William Forsythe

第39回(2024)受賞

思想・芸術部門

映画・演劇

ウィリアム・フォーサイス

/  振付家

1949 -

記念講演会

ときに、わたしは花々にキスをする

2024年

11 /11

13:00〜16:00

会場:国立京都国際会館

定員:1,500人(先着順)

入場無料

業績ダイジェスト

舞踊の技法と美学を根底から刷新し、身体表現の新たな地平を開いた振付家

伝統的なバレエの構造を問い直し、確立された規範を徹底的に解体することで、作品制作や舞踊美学の全く新たなあり方を実現した。従来の「振付」というもの自体を踏み越える革新的な作品の数々によって身体表現の概念を根底から変革し続けている。

業績

ウィリアム・フォーサイスは、伝統的なバレエを徹底的に解体して作品制作や舞踊美学の全く新たなあり方を実現し、革新的な作品の数々によって身体表現の概念を根底から変革し続けている。

1949年に米国ニューヨーク州ロングアイランドに生まれたフォーサイスは、ジャクソンビル大学でバレエを学び、ニューヨークのジョフリー・バレエ団を経て1973年にドイツのシュトゥットガルト・バレエ団に入団。ダンサーとして踊る傍ら常任振付家として本格的な創作活動に入る。1984年にはフランクフルト・バレエ団の芸術監督に就任。パリ・オペラ座はじめ世界の一流バレエ団からの委託作品を含む先鋭な大作を次々と発表し、世界的な名声を確立する。2004年のフランクフルト・バレエ団解散後は、2005年から2015年までザ・フォーサイス・カンパニーを率いた。現在はドイツとアメリカを拠点に世界各国でバレエ上演、インスタレーションの制作を中心に活動を続けている。

フォーサイスの革新性は、論理的な帰結を前提とした従来の舞踊作品の構造を問い直す姿勢に顕著に現れる。例えばArtifact (1984)では、バロック音楽を背景にダンサーたちが動き、なにか形が生まれかけるが、そのたびに舞台幕が下り視覚を遮断する。形が生まれかけては消える過程のみが繰り返されるさまに、観客は打ち寄せる大波や雷光などの強大な存在を眼前にしたかのように魅入られてしまう。

踊り手の動きもまた、確立された規範を破壊する異次元の美を生み出す。In the Middle, Somewhat Elevated (1987)における、破壊的な電子音響の中での極限までの手脚の進展やトウシューズを舞台床に突き刺すような鋭利なステップは、バレエの発祥以来脈々と受け継がれてきた調和や優雅さとは対極の、非人間的なまでの強靱さを突きつける。

フォーサイスはさらに、物語や形式の一貫性のために振付家が考案した動きを指示し、ダンサーがそれを演ずるという従来の振付のあり方自体をも踏み越える。彼は、即興の可能性を広げる新たな方法論を開拓し、マスターした踊り手は、上演中にリアルタイムで無限に動きを生成し続けられる驚くべきシステムを可能としたのである。それを伝えるため、彼は、身体の動きの映像、言葉による説明、動きをなぞるアニメーションを組み合わせるデジタル教材Improvisation Technologies. A Tool for the Analytical Dance Eye (1994, 1999)を創り上げた。

インスタレーションや映像からなる、Choreographic Objectsと呼ばれる一連の作品においても、フォーサイスは身体や上演芸術の本質を追求し続けている。来場者が天井から下がった無数の錘の不規則な動きを避けながら通り抜け、あたかも物理的な装置が振付を行っているかのような現象を生み出すNowhere and Everywhere at the Same Time No.2 (2013)、工業用ロボットがあらかじめプログラミングされた動きで寸分の狂いもなく巨大な旗を振り、人間の介入しないダンスを生成するBlack Flags (2014)などがその例である。それを目にした観客は、自分の身体と環境との関係を問い直さずにはおれない。

現代の舞踊は、美術や器楽など視聴覚的感性が優位を占めてきた西洋芸術に、直接的な身体性を導入した点において重要な意味を持ち、広く芸術や思想を触発してきた。フォーサイスは一貫してその先端にあり続け、その業績の重要性は将来にわたっても揺るぎないものである。

プロフィール

略歴
1949年
米国ニューヨーク州ロングアイランド生まれ
1967年
ジャクソンビル大学でクラシック・バレエを学び始める
1969年
ジョフリー・バレエ・スクールの奨学金を受ける
1973年
シュトゥットガルト・バレエ団入団
1976年
振付家としての最初の作品Urlichtを創作
シュトゥットガルト・バレエ団の常任振付家に就任
1984–2004年
フランクフルト・バレエ団 芸術監督
2005–2015年
ザ・フォーサイス・カンパニー 芸術監督
主な受賞・栄誉
1988年、1999年、2004年、2007年
ニューヨーク・ダンス・アンド・パフォーマンス・アワード(ベッシー賞)
1992年、1999年
オリヴィエ賞
1997年
ドイツ連邦共和国功労勲章一等功労十字章
1999年
フランス芸術文化勲章コマンドゥール
2002年
ウェクスナー賞
2010年
ヴェネツィア・ビエンナーレ・ダンス部門金獅子功労賞
2020年
ドイツ演劇賞「ファウスト」功労賞
主な作品
1976年
Urlicht
1983年
Gänge
1984年
Artifact
1985年
LDC
1987年
In the Middle, Somewhat Elevated
1988年
Impressing the Czar
1990年
Limb’s Theorem
1991年
The Loss of Small Detail
1995年
Eidos: Telos
1999年
Improvisation Technologies. A Tool for the Analytical Dance Eye (CD-ROM)
2000年
Kammer/Kammer
2003年
Decreation
2005年
Three Atmospheric Studies
Human Writes
2006年
Heterotopia
2008年
I Don’t Believe in Outer Space
2013年
Nowhere and Everywhere at the Same Time No.2 (installation)
2014年
Black Flags (installation)
2021年
The Sense of Things (installation)

プロフィールは受賞時のものです