1999年基礎科学部門地球科学・宇宙科学
ウォルター・H・ムンク 写真

ウォルター・H・ムンク
(Walter H. Munk)

  • アメリカ / 1917年10月19日
  • 海洋学者
  • カリフォルニア大学スクリップス海洋研究所 教授

海洋と波動の力学的動態の解明による地球科学への多大な貢献

50年あまりにわたる研究活動によって海洋の種々の波動と潮汐、及び海洋大循環の力学の解明に画期的前進をもたらし、また、大気や海洋が地球自転の変動に及ぼす影響を初めて明らかにして、この分野の研究に新しい時代を開くなど、海洋の研究を中心に、20世紀後半の地球科学に大きな影響を与え続け、その発展に多大な貢献をした。

プロフィール

略歴

1917年
オーストリア、ウィーンに生まれる
1933年
アメリカへ渡る
1939年
カリフォルニア工科大学卒業
1947年
博士号取得(海洋学)、カリフォルニア大学
1947年
カリフォルニア大学スクリップス海洋研究所 地球物理学 準教授
1954年
同教授

主な受賞と栄誉

1965年
アーサー・L・デイ・メダル、アメリカ地質学会
1966年
スベルドラップ・ゴールドメダル、アメリカ気象学会
1968年
英国王立天文学会ゴールドメダル
1989年
ウイリアム・ボーウィメダル、アメリカ地球物理連合
会員
アメリカ科学アカデミー会員、英国王立協会外国人会員、アメリカ気象学会名誉会員、英国王立気象学会名誉会員

主な論文

1946年

Wind, sea, and swell: theory of relations for forecasting. (with H. U. Sverdrup) U.S. Hydrographic Office Tech. Rpt.,  1946

1950年

On the wind-driven ocean circulation. J. Meteorol., 1950

1960年

The Rotation of the Earth: A Geophysical Discussion. (with G. J. F. MacDnald) Cambridge University Press, 1960

1972年

Space-time scales of internal waves. (with C. Garrett) Geophys. Fluid Dyn., 1972

1979年

Ocean acoustic tomography: a scheme for large scale monitoring. (with C. Wunsch) Deep-sea Res., 1979

1995年

Ocean Acoustic Tomography. (with P. Worcester and other) Cambridge University Press, 1995

贈賞理由

海洋と波動の力学的動態の解明による地球科学への多大な貢献

ムンク博士は、50年余にわたり、海洋物理の多くの優れた先導的研究を行い、海洋科学に大きな影響を与え続け、その発展に多大な貢献をした。

博士は、スベルドラップ博士とともに、波浪の発生、発達機構について先駆的な研究を行い、ランダムな波浪の周期と波高を統計的な代表値で表して、その変化を予測する波浪予測理論を世界で初めて開発した。このモデルは、その後の波浪予測発展の基礎となり、今日の波浪予報の中に生き続けている。また、海面のちりめん状の波で反射した太陽光の観測から、海上風と波の特性の関係を求め、現在の人工衛星からの電波による海上風リモートセンシングの基礎を築いた。

博士はまた、黒潮など世界の主要な海洋大循環は、海上を吹く風で駆動され、地球自転の効果と水平乱流を通した陸岸摩擦の効果で決まることを示し、観測された風の分布にもとずいて、亜寒帯環流から赤道海流に至る現実の海流分布を見事に説明した。その中でも、よく知られている「環流」(ジャイヤ)は博士の生み出した用語であり、また、ムンクレイヤーと呼ばれる大洋の西岸に集中した強い流れの機構を明らかにするなど、現在につながる風成海洋循環理論の枠組みを作り上げた。その後、博士は海洋における内部重力波の動態の研究を行い、普遍的に適用できる時空スペクトル形を発見した。この発見は研究者たちに強いインパクトを与え、スペクトル形の起源に関して今も議論が続いている。

