京都賞再耕 #07 ピーター・レイモンド・グラント博士、バーバラ・ローズマリー・グラント博士 異なる考えや事実の間に見出されるつながりには大きな価値がある

科学や技術、思想・芸術の分野に大きく貢献した方々に贈られる日本発の国際賞「京都賞」。受賞者の方々は、道を究めるために人一倍の努力を重ね、その業績によって世界の文明、科学、精神的深化のために大いなる貢献をしてきた人たちです。「京都賞再耕──じっくり味わう受賞者のことば」の連載では、これまでの京都賞受賞者へのインタビューを通して、記念講演会で語られた言葉をさらに掘り下げ、独自の哲学や思考プロセス、探求者の姿勢などに迫りたいと思います。今回は2009年に基礎科学部門で受賞した、ピーター・レイモンド・グラント博士バーバラ・ローズマリー・グラント博士にお話を伺いました。

インタビュー: 西村勇哉(NPO法人ミラツク代表)
執筆: 杉本恭子

「京都賞再耕」のこれまでの記事
#01 國武豊喜博士 「抽象化」と「具体化」を往来するなかで突破口が見えてくる
#02 三村髙志博士 「役に立つ」とは、圧倒的多数の人に必要とされて喜ばれること
#03 金出武雄博士 「なぜこの研究をしているのか」に立ち戻る習慣が本質到達への鍵となる
#04 坂東玉三郎丈 言葉にはならない大事なものは、人と人が出会うなかでこそ伝えられる
#05 グレアム・ファーカー博士 生態系の一部としての私は「森の古い木」として存在している
#06 エドワード・ウィッテン博士 科学は、この世界を理解することに寄与するものである

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ピーター・レイモンド・グラント(Peter Raymond Grant)
バーバラ・ローズマリー・グラント(Barbara Rosemary Grant)
ともに進化生物学者、プリンストン大学名誉教授。グラント博士夫妻は、1973年以来40年にわたりガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチ類を調査研究。急激な自然環境の変化により自然淘汰が起き、その結果として進化が進むことを実証した。2017年、夫妻でロイヤル・メダル受賞。 さらに詳しく(Peter) / さらに詳しく(Barbara)

40年間研究し続けても新たな問いは生まれ続けた

西村 はじめに、おふたりの研究の概要について伺いたいと思います。

ピーター・グラント 2009年に京都賞を受賞した時点で37年間、その後の3年も加えて40年間にわたり、私たちはガラパゴス諸島のダフネという小さな島で、ダーウィンフィンチという鳥の生態の調査研究を続けました。この研究の成果はすべて、2014年にプリンストン大学出版局から出版した『40 Years of Evolution: Darwin’s Finches on Daphne Major Island』という本にまとめられています。

ガラパゴス諸島のダフネ島(上)
ダフネ島でのピーター・グラント博士とガラパゴス・フィンチ(左)
ダフネ島で網をクリーニングするローズマリー・グラント博士(右)

また、2011年以降、現在もですが、遺伝学とゲノミクスの専門家であり、スウェーデン・ウプサラ大学の教授レイフ・アンデション(Leif Andersson)博士と共同で、DNAレベルでの研究を進めているところです。

西村 最初の質問は、長期的な研究を行うことの価値についてです。そして、一見無関係に見えるものごとのつながりを深く探求するとはどういうことか、おふたりの研究に対する考えやアプローチについて伺いたいです。

ピーター・グラント 多くの自然個体群の生態学と進化に関する研究の蓄積によって、自然界の通常プロセスについては、短期的な研究よりも長期的な研究の方がはるかに多くを解明できることがわかっています。調査者は、時間の経過とともに新たな状況に遭遇し、新たに問題に直面し、新たな問いを得ることになるからです。そして、新たな問いに答えようとするプロセスのなかで、自分が研究している現象についてより深く理解するのです。

