2001年先端技術部門エレクトロニクス
モートン・B・パニッシュ 写真

モートン・B・パニッシュ
(Morton B. Panish)

  • アメリカ / 1929年4月8日
  • 物理化学者
  • アメリカ科学アカデミー、アメリカ工学アカデミー 会員

半導体レーザーの室温連続動作達成による光エレクトロニクス発展への先駆的貢献

室温環境での半導体レーザーの連続レーザー発振動作を達成し、世界的なIT革命を支える情報インフラ構築に不可欠な役割を担うデバイスの実用化への道を拓き、今日の光エレクトロニクスの発展に先駆的な貢献をした。

プロフィール

略歴

1929年
ニューヨークに生まれる
1950年
デンバー大学卒業
1954年
博士号取得,物理化学,ミシガン州立大学
1954年
オークリッジ研究所
1957年
AVCO社RAD研究室技術スタッフ
1964年
ベル電話研究所(現ベル研究所)研究員
1969年
同研究所室長
1986年
同研究所特別研究員
1992年
同研究所退職

主な受賞と栄誉

1972年
エレクトロニクスディバージョン賞、電子化学協会(アメリカ)
1976年
アメリカ物理学会フェロー
1979年
ソリッド・ステート・アンド・テクノロジー賞(アメリカ)
1986年
C&C賞(林氏と)日本
1990年
国際結晶成長賞、アメリカ結晶成長協会
1990年
IEEEフェロー
1991年
モーリス・リンマン賞、アメリカ電気電子工業研究所
1994年
ジョン・バーディーン賞、アメリカ材料協会
会員
アメリカ科学アカデミー、アメリカ工学アカデミー

主な論文

1969年

A Low Threshold Room-Temperature Injection Laser. IEEE J. Quantum Electron, QE-5(4). (with I. Hayashi and P. W. Foy), 1969

1970年

Double Heterostructure Injection Lasers with Room-Temperature Thresholds as low as 2300A/cm2. Appl. Phys. Lett. 16(8). (with I. Hayashi and S. Sumski), 1970

1970年

Junction Lasers Which Operate Continuously at Room-Temperature. Appl. Phys. Lett. 17(3). (with I. Hayashi and others), 1970

1971年

GaAs-AlGaAs Double Heterostructure Injection Lasers. J. Appl. Phys. 42(5). (with I. Hayashi and F. K. Reinhart), 1971

贈賞理由

半導体レーザーの室温連続動作達成による光エレクトロニクス発展への先駆的貢献

アルフェロフ博士ならびに林博士とパニッシュ博士は、1970年に、それまではきわめて困難であった半導体レーザの室温環境における連続動作を達成した。この成果は、その後の半導体レーザ実用化への道を拓き、今日の世界的なIT革命を支える情報インフラ構築に不可欠な役割を担うことになった光エレクトロニクスの発展に先駆的な貢献をした。

1962年に誕生した最初の半導体レーザはホモ接合のガリウム・ヒ素(GaAs)レーザで、液体窒素中でレーザ発振に成功したものの、レーザ発振に必要な最低電流密度である「しきい値」がきわめて高かったためにパルス動作に限られて実用化をはばんでいた。その後、光を導波路中に閉じ込める様々な努力、ストライプ状の電極にする方法、アルミニウム・ガリウム・ヒ素(AlGaAs)とガリウム・ヒ素のヘテロ構造の導入などいろいろな試みがなされたが、いくつもの技術上の壁が立ちはだかり、室温連続動作には至らなかった。このような状況の中、1970年、アルフェロフ博士がロシア(旧ソビエト)で、林博士とパニッシュ博士がアメリカで、ほぼ同時期に半導体レーザの室温連続動作に成功した。3氏が開発した半導体レーザの特徴は、光を放出するための薄膜状のガリウム・ヒ素活性層の両側をアルミニウム・ガリウム・ヒ素結晶層ではさむ二重へテロ構造により、発振しきい値電流密度を飛躍的に低減させたところにある。

この画期的な成果が基になって、その後有力な諸研究が活発になされ、半導体レーザの実用化への道が拓かれた。そして、半導体レーザを用いた様々な新しい技術が生み出され、その結果、光エレクトロニクスの分野が急速に発展し、世界の社会構造と産業構造に大きな変革をもたらしたのである。

今や半導体レーザの応用は、情報化社会を実現させる原動力となったインターネットで世界を結ぶ光ファイバー通信のみならず、CD(コンパクトディスク)やビデオディスクに代表される光記録、コンピュータのメモリ、レーザプリンタなどの情報処理、さらにディジタル出版のようなメディアの分野にも広がっている。

このような革新的な技術開発の原点になったのは、3氏によるアルミニウム・ガリウム・ヒ素系二重へテロ構造レーザによる室温連続動作であり、この達成なくして現在の光エレクトロニクスの隆盛はあり得なかったと言っても過言ではない。

よってアルフェロフ博士、林博士、パニッシュ博士に先端技術部門における2001年京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

