1993年基礎科学部門生物科学(進化・行動・生態・環境)
ウイリアム・ドナルド・ハミルトン 写真

ウイリアム・ドナルド・ハミルトン
(William Donald Hamilton)

  • イギリス / 1936年-2000年
  • 進化生物学者
  • オックスフォード大学 教授

包括適応度の提唱及び生物の社会性と協力の進化理論の確立

血縁者を助けることによっても自分の遺伝子が後代に伝わることに着目して、「包括適応度」の概念を提唱し、動物の利他行動がなぜ生じうるかというダーウィン以来の難問を解決するとともに、親が自分の包括適応度を増大するために、子の性比を操作するという理論を展開するなど、生物科学に革命的な影響を与えた。
[受賞当時の対象分野: 生物科学(遺伝・発生・進化・生態)]

プロフィール

略歴

1936年
エジプト、カイロに生まれる
1960年
ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒業
1968年
Ph.D.(ロンドン大学)
1964年
ロンドン大学インペリアル・カレッジ講師
この間ハーバード大学招聘教授、ブラジル サンパウロ大学招聘教授、9ヶ月間王立協会ブラジル奥地探検隊に参加
1978年
ミシガン大学教授(進化生物学)
1984年
オックスフォード大学教授(動物学)

主な受賞と栄誉

1978年
アメリカ芸術科学アカデミー外国人名誉会員
1980年
王立協会会員
1982年
ニューカム・クリーヴランド賞(アメリカ科学振興協会)
1988年
ダーウィン・メダル
1989年
リンネ協会科学メダル
1991年
フリンク賞(ロンドン動物学会)

主な論文・著書

1964年

The Genetical Evolution of Social Behavior I & II. Journal of Theoretical Biology 7., 1964.

1967年

Extraordinary Sex Ratios. Science. 156., 1967.

1972年

Altruism and Related Phenomena Mainly in Social Insects. Annual Reviews of Ecology and Systematics. 3., 1972.

1980年

Sex versus Non-sex versus Parasite. Oikos. 35, 1980.

1981年

The Evolution of Cooperation. (with Axelrod, R.) Science. 211., 1981.

1982年

Heritable True Fitness and Bright Birds: A Role for Parasites? (with Zuk, M.) Science. 218., 1982.

贈賞理由

包括適応度の提唱及び生物の社会性と協力の進化理論の確立

ウイリアム・ドナルド・ハミルトン博士は「包括適応度」の概念を提唱し、利他行動の進化を明らかにするとともに、性比理論の拡張など進化生物学上極めて有力な説を提唱し、従来の生物科学に革命的な影響を与えた偉大な行動生態学者である。

自然淘汰に基づくダーウィンの進化論の根幹は、よりよく適応した個体はより多く自分の子孫を残し、その結果、よりよく適応した個体が増えていって、その方向に進化が起こるというもので、個体は子孫を残すためにそれぞれ極めて利己的に振る舞っているという見方が一般的であった。ところが、働きバチや働きアリは、自分では卵を産まず、女王の産んだ卵の世話をするが、このような自分の適応度を高めるうえでは不利としか思われない「利他行動」は、ダーウィンの個体選択理論となじまない部分であり、長い間進化的説明が困難であった。

ハミルトン博士は1964年に「包括適応度」という概念を考え出すことによって、ダーウィン以来のこの難問を100年ぶりに解決した。自分の血縁者は、ある確率で自分のと同じ遺伝子を持っており、血縁者を助けたり育てたりすることによっても自分の遺伝子を持った子孫を増やすことを、博士は数学的に厳密に証明したのである。これにより、動物たちはそれぞれの個体が自分の包括適応度を高めるように行動している、というわれわれの今日の認識ができ上がった。博士の提唱したモデルは極めて現実に適合しており、その血縁選択理論は社会性昆虫の不妊個体の進化をうまく説明したのみならず、包括適応度の概念としてあらゆる生物への適用に道を拓いたのである。また、1967年、ハチなどに見られる極めて偏った性比を説明する局所的配偶競争のモデルを提出し、ゲーム理論による解析で動物の性比研究を大幅に進めた。