ガラパゴスのような環境での研究はまさにそれを物語っています。なぜなら、1年のうちでも雨季から乾季に天候が激しく移り変わるだけでなく、1年ごとに劇的な気候の変化も起きるからです。私たちは、通常の気候サイクルに非常に強い撹乱*1が生じるのを目の当たりにしてきました。これらの撹乱、あるいは変化は、ガラパゴスに干ばつをもたらし、他方では極めて多量の降雨をももたらすのです。

つまり、長期的な研究の価値は、続ければ続けるほど、気象条件の変化が動植物に与える影響がわかってくるということです。そして、動物や植物の個体群を長期的に研究する世界中の研究者の多くが、今私が言ったのとほぼ同じことを言っています。長く続けるほどに、すでにわかっていることに情報を追加するだけではなく、自分が扱っている系について、まったく新しい情報や見解を得ていくことができるのです。

ピーター・グラント博士に握られるダフネ島のフィンチ。左がオオガラパゴスフィンチ、右がガラパゴスフィンチ

ローズマリー・グラント 長期的な研究では、私たちは個体群を継時的に追跡できます。私たちはダフネ島のすべてのフィンチの大きさを測定し、DNA分析のためにほんの少しの血を採取し、彼らが何を食べ、どのくらい子を産み、どのようにその子らが生き残ったのか、さらに繁殖するのかどうか。つまり、長期にわたる血統を追い、各個体からあらゆる情報を得ることができるのです。その結果、干ばつなどの環境変化によって、どのような個体がどのくらい多く死んだのか、生き残ったのはどのような個体だったのか、その理由とともにわかってきます。

長く島に滞在していると、まったく予期しなかったことも観察・発見できます。初めてダフネ島に行った頃、交雑*2はないと考えられており、私たちもまた交雑が偶発することを知りませんでした。ところが、私たちは希少な交雑を捉えて、それによる進化への影響を観察できました。また、ある個体が島に入ってきた結果、まったく新しい個体群が発生し、さらにはその個体群を発生から6世代にわたって追うことができたのです。現在では、全ゲノムを解析することで、これらすべての変化の遺伝的基盤*3を明らかにできるようになりました。

ピーター・グラント フィンチの個体群がどのくらい生きられるのかを知るために、フィンチの寿命と同じだけの期間、つまり17年間の研究が必要でした。これもまた、長期的研究の価値を示すちょっとした例ですね。

フィンチのくちばしの長さを測っているようす

一つひとつの発見が新しい問いを生み出した

西村 僕の場合、興味や関心がいろんなところに向いてしまうので、おふたりのようにずっと同じ場所で同じ対象を見続ける集中力はどこから来るものなのだろうと思います。ガラパゴスに1年滞在して別の場所に行く人もいるでしょうし、訪れるたびに違う対象を見る人もいるでしょう。なぜ、ひとつの対象に情熱を傾けることができたのでしょうか。

ローズマリー・グラント 私は幼い頃から、種はどのように発生したのか、種と種の間の違いとは何なのか、それはどのようにして生じたのかを理解することに興味をもっていました。そして、学生時代を通じて、常にその問いにいろいろな方法で答えたいと思っていました。ですから、私たちがこのテーマを非常に深く掘り下げる機会を得たとき、徹底的に追求する大きなチャンスのように感じられたのです。

6歳のころのローズマリー・グラント博士。なぜ種は変化するのかという問いを、幼い頃から持ち続けていた

私たちは、「種はどのように発生したのか」「種の違いとは何か、そしてそれはどのように生じたのか」という大きな問いの答えを見つけるために、予期せぬものを追いかけていたのです。その答えは、さまざまな角度から導き出すことができました。たとえば、生態学的な角度、遺伝学的な角度、行動学的な角度など、大きな問いをさまざまな側面から解こうとするわけです。でも、同時にフィールドでは本当に予想もしなかったことがたくさん起きるのです。そして、その手がかりをたどっていくことによって、当初は夢にさえも思わなかった洞察が得られたのです。

