青色発光ダイオードの実現に向けて、永年にわたり粘り強く研究を進め、ほぼ不可能と思われていた窒化ガリウム系pn接合を実現する先駆的な成果を世界に示した。この成果は、青色発光素子の実用化に向けての力強い一歩となった。同氏はその後も先導的に研究を進め、その貢献は世界的に高く評価されている。
Metalorganic vapor phase epitaxial growth of a high quality GaN film using an AlN buffer layer (Amano, H., Sawaki, N., Akasaki, I. and Toyoda, Y.). Applied Physics Letters 48: 353-355, 1986.
Effects of AlN Buffer Layer on Crystallographic Structure and on Electrical and Optical Properties of GaN and Ga1-xAlxN (0<x≤0.4) Films Grown on Sapphire Substrate by MOVPE (Akasaki, I., Amano, H., Koide, Y., Hiramatsu, K. and Sawaki, N.). Journal of Crystal Growth 98: 209-219, 1989.
P-Type Conduction in Mg-Doped GaN Treated with Low-Energy Electron Beam Irradiation (LEEBI) (Amano, H., Kito, M., Hiramatsu, K. and Akasaki, I.). Japanese Journal of Applied Physics 28: L2112-L2114, 1989.
Crystal Growth and Conductivity Control of Group III Nitride Semiconductors and Their Application to Short Wavelength Light Emitters (Akasaki, I. and Amano, H.). Japanese Journal of Applied Physics 36: 5393-5408, 1997.
Breakthroughs in Improving Crystal Quality of GaN and Invention of the p-n Junction Blue-Light-Emitting Diode (Akasaki, I. and Amano, H.). Japanese Journal of Applied Physics 45: 9001-9010, 2006.
赤﨑勇博士は、青色発光ダイオードの実現に向け、永年にわたり窒化ガリウム(GaN)結晶の成長と素子応用の研究を粘り強く進め、ほぼ不可能と思われていたGaN系pn接合を実現する先駆的な成果を達成した。この成果は、内外の研究の流れを変え、青色発光素子の実用化に向けた研究を活性化させる歴史的一歩となった。同氏は、その後も先導的研究を一貫して進めており、その貢献は世界的に高く評価されている。
半導体を用いた発光ダイオード(LED)は、効率や寿命などに優れ、多様な応用がある。このため早くから研究開発が進み、赤色や緑色の発光素子などが実現されてきた。さらに、青色LEDが実現すれば、光の3原色が揃い、フルカラーの表示や白色照明などへと応用が拡がるものと期待されていた。また、青色の半導体レーザが実現できれば、光ディスクの記録密度を格段に高められることなどが予測されていた。このため、青色LEDを目指す試みが1970年頃から活発になり、有望な材料としてGaNが注目され、精力的な研究が推進された。しかし、GaN結晶の質を高め、電気的性質を制御することは難しく、n型結晶は実現されたが、LEDに不可欠のp型結晶は実現できなかった。このため、70年代末には、研究者の多くがGaN系青色LEDの実現を断念し、撤退した。
しかし、赤﨑博士は粘り強く研究を続け、1985年には、サファイア基板に低温で緩衝層を形成した後にGaNを成長すると、品質が格段に高まることを見出した。さらに、質の高まったGaN結晶にマグネシウム原子を導入し、電子線を照射すると、結晶がp型化することを、天野浩博士らの協力を得て、発見した。続いて、この手法により世界初のGaNのpn接合を1989年に実現し、青色LEDとして動作することも示した。
これらの成果は、青色発光素子材料としてのGaN系材料の可能性を再認識させ、実用化に向けた研究開発が内外で精力的に推進される引き金となった。この結果、関連の研究が進み、青色LEDが1993年に実用化され、今では表示と照明に広く用いられている。また、青色半導体レーザも、その後に実用化され、高密度光記録機器の実現などに重要な役割を果たしている。赤﨑博士は、こうした青色発光素子の実現への道を拓くとともに、一連の研究を通じ、その後の発展にも先導的な貢献をなした。
以上の理由によって、赤﨑勇博士に先端技術部門における第25回(2009)京都賞を贈呈する。
私がルミネッセンスに興味を抱くようになったのは、大学を出て最初の職場で、テレビ用ブラウン管の蛍光面を担当することになった時です。その後、名古屋大学で、ゲルマニウム(Ge)単結晶作製と半導体物性の研究に取り組み、1961年、今日“気相エピタキシャル成長法”と呼ばれている方法で、Ge単結晶膜の作製に成功。これが縁で、1964年、新設の松下電器東京研究所に招かれ、Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体の結晶成長と発光素子の研究を始めました。
1960年代、赤色や黄緑色の発光ダイオード(LED)や赤外の半導体レーザは開発されていましたが、青色発光素子は70年代に入っても実用化の見通しは全くありませんでした。
高性能の青色発光素子の実現には、窒化ガリウム(GaN)などエネルギーの大きい半導体の高品質単結晶の作製と、そのpn接合の実現が不可欠ですが、いずれも極めて困難だったからです。私は、なんとかしてこれらの困難を克服し、GaN pn接合による青色発光素子を実現しよう―と志を立てました。
しかし、結晶成長は困難を極め、試行錯誤の繰り返しでした。1970年代後半、多くの研究者がこの“未到の半導体”の研究から撤退し、“一人荒野を行く”心境で愚直にGaNの結晶成長に明け暮れていました。1978年、ごく微小ながら高品質の結晶を顕微鏡の視野に捉え、GaNの可能性を直感しました。そして、もう一度、本研究の原点である“結晶成長”の基本に立ち返ることを決意しました。これは私にとっても、GaNの研究開発にとっても大きな岐路でした。1979年、GaNの結晶成長に最適の方法として、“有機金属化合物気相成長法(MOVPE)”を採ることにしました。この判断が正しかったことは、今日、青色LEDなどGaN系素子が殆どこの方法で作製されていることから明らかです。
1981年から、名古屋大学で院生・共同研究者の多大の協力を得て、低温バッファ層技術による高品質GaN結晶、この結晶へのマグネシウム添加と電子線照射によるp型伝導、さらにGaN pn接合型青色LEDなどを、初めて実現しました。講演では、その後の展開についても述べたいと思います。
Nitride Semiconductors and Their Device Applications: Current Status and Future Prospects