2016年基礎科学部門生命科学(分子生物学・細胞生物学・神経生物学)
本庶 佑 写真

本庶 佑
(Tasuku Honjo)

  • 日本 / 1942年1月27日
  • 医学者
  • 京都大学 名誉教授

抗体の機能性獲得機構の解明ならびに免疫細胞制御分子の発見と医療への展開

クラススイッチ組換え機構とそこに働くAIDを同定して抗体の機能獲得メカニズムを解明し、PD-1/PD-L1分子の同定と機能解析によって新しいがん免疫療法に道を拓いた。その成果は広く医学・生命科学に影響を及ぼすとともに、医療へと展開されて人類の福祉に多大な貢献を果たしている。

プロフィール

略歴

1942年
京都市生まれ
1966年
京都大学 医学部 卒業
1975年
京都大学 医学博士
1971年-1973年
カーネギー研究所 発生学部門 客員研究員
1973年-1974年
米国国立衛生研究所 国立小児保健発達研究所 客員研究員
1974年-1979年
東京大学 医学部 助手
1979年-1984年
大阪大学 医学部 教授
1984年-2005年
京都大学 医学部 教授
1989年-1997年
弘前大学 医学部 教授(併任)
2005年
京都大学 名誉教授
2005年-
京都大学 大学院医学研究科 客員教授
2012年-
静岡県公立大学法人 理事長
2015年-
公益財団法人先端医療振興財団 理事長

主な受賞と栄誉

1981年
野口英世記念医学賞
1985年
エルウィン・フォン・ベルツ賞、ベーリンガーインゲルハイム
1988年
武田医学賞
1993年
上原賞
1996年
恩賜賞・日本学士院賞
2012年
ロベルト・コッホ賞
2013年
文化勲章
2014年
唐奨
2014年
ウィリアム・コーリー賞、米国がん研究所
2015年
リチャード・V・スモリー賞、米国がん免疫学会
会員:
日本学士院、米国科学アカデミー、米国免疫学会名誉会員、
レオポルディーナ(ドイツ国立科学アカデミー)

 

贈賞理由

抗体の機能性獲得機構の解明ならびに免疫細胞制御分子の発見と医療への展開

我々の体で生体防衛に働く抗体は骨髄に由来するB細胞で作られる。B細胞の発生過程で、抗体遺伝子は可変部領域の遺伝子断片の組換えを受け、様々な抗原に結合する多様性を身に付ける。その後リンパ組織でB細胞が抗原に曝され活性化されると、可変部領域に体細胞超突然変異(SHM)が起こり抗原結合の親和性が増すとともに、IgM、IgG、IgE、IgAなどクラスと呼ばれる異なった定常領域を持ち、異なった生物活性を発揮する抗体が産生される。しかし、異なったクラスの抗体が産生される機構もSHMの機構も不明であった。

本庶佑博士は、1978年に前者に関して抗体の重鎖遺伝子が部分的に欠損して異なったクラスの抗体遺伝子を作り出すクラススイッチ組換え(CSR)モデルを提唱し、その後多くの論文でこれを実証した。ついで、1999年に活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)を発見し、引き続く研究で、これがCSRのみならず、SHMにも必須の酵素であることを明らかにした。これにより、免疫の基本原理の一つである抗体の機能性獲得のメカニズムが明らかになった。

また、本庶博士は、CSRを誘導するIL-4、発生に重要な転写因子RBP-J kappa、造血幹細胞維持に重要なSDF-1など、免疫に関する多くの重要な分子を発見した。

その一つ、PD-1は、欠損により自己免疫疾患が惹起されること、リガンドであるPD-L1との結合によりT細胞の活性化が抑制されることから、免疫反応の負の調節因子であることが明らかになった。さらに本庶博士らは、抗PD-L1抗体を担がんマウスに投与してPD-1とPD-L1の結合を阻害するとマウスの抗がん活性が著しく増強されることを示し、PD-1シグナルの遮断が有効ながんの免疫治療となりうる可能性を世界で初めて提示した。この成果をもとに開発されたPD-1に対する抗体薬は、幅広いがん種で奏功例が認められ、すでにメラノーマと肺がんの治療に使用されている。抗PD-1抗体によるがん免疫療法は、副作用が少なく、幅広いがんに持続的な効果があるという優れた特性を有している。