ピーター・グラント 私たちの発見の一つひとつが新たな問いをもたらすのです。発見から問いへ、新たな知見からさらに次の問いへと進んでいったわけです。40年経ってさえも、私たちの問いは尽きることがありませんでした。もし140歳まで生きられるなら、私たちは今もまだダフネ島で問いを追いかけていることでしょう。

ケンブリッジ大学の学生のころのピーター・グラント博士

大きな問いを追いかけるには協力者が必要になる

西村 大きな問いに取り組むことについて伺ってみたいことがあります。大きな問いに向き合うとき、大きな喜びを味わうこともあれば、「答えは見つかるんだろうか」と不安を抱えることもあると思います。どうして、おふたりは大きな問いから逃げずに向き合い続けることができたのでしょう。

ローズマリー・グラント まったくおっしゃるとおりです。ピーターも私も含めて、誰もがひとりですべてのことをなし得ることはできせん。フィールドでは、私たちはできるかぎりの研究を進めることができました。しかし、ある時点で私たちが見ているものについて、遺伝的にも検証して理解したいと思うようになりました。私たちは、DNA分析に用いるためにフィンチの血液をほんのわずか採取して、自分たちでも分析しました。でも、より深く分析を進めるには協力者を見つける必要がありました。

最初の共同研究者は、ハーバード大学の発生生物学者、クリフォード・タビン(Clifford Tabin)教授と彼の学生たちです。彼らは胚の中で何が起きているのかを理解していました。私たちは彼らと一緒に許可を得て、フィンチの卵をいくつか採取し、胚の中を調べることができるようになりました。彼らは、胚が発達する過程で起きていること、それが成体の形態に及ぼす影響について多くのことを発見しました。しかし、私たちはフィールドで見た個体に起きていたこと、何が個体の変化を引き起こすのかについてもっと知りたかったのです。

DNA解析のためにフィンチの血液を採取するローズマリー・グラント博士

そこで次に、ウプサラ大学のレイフ・アンデション博士と共同研究を行うようになりました。彼は、私たちが研究をはじめた頃から蓄積しているフィンチの血液サンプルに適用できる技術を持っているのです。私たちはフィールドで起きていることを知っており、彼はゲノムレベルで起きていることを解読できる。このふたつを組み合わせると、フィールドで見たすべてのできごとについて、その遺伝的基盤に立ち返って見ていくことができるので、とてもエキサイティングなんです。

ピーター・グラント 大きな問いには2つのタイプがあると言えます。答えがひとつだけのものと断片的な答えがたくさんあるものです。前者の例として、DNAの遺伝暗号*4が挙げられます。数十年前、遺伝暗号がどのように構築されているかは大きな問題でした。何人もの研究者が少しずつ解決していき、最終的に1962年にジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックが解明し、明確な答えが得られました。後者に類する問題は、ひとつの答えで解決するのは非常に難しい、非常に広範で大規模なものです。私たちはそのような種類の問いを立ててきました。生物学的多様性の起源はどのように説明できるか?という問いです。

なぜ、世界にはこれほど多くの動物、植物、微生物などの生物の種が存在するのかをどのように説明できるのか? 私たちが、ガラパゴス諸島のダーウィンフィンチ、約100万年で進化した18種を選んだのは、比較的小さな系だったからでした。しかし、それでもなお「1つの種から派生した18種の進化をどう説明するのか」という問いは非常に大きく複雑です。私たちは、遺伝暗号のように一挙に解明するのではなく、来る年も来る年もその問題に対する理解を深めることに打ち込んできたのです。

問いに対する異なるアプローチをもつパートナーがいる心強さ

西村 おふたりは、異なる専門性をもつ研究者同士であり、ずっと同じ問いに興味をもち続けた同志でもいらっしゃいます。新しい発見の何がすごいのか、新しい問いが解けたらどんな可能性があるのかを理解する人がそばにいることが、長く研究を続けるうえで大事なことだったのではないでしょうか。特に、新しい発見を喜びあえる人がいることが大きかったのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか。

