Tsutomu Miyasaka

第41回(2026)受賞

先端技術部門

エレクトロニクス

宮坂 力

/  化学者

1953 -

桐蔭横浜大学 大学院工学研究科 特任教授 / 早稲田大学 特命教授

業績ダイジェスト

次世代太陽光発電技術「ペロブスカイト太陽電池」の創成

新概念のペロブスカイト太陽電池を世界に先駆けて提唱し、軽量・柔軟という、従来の常識を覆す次世代電源のあり方を提示した。鉛の含有による環境負荷の軽減や動作寿命の改善などの課題解決への取り組みも主導しており、今後の世界のエネルギー問題の解決に向けて大きな影響を与え続けている。

業績

宮坂力は、シリコンを中心とする太陽光発電の長い歴史において、ペロブスカイトという画期的な材料系を用いた太陽電池を導入し、溶液塗布プロセスによる高効率な光電変換の地平を拓いた。1950年代に誕生した結晶シリコン太陽電池は、後の改良により、エネルギーインフラの基盤を支え、厚さが100μm程であるが、20年以上の長期信頼性と26%を超える変換効率を誇るなど、世界的に普及した技術である。これに対し、宮坂が2006年頃から提唱し始めたペロブスカイト太陽電池は、有機・無機ハイブリッド構造を持ち、金属ハロゲン化物がもつ卓越した光吸収係数と電荷輸送特性を利用している。光電変換に要する厚さ(電極・基板を除く)は数μm以下であるため、曲げに対して強く、簡便かつ低コストな印刷技術という独創的な方法を可能にしている。この革新により、大規模な真空装置を必要とする従来の製造法から脱却し、「軽量・柔軟」という特性を活かすことによって、従来は設置が困難だった場所へも太陽光発電を普及させるという、新パラダイムをもたらしている。

現在、世界のクリーンエネルギーを牽引するシリコン太陽電池は、高い信頼性と低い均等化発電原価(LCOE)の実績も持ち、確固たる地位にある。ペロブスカイト太陽電池は、従来シリコン型が及ばなかった壁面や移動体といった新市場を切り拓く次世代の旗手として期待を集めている。また、将来的には、堅牢なシリコン型が基幹電力を支え、多様な形状に適応するペロブスカイト型がエネルギー供給の裾野を広げるという、相補的運用が期待される。特に、シリコン型の上にぺロブスカイト型を積層した「タンデム型」太陽電池において、シリコン単体の限界を超える30%以上の超高効率化が報告されている。既存のインフラを活用しながら再生可能エネルギーの導入を加速させる鍵として、世界中で熱い関心が寄せられている。

現在、ペロブスカイト材料の安定性向上や環境負荷の低減に向けた研究がなされており、本技術が社会の各所に広がるための重要な進化のプロセスである。特に、宮坂は、鉛フリー材料の探索や高度な封止技術の開発など、社会実装に向けた課題解決を主導している。今後の研究開発が進むことでこれらの技術革新が結実し、ペロブスカイト太陽電池が広い空間を電源に変える柔軟なエネルギー源として、真の社会的役割を果たすことが期待されている。

宮坂が拓いたペロブスカイト太陽電池の領域は、学術的深化を経て、持続可能な社会基盤を支える実用化段階へと進展しつつある。その先駆的な着想は高く評価され、エネルギー問題の課題解決に取り組む熱意はまさに京都賞に相応しいものである。

参考文献
(1) Kojima A, Teshima K, Miyasaka T & Shirai Y (2006) Novel Photoelectrochemical Cell with Mesoscopic Electrodes Sensitized by Lead-Halide Compounds (2). 210th ECS Meet. Abstr. MA2006-02: 397.
(2) Kojima A, Teshima K, Shirai Y & Miyasaka T (2009) Organometal Halide Perovskites as Visible-Light Sensitizers for Photovoltaic Cells. J. Am. Chem. Soc. 131: 6050–6051.
(3) Lee MM, Teuscher J, Miyasaka T, Murakami TN & Snaith HJ (2012) Efficient Hybrid Solar Cells Based on Meso-Superstructured Organometal Halide Perovskites. Science 338: 643–647.
(4) Singh T & Miyasaka T (2018) Stabilizing the Efficiency Beyond 20% with a Mixed Cation Perovskite Solar Cell Fabricated in Ambient Air under Controlled Humidity. Adv. Energy Mater. 8: 1700677.
(5) Singh T, Ikegami M & Miyasaka T (2018) Ambient Fabrication of 126 µm Thick Complete Perovskite Photovoltaic Device for High Flexibility and Performance. ACS Appl. Energy Mater. 1: 6741–6747.

プロフィール

略歴
1953年
神奈川県鎌倉市生まれ
1976年
早稲田大学 理工学部 卒業
1978年
東京大学 大学院工学系研究科 修士課程修了
1980–1981年
ケベック大学トロワ・リヴィエール校 生物物理学科 客員研究員
1981年
東京大学 工学博士
1981–1992年
富士写真フイルム株式会社 足柄研究所 研究員
1992–2001年
富士写真フイルム株式会社 足柄研究所 主任研究員
2001–2017年
桐蔭横浜大学 大学院工学研究科 教授
2004年–
ペクセル・テクノロジーズ株式会社 代表取締役
2005–2010年
東京大学 大学院総合文化研究科 客員教授
2017年–
桐蔭横浜大学 大学院工学研究科 特任教授
2017–2024年
東京大学 先端科学技術研究センター フェロー
2020–2023年
早稲田大学 大学院先進理工学研究科 客員教授
2026年–
東海大学 客員教授
 
早稲田大学 特命教授
主な受賞・栄誉
2016年
第69回日本化学会賞
2017年
クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞 化学部門
2020年
市村学術賞 功績賞
2022年
英国ランク賞 光エレクトロニクス部門
2024年
2023年度朝日賞
日本学士院賞
2025年
NIMS Award
会員
電気化学会、日本化学会

プロフィールは受賞時のものです