私の回想録

私は、今から百年ほど前にアメリカに移住した東欧系ユダヤ人の末裔です。私の祖先を含め、当時東欧から西欧に移り住んでいたユダヤ人の大半は、ユダヤ教原典の研究を中心とした文化を数百年にわたって継承していました。そのため、ユダヤ人のコミュニティにおいては、こうした原典を研究する学者が人々の尊敬を最も多く集めていました。19世紀に西欧で実現したユダヤ人の「解放」、ならびに1900年前後の東欧出身ユダヤ人のアメリカへの大規模な移住により、ユダヤ人の多くは新しい環境に適応することを余儀なくされ、彼らの文化は大きく変容を遂げる結果となりました。しかし、こうした変容を受け入れた後も、ユダヤ人の文化はある意味で一貫性を保ち、彼らが宗教学に対して抱いていた敬意は、医学、科学、法学などの専門分野をはじめとする世俗的な学問に対する敬意、支持へと形を変えて受け継がれていきました。

私の祖父母も、1900年頃、アメリカに向かったユダヤ人移民でした。彼らも、多くのユダヤ人の例に漏れず、民族の文化的伝統を重んじる生活を送っていました。私の両親は2人ともニューヨークで生まれました。経済的事情で大学進学を諦め、高校卒業後には就職しなければなりませんでしたが、独学でいろいろな知識を身に付けていました。私自身も、学問的研究に対して敬意を抱き、それを支持、奨励するという、ユダヤ民族の文化的遺産から多くを得ています。「人はなんらかの方法で社会に貢献することが大切である」と私が考えるようになったのも、その影響と言えるでしょう。私にとっての「社会への貢献」は、科学技術の進歩に寄与することであると考えています。子供の頃から日常生活の中に存在し、青年期には精神的な支えにもなったこうした文化的背景が、その後の私の人生行路に最も大きな影響を与えたことは間違いありません。

科学好きの父が私の関心を科学に向けようとしてくれたことや、高校時代の経験がきっかけで、私は化学を専攻しようと決心し、ニューヨーク市立大学ブルックリン校とデンバー大学で学びました。その後、ミシガン州立大学の大学院で物理に軸足を置いた研究に携わり、物理化学の博士号を取得しました。

大学院卒業後、オークリッジ国立研究所、そしてAVCO社のスタッフとして十年ほど基礎研究を行った後、私はベル研究所に迎え入れられました。同研究所における研究環境は知的刺激に溢れたものでした。科学者にとって、こうした周囲からの刺激は必ずプラスに作用するものなのです。同研究所で私が手がけた数多くの研究テーマの一つに、室温環境で連続発振動作が可能な注入レーザの開発があります。これは、林厳雄博士との共同作業という形で進められ、成功を収めることができました。この研究の成功はもとより、その他多くのプロジェクトを通じて、私は常に充実した研究生活を送ることができました。というのも、私には、人類の知的向上に貢献するようなことをしているという実感があったためです。

林博士と私が始めた、物理学者と化学者による共同作業という枠組みは、その後、半導体デバイスの研究において一般的になりました。林博士が日本に帰られてからも、私はこうした共同研究を繰り返し、その後二十年間、大変生産的に研究活動を行うことができました。

研究者として一線から退いた後も、私は、米国研究会議の依頼でNASAの科学プログラムのモニターを行う各種委員会に参加するなど、科学者としての幅を広げています。こうした名誉職は、研究者としてこれまで行ってきたものとは全く違う形で科学に貢献するものですが、大変やりがいを感じています。加えて、全米アカデミー人権委員会の委員としても忙しい毎日を送っています。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

半導体レーザ ―連続動作と将来への発展―

Semiconductor Laser - Continuous Operation and Progress for the Future -

日時
2001年11月12日(月)13:00
場所
国立京都国際会館
企画・司会
伊賀 健一[(専門委員会 委員)日本学術振興会 理事]
主催
財団法人 稲盛財団
後援
京都府、京都市、NHK
協賛
電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ、応用物理学会、IEEE/LEOS日本チャプタ、光産業技術振興協会、日本学術振興会

プログラム

13:00
開会 伊賀 健一
挨拶 稲盛 豊実 [稲盛財団 常務理事]
挨拶 末松 安晴[(審査委員会 委員長)国立情報学研究所 所長]
受賞者講演 林 厳雄 - 先端技術部門 受賞者
「半導体レーザーの室温連続発振の成功と実用化の難関」
受賞者講演 モートン・B・パニッシュ - 先端技術部門 受賞者
「超格子のX線特性評価と量子井戸におけるサブバンド間遷移を用いるデバイス」
受賞者講演 ジョレス・イワノヴィッチ・アルフェロフ - 先端技術部門 受賞者
「ダブルへテロ構造レーザ ―過去・現在・未来―」
休憩
パネル討論 司会:中村 道治[(専門委員会 委員長) 株式会社日立製作所 常務 研究開発本部 本部長]、伊賀 健一
パネラー:ジョレス・イワノヴィッチ・アルフェロフ、林 厳雄、モートン・B・パニッシュ、末松 安晴、赤崎 勇[名城大学 理工学研究科 ハイテク・リサーチセンター 教授]、池上 徹彦[(審査委員会 委員) 会津大学 学長]
17:30
閉会 伊賀 健一
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