ローズマリー・グラント 同じ興味に対して、異なる角度からアプローチできたことは、とても大きな役割を果たしたと思います。お互いにアイデアを出しあうことができましたし、お互いの推察が現実を逸脱した方向に進みすぎないようにブレーキをかけ合うこともできました。常に、お互いをチェックし合っていました。そしてもちろん、大きな成功を収めたときはともに祝うことができました。一緒に仕事することは、昔も今も非常に大きなやりがいがあります。だから私は、もっとたくさんの夫婦のチームがあるといいと思います。

夫婦で支え合いながら研究を続けたグラント夫妻

ピーター・グラント この点については、その通りだと私からも言いたいです。私たちは夫婦というチームとして、ともに困難に立ち向かい問題を解決してきました。ある問題について答えを出すことができず、解決しようと一致団結する必要性そのものが喜ばしいのです。しかし、私たちが関心を寄せてきた進化について、さらに深い理解へとつながるような問いの答えを得られたなら、それは本当に本当に大きな喜びです。そして、私たちの共同作業によるその成功の瞬間は、間違いなく祝杯をあげるに値すると思っています。

杉本 おふたりは、研究における最高のパートナーであると同時に、家族のなかでは父であり母であり、また妻と夫という関係でもあります。家族でありながら研究をともにすることには、難しさが伴うこともあったのではないでしょうか。

ローズマリー・グラント 振り返れば、研究を始めた頃は大変だったと思います。私にとっては、まだ子どもたちが小さく、博士課程に進むかどうかを決めるときには特にそうでした。当時暮らしていたモントリオールには託児所などもなかったので、二人で話し合って私が家で子どもたちといるのが良いだろうと決めました。ただ、週に一回はベビーシッターに来てもらい、その日は図書館で一日中過ごして最新の論文を読み続けました。私が本格的に研究を再開したのは、アメリカに引っ越して子どもたちが学校に行くようになってからです。

当時、私たちには充分な収入がなかったので、私は教師の養成コースをとり、2〜3年の間は学校で教えることもしていました。つまり、先生の仕事と子どもたちの世話、夏にはガラパゴスでの研究とやりくりしていたわけです。幸いにも、子どもたちはガラパゴスで過ごすのが大好きでした。その後、状況はずっと良くなり、私も論文を発表できるようになりました。ただ、博士号を取得したのはずっと後になってから、49歳になったときでした。

博士号を受け取ったローズマリー・グラント博士とご両親。1986年、スウェーデン・ウプサラにて

でも、私にはとても協力的な夫がいました。ピーターは常に私を支えてくれて、子どもたちが小さいときでさえ、毎週1日、月曜日には図書館で論文を読むことに打ち込めました。今は、小さな子どもたちのための良い託児所がありますし、スウェーデンやフィンランドなどでは、母親も父親も、2〜3年の産休ないし育休を取ることもできます。女性や夫婦の研究者にとって、より良い環境が整ってきていると思います。

ピーター・グラント 1977年の干ばつの翌年、私たちは13歳と11歳の娘たちを連れて、ガラパゴス諸島の北東にあるヘノベサ島に3ヶ月半滞在しました。ローズマリーはここで博士論文を書いたのです。10日に1人くらいしか観光客も来ない、辺境の無人島での生活を想像してみてください。子どもたちは自然のなかで読書や勉強をしながらすばらしい時間を過ごし、親たちは自分たちの研究を進めることができました。振り返ると、あれは私たち家族にとって、最も素晴らしい時間だったと思います。

二人の娘と談笑するグラント夫妻。1979年、ガラパゴス諸島のエスパニョーラ島にて

世代を超えて引き継ぎたい、研究者へのアドバイス

西村 京都賞を受賞されたときの記念講演会で、ピーターさんはイエール大学におられた頃に、エブリン・ハッチンソン(Evelyn Hutchinson)教授から受けた影響について触れられていました。今度はおふたりから、ご自身が若い研究者に向けて伝えたいことを伺ってみたいです。