以上、本庶博士の主たる貢献は、CSR機構とそこに働くAIDを同定してSHMを含む抗体の機能獲得メカニズムを解明したこと、PD-1/PD-L1分子の同定と機能解析によって新しいがん免疫療法に道を拓いたことであり、基礎生命科学と人類への福祉の両面から高く評価される。

以上の理由によって、本庶佑博士に基礎科学部門における第32回(2016)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

獲得免疫の驚くべき幸運

この講演では、私が研究者として歩んだ過程で出会った多くの幸運な出来事に触れます。1950年代にM. Burnetによってクローン選択説が唱えられ、免疫系がどのようにして途方もない多様性を発揮するかという謎への挑戦が、多くの研究者を駆り立てました。1970年代の初頭、私は米国留学中にこの疑問に出会いましたが、幸運にも分子生物分野の新しいテクノロジーの開発がちょうど始まりました。1974年東京大学に帰国後、偶然、抗体遺伝子の欠失を発見し、クラススイッチ現象の遺伝学的な原理の仮説を提唱しました。その仮説を分子レベルで証明したのは大阪大学に移ったあとです。さらに京都大学で、クラススイッチと体細胞突然変異という二つの独立した不思議な現象が、一つの遺伝子Activation-induced cytidine deaminase(AID)によって荷なわれるということを2000年に発見しました。

一方、1992年PD-1と遭遇し、これが免疫のブレーキ役を荷なうことを見出し、2002年には動物モデルでPD-1阻害によってがん治療が可能であることを発見しました。22年の歳月を経て今日、がん治療のペニシリンとも称される新しい画期的な治療法として結実しました。ペニシリンに続いて発見された多くの抗生物質により人類が感染症の脅威から解放されたように、今後はがん免疫療法が改良され、がんによる死を恐れなくてもすむようになるでしょう。

免疫力は、脊椎動物が微生物などの外敵から身を守るために進化しました。この進化の過程で、遺伝子断片をつなぎ合わせてゲノム情報を多様化するという、実に巧妙な仕組みを偶然獲得しました。PD-1阻害によるがん治療の成功によって、感染症に向けての武器であった免疫力が、がんに対しても防御力となると気がついたのは二重の意味で幸運です。人類の病との戦いの中で前世紀は感染症、今世紀はがんが最大のものと言われてきましたが、この二つの疾患を人類が克服できる基本原理を獲得免疫が荷なったとは、驚くべき幸運であります。

ワークショップ

ワークショップ

免疫分子遺伝学からがん制圧への道

From the Molecular Immunity to the Suppression of Cancer

日時
2016年11月12日(土)13:30~17:30
場所
京都大学 百周年時計台記念館
企画・司会
湊 長博 [京都大学 理事・副学長]
主催
公益財団法人 稲盛財団
共催
京都大学
後援
京都府、京都市、NHK
協賛
日本癌学会、日本生化学会、日本分子生物学会、日本免疫学会(五十音順)

プログラム

13:30
開会挨拶・受賞者紹介 湊 長博
13:40
受賞者講演 本庶 佑 [基礎科学部門 受賞者]
「免疫力の再興」
14:30
休憩
14:40
講演 村松 正道 [金沢大学 教授]
「AID/APOBECファミリーとその抗ウイルス活性」
15:10
講演 茶本 健司 [京都大学 講師]
「ミトコンドリアを活性化するケミカルは、PD-1チェックポイント阻害によるT細胞の抗腫瘍免疫を増強する」
15:40
休憩
15:55
講演 小川 誠司 [京都大学 教授]
「PD-L1 3’-UTRの構造異常を介したがん免疫の回避」
16:25
講演 ロバート・A・アンダース [ジョンズ・ホプキンス大学 准教授]
「PD-L1の力を臨床成功へ」
16:55
講演 シドニア・ファガラサン [理化学研究所 チームリーダー]
「抗体多様化および全身恒常性におけるPD-1の関与」
17:25
閉会挨拶 湊 長博
17:30
閉会
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