ハミルトン博士のこれらの一連の仕事に触発されて、行動学・生態学を中心とした生物科学には大転換が起こった。それは行動生態学、社会生物学という研究分野を生み出すとともに、その影響は人類学、遺伝学、発生学、細胞生物学などの諸分野へと今も広がりつつある。

以上のような偉大な業績により、ウイリアム・ドナルド・ハミルトン博士は第9回京都賞基礎科学部門の受賞者に最も相応しい。

記念講演

記念講演要旨

ショーハムとダウンの間-自然の美への鍵を求めて

人生を科学へ傾けることになったのは、持って生まれたものと、両親の影響によるものです。

私自身はロンドン近郊で育ちましたが、両親はニュージーランドからの引き揚げ者で、父はエンジニア、母は医者でした。二人とも私たち大家族が開拓者のように自給自足するという信念を持っており、これは私たちが住んでいたロンドン近郊の中流階級の環境では、かなり変わった気風でした。

両親は自分達の考えを、子供達の躾と、外部のサービス、修理や買い物に頑固なまでに頼らないということで実践していました。私の子供時代の家は、郊外地域の端にあって、大きな庭があり森や野原に近く、自然の情景や生物に対する私の生来の興味へと結びついていきました。子供の頃の私は、内向的であまり社会的ではなく、客観的に考える性格で、それが科学者になった重要な原因だったと思います。美しさ、望ましくは自然の美しさを感じる気持ちが、科学者の研究の方向と深さを決定する上で常に重要であると私は主張します。

父から、私は道具の使い方、物の設計や作り方、そして興味をそそるけれども、それでいて決まりに縛られない数学の考え方を教わりました。父の空間的、数学的、そして何とかして物事を可能にしてしまうという才能を見習ったことは、後の私の研究の理論展開に非常に価値のあるものでした。

父は工学的アイデアを示すために実際的に模型を作りましたが、後に父は理論的に模型を作りました。父の模型と同様私の模型は間に合わせで素人の仕事ですが、父との同様に実際に機能し、他の方法では理解できなかった結果を出しています。

母からは、自然史、生物学、美的感性を教わりました。特に、幼い時から自然淘汰による進化の理論を母から学び、その考えを理解した時から、進化はより一層私の興味を引くようになりました。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

行動・生態・進化-包括適応度の実像を探る-

Behavior, Ecology, and Evolution: Inclusive Fitness in the Real World

日時
1993年11月12日(金)13:00~17:30
場所
国立京都国際会館
企画・司会
久野 英二 基礎科学部門専門委員会委員、京都大学農学部教授

プログラム

13:10
開会
挨拶 稲盛 豊実 稲盛財団常務理事
挨拶 広中 平祐 基礎科学部門審査委員会委員長、京都大学名誉教授
業績紹介 日高 敏隆 基礎科学部門専門委員会委員長、京都大学名誉教授
13:25
記念講演 ウイリアム・ドナルド・ハミルトン 基礎科学部門受賞者
「性、健康、社会行動: 包括する理論を求めて」
14:15
講演 青木 重幸 立正大学教養部教授
「アブラムシの社会: 開かれているか、閉じた社会か?」
14:40
講演 伊藤 嘉昭 沖縄大学法経学部教授
「真社会性狩りバチにおける多女王制の進化: チビアシナガバチ属の教えること」
15:05
講演 山村 則男 佐賀医科大学助教授
「血縁者間のコンフリクトとその解消」
15:30
休憩
15:40
講演 山口 陽子 北海道立林業試験場研究職員
「ハミルトンの性比較論: 実証と拡張」
16:05
講演 中嶋 康裕 京都大学理学部研修員
「性転換の理論と実際」
16:30
講演 矢原 徹一 東京大学教養学部助教授
「顕花植物における自家受粉と無融合種子形成の進化」
16:55
講演 巖佐 庸 基礎科学部門審査委員会委員、九州大学理学部教授
「性の数の進化」
17:20
質疑応答
17:30
閉会
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