ピーター・グラント 私は、彼に与えられたアドバイスを次の世代、さらにその次の世代の研究者にまで引き継ぐことになるでしょう。なぜなら、ハッチンソン教授が指摘したように、一見何の関連性もないようなトピックの間につながりを見出すことには、極めて大きな価値があると思うからです。そのためのひとつの方法は、時間と能力の許す限りあらゆる知的・学問的領域、文系・理系をも問わずにあらゆる分野にわたって広い視野をもつことです。

視野の広さは、私たち自身の幸福のためだけでなく、科学的方法をも豊かにすると思います。いくつか例を挙げて説明しましょう。あくまで仮定の話ですが、大聖堂の建築を眺めることから得たアイデアを、ダーウィンフィンチのくちばしの変化のような、動物の発生の文脈に当てはめられるかもしれません。

何の関係性もなく見えるものごとの間に、注意深く、意図的につながりを見出そうとする方法もあります。そこで見出したつながりのアイデアは、あまり役に立たないないものが多いかもしれませんが、ときには非常に有益なものもあります。それは心に留めておくとよいでしょう。また、何人かの人が有効だといっているのは、なんらかの意図を持たずに、異質なアイデアを組み合わせていく方法です。これは、幅広く視野を広げることで促進されますが、それだけに頼るわけでもありません。たとえば、朝に目が覚めてまだ夢を見ているような状態にある人が、それまで何の関係もないと思っていたふたつの事柄を組み合わせるイメージが、突然頭のなかに浮かんでくるのです。

19世紀のドイツの科学者、アウグスト・ケクレ(August Kekulé)は白昼夢を見る習慣がありました。ベンゼンの構造について頭を悩ませていたとき、ある夜に暖炉の火を見ながらまどろんでいたときに白昼夢の状態に入り、一匹の蛇が自分の尻尾に噛み付いて輪を描いているイメージを思い浮かべて「これだ!」と思ったのです。そして、6個の炭素原子からなるベンゼンの環状構造を思いつきました。「化学」と「蛇」という、まったく関係のない2つのものを結びつける思いがけない方法で、彼はその発見を成し遂げたのです。

ローズマリー・グラント 彼が話している間に、私は別の例を考えていました。これは実際に起きた事例ですが、私たちの研究はがん研究に携わる人たちにとりあげられました。なぜなら、肺と大腸のがんは、異なる生態系にいるフィンチに相通じるところがあるからです。そこで私たちは、ロンドンとテキサスのがん研究センターの両方から招かれ、1週間滞在することになりました。ある組織のがん細胞の遺伝子が、血液を通じて別の組織のがん細胞に運ばれ、細胞に入り込んでその遺伝子と結合して、悪性転移を起こす可能性があります。これはぜひとも追求していただきたいアイデアです。異なるがんのクローンの遺伝子の混合は、異なるフィンチ種の交雑に似ていて、同じような進化的な反応が起きるかもしれないのです。私たちの研究とがん研究がもつ共通点や相違点について議論することは、本当にエキサイティングなことでした。

また、ふたつの種のフィンチの間で起きる遺伝子移入*5は、人間社会における異文化の融合にも非常によく似ています。その相乗効果によって、音楽や芸術、建築などに大きなイノベーションをもたらすことができるのです。同時に、もちろん悪い面もあり、対立や戦争につながることもあります。フィンチの世界でも同じようなことが起きているわけですが、文化的な面を育めるかどうかは、知的な存在である私たち人間次第だと思っています。異なる文化が会するとき刺激し合うのは、音楽やアート、建築などの面であって、対立や戦争を起こすように働きかけたいわけではないのです。

