Takeo Kanade
第32回(2016)受賞
情報科学
/ ロボット工学者
1945 -
カーネギーメロン大学 ワイタカー記念全学教授
コンピュータビジョンの基礎理論に根源的に貢献するのみならず、自動運転を含むそのロボティクスへの革新的な応用技術を次々に創出し、長きにわたってこの分野の発展の基礎を築きながら牽引し続ける傑出した先駆者である。
金出武雄博士は、コンピュータビジョンの基礎的な理論からロボティクスへの応用まで幅広い領域で、長きにわたって活躍してきた。今日、知的機能を備えたカメラやロボットが社会の様々な分野で活躍しているが、これらの技術の基礎および実装の両面で傑出した先駆的な貢献を行った。
金出博士はコンピュータによる画像認識研究の先駆的研究にまず取り組み、ニューラルネットワークによる学習に基づく顔検出手法を提案した。この手法は顔検出率を飛躍的に向上させて、実用的に利用ができるレベルにまで押し上げた。
さらに、動画像をもとに外界の立体構造と運動を認識する問題に取り組み、物体の動きを表すオプティカルフローの推定の基礎となる頑健なアルゴリズムを提案した。加えて、物体の動きから3次元形状を復元する問題に対して特異値分解に基づく3次元復元法を提案した。これらは今日の映像処理の基本となっており、画像をもとに動的な3次元世界を認識する手法を大きく進展させたのである。
特に注目すべきは、自動運転の研究である。1985年から始まった自動走行車のプロジェクトは、今日の自動運転技術のさきがけとなった。車に設置した距離センサとカメラからの情報に基づいて、レーンの認識と変更、障害物の検出と回避、他の車の検出などをリアルタイムで行う人工知能システムを世界で初めて構築した。その成果を実証するために“No Hands Across America”という壮大なデモンストレーションを行ったのである。これはアメリカ大陸を横断するもので、東部のピッツバーグから西海岸のサンディエゴまで約4,500kmをほとんどハンドルから手を放して走行するという画期的な成果を残した。このデモンストレーションが自動運転の実現に道筋をつけた意義は大変大きいものであった。
このように金出博士の業績は、学術的な基礎研究から実用的な技術の実装まで広い分野にわたっており、画像処理、パターン認識の分野において、基礎的、理論的な枠組みを提唱するだけでなく、そこから壮大な実用技術の開発を成し遂げたという点で極めて傑出している。
以上の理由によって、金出武雄博士に先端技術部門における第32回(2016)京都賞を贈呈する。
プロフィールは受賞時のものです