Shun-ichi Amari

第40回(2025)受賞

先端技術部門

情報科学

甘利 俊一

/  数理工学者

1936 -

帝京大学 特任教授 / 理化学研究所 栄誉研究員

業績ダイジェスト

人工知能の理論的基盤を拓く先駆的貢献と情報幾何学の確立

人工ニューラルネットワークにおける先駆的な研究を行うとともに、微分幾何学の手法を用いて統計モデルを研究する情報幾何学の分野を確立して多くの重要な理論を提唱した。さまざまな分野に影響を与える理論と応用の両面にわたる貢献は、今なお極めて大きな意義を持ち続けている。

業績

甘利俊一は、人工ニューラルネットワーク、機械学習、情報幾何学の分野で先駆的な研究を行い、多くの重要な理論を提唱した。その業績は、神経回路の動的特性、学習理論、統計モデルの幾何学的解析、信号処理など幅広い分野に及び、現在においても人工知能の進化に不可欠な役割を果たしている。

ニューラルネットワークの学習理論に関して、甘利は適応型パターン分類器の理論を提唱し(1)、データから学習し、適応的に分類を行うメカニズムを理論的に整理し、機械学習における基礎的な枠組みを確立した。さらに、自己組織化ネットワークを用いたパターン認識と時系列パターン学習についての研究(2)へと発展させ、こうした人工神経回路モデルによる学習の基本的な考え方を深化させた。また、甘利は、ランダム結合型ネットワークの統計力学的解析を通じて、脳の情報処理の理論モデルを構築した(3)。この研究は、ホップフィールドネットワークやリカレントニューラルネットワークの発展に影響を与え、深層学習を含む機械学習の理論解析に貢献するとともに、記憶形成やカオス的挙動の研究にも影響を与えている。また、神経回路の動きに関する研究では、側抑制型という仕組みに着目し、神経活動の中でパターンが自然に形成される仕組みを理論的に示した(4)。このモデルは、視覚や触覚といった感覚情報が脳内でどのように整理・処理されるかを説明している。

1980年代に入ると、甘利は微分幾何学の視点からの統計モデルの研究を推し進め、双対接続と呼ばれる概念を導入するなど、重要な貢献を果たした(5)。その後、甘利は、「情報幾何学」と名付けた新たな学問分野を確立し、その体系を発展させた(6)。情報幾何学は、統計モデルや確率分布の集合をリーマン多様体として捉え、幾何学的手法を用いてそれらの性質を解析するための理論である。情報幾何学は世界的に広がり、統計学、最適化、量子情報理論など多岐にわたる分野に新たな洞察と応用をもたらしている。1990年代には、機械学習の最適化手法に関する研究を進め、特に自然勾配法を提唱した(7)。この手法は、モデルのパラメータ空間における幾何学的構造を考慮し、学習効率を向上させるものであり、大きなインパクトを与えた。自然勾配法は、ニューラルネットワークの学習、ブラインド信号源分離(8)、ベイズ推論の効率化など、幅広い分野で応用されている。さらに近年では、情報幾何学は、最適輸送問題との融合など、機械学習をはじめとする多様な分野に応用され、実用的なアルゴリズム開発においても重要な基盤を築いている。

甘利は現在もなお、人工知能の進化において不可欠な役割を果たし、最先端の研究を推進し続けている。その揺るぎない研究姿勢は、研究者の模範となり、若手研究者に大きな刺激を与えている。また、理論と応用の両面にわたる貢献は、今なお極めて大きな意義を持ち続けている。

参考文献
(1) Amari S (1967) A theory of adaptive pattern classifiers. IEEE Transactions on Electronic Computers 16 (3): 299–307.
(2) Amari S (1972) Learning patterns and pattern sequences by self-organizing nets of threshold elements. IEEE Transactions on Computers C-21 (11): 1197–1206.
(3) Amari S (1972) Characteristics of random nets of analog neuron-like elements. IEEE Trans. Syst. Man Cybernetics 2: 643–657.
(4) Amari S (1977) Dynamics of pattern formation in lateral-inhibition type neural fields. Biological Cybernetics 27 (2): 77–87.
(5) Amari S (1982) Differential geometry of curved exponential families-curvatures and information loss. The Annals of Statistics 10 (2): 357–385.
(6) Amari S & Nagaoka H (2000) Methods of information geometry (Translations of Mathematical Monographs 191). American Mathematical Soc.
(7) Amari S (1998) Natural gradient works efficiently in learning. Neural Computation 10 (2): 251–276.
(8) Amari S, Cichocki A, & Yang HH (1995) A new learning algorithm for blind signal separation. In Advances in Neural Information Processing Systems 8.

プロフィール

略歴
1936年
東京市(現 東京都)生まれ
1963年
東京大学 工学博士
1963–1967年
九州大学 工学部 助教授
1967–1981年
東京大学 工学部 助教授
1981–1996年
東京大学 工学部 教授
1994–1997年
理化学研究所 国際フロンティア研究システム 情報処理研究グループ グループディレクター
1996年
東京大学 名誉教授
1997–2000年
理化学研究所 脳科学総合研究センター 脳型情報システム研究グループ グループディレクター
2000–2003年
理化学研究所 脳科学総合研究センター 脳型情報システム研究グループ 領域ディレクター
2003–2008年
理化学研究所 脳科学総合研究センター センター長
2008–2018年
理化学研究所 脳科学総合研究センター 特別顧問
2017年
理化学研究所 名誉研究員
2018年
理化学研究所 栄誉研究員
2021年–
帝京大学 先端総合研究機構 特任教授
主な受賞・栄誉
1992年
ニューラル・ネットワーク・パイオニア賞、IEEE CIS
1995年
日本学士院賞
1997年
IEEEエマニュエル・R・ピオレ賞
2003年
C&C賞
2011年
瑞宝中綬章
2012年
文化功労者
2019年
文化勲章
会員
IEEE、日本学士院、ポーランド科学アカデミー

プロフィールは受賞時のものです