博士の研究対象は固体地球の物理学にもおよび、海底掘削による地球マントルのサンプリングを提案した。これはモホール計画を経て、現在の大洋底掘削計画(ODP)などー連の国際的なプロジェクトに発展し、地球物理学、地球の歴史の研究を進める上で新しい展開をもたらしている。また、大気や海洋の運動の影響による地球自転の不規則性を初めて明らかにするなど、この問題の研究に新時代を開き、マクドナルド博士とともに著した「The Rotation of the Earth」は、この分野の研究者にとって必読の書となっている。近年、博士は海洋中を伝播する音波を利用した「海洋音響トモグラフィー」による海洋観測を提唱し、その方法を開発している。

このように、ムンク博士は、今日まで地球規模での海洋研究に、卓抜したアイデアをもって常に新しい境地を開くとともに、多くの後進を育て、海洋物理学を中心とした地球科学の発展に大きな功績を残してきた。よって、ムンク博士に基礎科学部門における1999年京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

私の幸運な半生

今日は自分自身のことをお話しするようにということでした。演題として、私の66回目の誕生日にロジャー・レヴェルがおこなった講演のタイトルを借用しました。

内陸国であるオーストリアに生まれた私は、まだ非常に若い頃にアメリカに行かせられました。祖父が創業に携わったニューヨークの会社で銀行業の修行をするためです。そこで鳴かず飛ばずの数年間を過ごした後、逃げるようにカリフォルニアに行き、カリフォルニア工科大学に何とかもぐりこみました。大学3年生のときにスクリップス海洋研究所で夏のアルバイトをして以来、(断続的にではありますが)ずっと同研究所にいます。

戦争が始まると、私は米国陸軍に入隊し、兵役を終えた後は陸海空軍共同上陸のための波浪条件の予測に携わるようになりました。戦後、私は海洋波浪が南半球の嵐の中で生まれ、アラスカで消えるまでの過程を追跡する遠征隊の隊長を務めました。ここから、さらに周期の長い波、津波、潮汐の研究へと進みました。また、潮汐力の研究から、地球のウォッブル(極運動)や、日の長さの変化の研究へと発展しました。

海底に穴を掘って、地球のマントルのサンプルを採取する計画にも関わりましたが、この計画は失敗に終わりました。また最近では、長距離の音響伝播を利用して海洋気候の変動を観測しています。この2つの活動は、あまり好ましくない意味で、世間から大いに注目されました。

私は米国政府、特に海軍関係の様々な役職を務める機会も得ました。また、カリフォルニア大学サンディエゴ校の一部として、スクリップス研究所内に地球物理学の研究所を創設しました。

振り返ってみますと、私が今のような仕事をしているのは、意識して努力したためではなく、機会が訪れる度に、それをつかんで生かすということを繰り返してきた結果 なのです。そうした過程で、ある程度の実績を上げることができたのは、非常に幸運だったと思います。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

海洋研究の最前線

Frontier of the Ocean Research

日時
1999年11月12日 13:10~17:15
場所
国立京都国際会館
企画
松野 太郎 専門委員会委員、地球フロンティア研究システムシステム長、鳥羽 良明 東北大学名誉教授
司会
松野 太郎

プログラム

13:10
開会 松野 太郎
挨拶 稲盛 豊実 稲盛財団常務理事
上田 誠也 審査委員会委員、理化学研究所地震国際フロンティア研究研究リーダー
13:25
受賞者紹介 鳥羽 良明
13:30
記念講演 ウォルター・H・ムンク 基礎科学部門受賞者「海の変動を聴く」
14:30
座長 淡路 敏之 京都大学大学院理学研究科教授
講演 鳥羽 良明
「風波・海面境界過程と衛星からのリモートセンシング」
山形 俊男 東京大学大学院理学系研究科教授
「海流とその変動のモデリング」
今脇 資郎 九州大学応用力学研究所教授
「海洋観測の新時代」
16:00
休憩
16:15
座長 平 啓介 審査委員会委員、東京大学海洋研究所所長
講演 内藤 勲夫 国立天文台地球回転研究系助教授
「大気海洋の変動と地球回転」
木下 肇 海洋科学技術センター理事
「新しい深海地球ドリリング-モホール計画からOD21へ-」
17:15
閉会 松野 太郎
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