オンラインインタビューで笑顔で質問に応じるグラント夫妻

好奇心をもちつづけ、疑問を解決する努力を怠らない

西村 おふたりはご自身の研究に集中する一方で、いろんなことにも興味をもっておられたように思います。どのようにしてさまざまな分野に対してオープンな姿勢を保ち、好奇心や興味を保ち続けることができるのでしょうか。

ピーター・グラント 私たちは、自分たちが興味をもつすべての分野の進歩についていけるかどうかという問題を抱えています。なおかつ、各分野の知見は急速に拡大しており、たとえば150年前のダーウィンのようなジェネラリストになるのは誰にも不可能です。では、私たちはどうすればよいのか? 私たちは、好奇心を失ってもいませんし、この世界のさまざまなものごとに興味をもち続けています。

しかし研究においては、私たちはすべてを行うことはできません。研究プログラムのさまざまな要素を追求するには、共同研究者の力を借りなければいけません。さらに、私たちの実際の研究以外でも、それが単なる興味であれ、疑問に思ったことについては、私たちは本を読んだりウェブで調べたりして答えを得ようとしますし、他の専門分野、たとえば保全生物学*6の研究仲間に声をかけることもあります。何であれ我々の領域外のことで自分たちが頭を悩ませることがあれば、私たちは仲間に助けを求めます。

問題は、生物学だけでなく、芸術や文学、建築などあらゆる分野にわたって拡大し続ける知識ベースについていけるかどうかなのです。私たちは、すべてにおいて専門家になることはできませんから、それは不可能です。繰り返しになりますが、私たちは好奇心をもち続けるだけでなく、自分たちでは解けない、でも知りたくてウズウズするような疑問があるなら、他の人に聞いたり、多分やの情報に当たったりして、その答えを探し求めなければなりません。

ローズマリー・グラント ひとことだけ付け加えると、若い人たちのアイディアや熱意にふれ、彼らが何をしているのか、何を考えているのかを知ろうとし続けることが私たちの助けになっています。

西村 ありがとうございました。

(インタビューはオンラインにて2022年6月9日に実施しました)

 

受賞当時のインタビューを下のYouTube動画でご覧いただけます。

 

*1. 撹乱 台風、火事、地すべり、火山の噴火などの環境変化や人為的な環境改変、特定の生物の影響により、生態系の一部が大きく変化すること。

*2. 交雑 異なる種や系統の間で起こる交配。

*3. 遺伝的基盤 特定の生物の形質や行動を生み出す元になっている遺伝子。

*4. 遺伝暗号 タンパク質のアミノ酸配列を決定する核酸(DNAやRNA)の塩基配列。

*5. 遺伝子移入 交雑とその後の度重なる戻し交配(遺伝的に近い系統内で起こる交配)によって異なる種や系統の遺伝子の一部がゲノム内に取り込まれること。

*6. 保全生物学 生態系や生物多様性の保全を目的とした生物学。

 

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#05 グレアム・ファーカー博士 生態系の一部としての私は「森の古い木」として存在している
#06 エドワード・ウィッテン博士 科学は、この世界を理解することに寄与するものである

 

〈インタビュアー略歴〉
西村勇哉(にしむら・ゆうや)
NPO法人ミラツク代表理事。大阪大学大学院にて人間科学(Human Science)の修士を取得。セクター、職種、領域を超えたイノベーションプラットフォームの構築と、年間30社程度の大手企業の事業創出支援、研究開発プロジェクト立ち上げの支援、未来構想の設計、未来潮流の探索などに取り組む。 国立研究開発法人理化学研究所未来戦略室 イノベーションデザイナー、大阪大学社会ソリューションイニシアティブ 特任准教授。  NPO法人ミラツクのウェブサイト

〈ライター略歴〉
杉本恭子(すぎもと・きょうこ)
フリーライター。同志社大学大学院文学研究科新聞学専攻修了。アジール、地域、仏教をテーマに、研究者、企業経営者、僧侶、まちづくりをする人たちへのインタビューに取り組む。『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』(フィルムアート社)著。  writin’room

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