者どうしの場合については、第9回京都賞受賞者のW. D. ハミルトン教授の血縁淘汰の概念によって説明された。

ところが、生物においては非血縁者の間の協調的な振る舞いもきわめて多いのである。例えば大人の動物どうしは食物やなわばりをめぐって頻繁に闘うが、殺し合いに至ることは少ない。それはなぜか。この問題は人間の道徳や平和にも関わりを持つものであるが、理論的説明は全くなされていなかった。

メイナード=スミス教授は動物たちがゲームをしているという設定に立ってゲーム理論を導入し、殺し合いに至らないのは、徹底的に攻めるというタカ派的な闘い方より、自分の身を危険にさらさないハト派的な戦略のほうが自分の適応度増大にとって有利であるからであることを明快に示した。しかし、ハト派戦 略はいったんタカ派戦略に侵入されたら、それにとって代わられてしまい、その動物の戦略は不安定になる。実際、動物たちは単純なハト派戦略はとっていない。そこには、個体群が一定の戦略を持つ個体で占められ、他のどんな戦略を持つ変異個体の侵入も排除される「進化的に安定な戦略」 (Evolutionarily Stable Strategy=ESS)というものが存在するはずだと教授は考え、多くのESSの実例を挙げつつそれらがなぜESSになるのかを理論的に証明した。闘争の場合には、なわばりの持ち主であればタカ派戦略で、侵入者であればハト派戦略で、といった教授がブルジョワ戦略と呼ぶ条件付戦略もその一例である。

教授はこのESSという概念によって、それ以前の進化生物学や行動生態学、集団遺伝学では説明が困難であった多くの問題の本質を、数理的手法を用い てより深く掘り下げて説明した。今やESSは幅広い生物学分野を統一的に理解するためのキーワードとなっており、経済学、経営学、政治学など広汎な分野にも大きな影響を与えている。

よって、メイナード=スミス教授に基礎科学部門における2001年京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

数学と生物学を結ぶと…

進化生物学への貢献、とりわけ進化にゲーム理論を取り入れた貢献に対して、栄誉ある京都賞をいただくことになりました。ゲーム理論の導入には、関連性のな い2つの技術、つまり博物学の知識と数学的モデルを創る技術を融合させる必要がありました。私は幼い頃から自然に大変興味を持っていました。今でもその興 味は私の生活の大切な一部であり、暇さえあればバードウォッチングや園芸などを楽しんでいます。数学の才を伸ばすことができたのは、学生時代のすばらしい 先生方の指導のおかげであります。そして、航空機の設計に携わった6年間と、J. B. S. ホールデーン教授のもとでの研究生活を通して、数学を現実 の問題に応用する力を培うことができました。進化に関するゲーム理論は、まず動物の儀式化された闘争の進化を分析するために取り入れられましたが、その 後、植物の成長やウィルスの進化など多方面に応用されています。ある動物が理論予測通りの奇妙な行動をとることが確認された時、私は科学者として至福の悦 びを感じるのです。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

進化とゲーム

Evolution and Game

日時
2001年11月12日(月)13:00~17:40
場所
国立京都国際会館
企画・司会
巌佐 庸 [(専門委員会 委員)九州大学大学院 理学研究院 教授]

プログラム

13:10
開会 巌佐 庸
挨拶 稲盛 豊実 [稲盛財団 常務理事]
挨拶 山岸 哲 [(専門委員会 委員長) 京都大学大学院 理学研究科 教授]
受賞者紹介 巌佐 庸
受賞者講演 ジョン・メイナード=スミス
「動物におけるシグナルの進化」
講演 桑村 哲生 [(専門委員会 委員) 中京大学 教養部 教授]
「動物行動学とゲーム理論」
質疑応答
休憩
講演 山村 則男 [京都大学 生態学研究センター センター長・教授]
「オスとメスのゲーム:配偶者警護・子の世話・種分化」
質疑応答
講演 西條 辰義 [大阪大学 社会経済研究所 教授]
「協力の創発」
質疑応答
講演 矢原 徹一 [九州大学大学院 理学研究院 教授]
「有性生殖の短期的・長期的利点 - キク科植物の研究からの証拠」
質疑応答
講演 小林 一三 [東京大学 医科学研究所 助教授]
「遺伝子はなぜ愛しあうのか」
質疑応答
17:40
閉会 巌佐 庸
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