2005年基礎科学部門生物科学(進化・行動・生態・環境)
サイモン・アッシャー・レヴィン 写真

サイモン・アッシャー・レヴィン
(Simon Asher Levin)

  • アメリカ / 1941年4月22日
  • 生態学者
  • プリンストン大学 教授

空間生態学の確立と生物圏に関する複雑適応系理論の提唱

地球上の生物圏の実態を統一的に捉えるため、生態プロセスの空間的諸側面を捉える数理的手法を導入し、「空間生態学」という新分野を確立し、生態学に新しい展開をもたらした。さらに、生態系や生物圏を「複雑適応系」として捉え、新たな視点の環境保全管理法を提唱するなど、環境科学に多大な影響を与えた。

プロフィール

略歴

1941年
米国メリーランド州ボルチモア生まれ
1961年
ジョンズ・ホプキンス大学 卒業(数学)
1964年
メリーランド大学 博士号(数学)
1965年
コーネル大学 助教授
1971年
コーネル大学 准教授
1977年
コーネル大学 チャールズ A. アレクサンダー生物科学 教授
1980年
コーネル大学 生態系研究センター 所長
1987年
コーネル大学 環境研究センター 所長
1992年
プリンストン大学 ジョージ M. モフェット生物学 教授
1993年
プリンストン大学 プリンストン環境研究所 所長
2001年
プリンストン大学 生物複雑性研究センター 所長

主な受賞と栄誉

1988年
マッカーサー賞、アメリカ生態学会
2001年
大久保賞、日本数理生物学会/数理生物学会
2004年
ハイネケン賞、オランダ王立芸術科学アカデミー
会員
米国科学アカデミー、米国哲学協会、米国芸術科学アカデミー、米国科学振興協会

主な論文

1974年

Disturbance, patch formation, and community structure, Proceedings of the National Academy of Sciences, U.S.A. 71: 2744-2747 (with Paine, R. T.)、1974.

1992年

The problem of pattern and scale in ecology, Ecology 73: 1943-1967、1992.

1997年

Mathematical and computational challenges in population biology and ecosystem science, Science 275: 334-343 (with Grenfell, B. T., Hastings, A. and Perelson, A. S.)、1997.

1999年

Fragile Dominion: Complexity and the Commons. Perseus Books Group, Reading, MA. Pp. 239., 1999.

2005年

Strategic interactions in multi-institutional epidemics of antibiotic resistance, Proceedings of the National Academy of Sciences, U.S.A. 102: 3153-3158 (with Smith, D. L. and Laxminarayan, R.)、2005.

贈賞理由

空間生態学の確立と生物圏に関する複雑適応系理論の提唱

地球上の生物圏には驚くほど多様な生物がいて、太古からの環境の変動に対応しつつ生きてきた。それぞれの種がそれぞれのやり方をとりながら、他の種との競合、協同、捕食、寄生、共生など複雑な関係の中で、物質の動きに関わっている。

そこには生物圏の構成要素である生物たちの間に、著しい多様性というか不均一性が存在し、それらの間の関係はいわゆる非線形的であるとともに、いろいろな形での階層的組織が生じていて、しかもそれら全体が時間的にも空間的にも物質的にも流れており、この複雑な全体が複雑適応系として環境の変動に対応しながら、長い年月を生き抜いてきた。

以前の生態学では、生物たちのこのような面に注目した研究は、断片的なものに留まっていた。レヴィン教授は卓越した数理的解析によってこの複雑な問題に取り組み、地球上の生物圏の実態を統一的に捉える道を拓いて、空間生態学ともいうべき新しい分野を創りだした。

かつて教授はロバート・ペイン博士と協同でパッチ動態理論を提出し、高い生物多様性は、むしろ適度な撹乱があってこそ維持されるという意外な事実を指摘し、さらには互いに競合的、排他的な生物種が空間の広がりによって共存できることを示した。このような初期の業績に始まって、レヴィン教授の理論は生物界における空間的スケールや、組織的スケールによって異なる規則性やパターンの出現を次々に明らかにし、それらを包括的に理解する手法を開発した。そして、それによって、生態系や生物圏という複雑適応系が超有機体ではなく、その保全には新たな視点と理論が必要であることも示すことになった。

教授の卓越した数理的研究のこのような成果を、数式を用いずにまとめた著書”Fragile Dominion”は、われわれ人類も住まうこの地球の行く末を論じたものである。この著書の邦訳には、いみじくも「持続不可能性」というタイトルがつけられている。我々が地球生物圏の持続可能性を願っていることは言うまでもないが、レヴィン教授は、それが脆弱な基盤の上に成り立っていることを明確に示してくれた。それは我々に更なる思索と勇気を迫るものである。その意味でもレヴィン教授の生態学、環境科学に対する貢献は極めて高く評価されるものである。

以上の理由によって、サイモン・アッシャー・レヴィン教授に基礎科学部門における第21回(2005)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

好きなことを貫く - 素晴らしい人生を送るために

人が自分の行為を楽しめるのは、自分が楽しいと思うことをやっているときです。これは私自身のこれまでの人生の指針であり、学生を指導する際の基本原則でもあります。私は学生たちに、自分が情熱を傾けられることについて課題を見つけるように促していますが、その際には他人がそうすべきだと思うことではなく、自分自身の信念に基づかなくてはならないと訴えています。私は学生たちに問題を投げかけはしますが、決して押しつけたりはしません。私自身の問題を学生に取り組ませたとしても、その取り組みは創造性を欠いたものとなり、最低限の成果しか望めないでしょう。これに対して学生たちが自分で見つけた問題に取り組めば、他人が想像さえしなかったような成果をあげることも可能であり、その結果その研究領域に新たな一石を投じることができるかもしれません。自分の進路選択にあたって、私は常にこの信念に従おうと努めてきました。時にはその選択が無謀に思えたこともありましたが。

これまで私は絶えず2つの力に突き動かされてきました。この2つは一見すると矛盾しているようですが、これらをうまく統合させることにより、私は自分が楽しいと思うことに取り組み、自分の行為を楽しみ、そして社会を良くするために必要だと思われる課題に生産的に向き合うことができました。今もそうですが、私は昔から謎解きが大好きで、数学の持つ力、美しさ、そして抽象概念に心を魅了されてきました。しかし同時に私は、私たちを取り巻く環境がいかに壊れやすく、また人間活動が環境に対していかに惨い仕打ちを加えてきたかという認識から、社会を良くするために力を尽くしたいという熱い思いを抱いてもいました。こうして私はごく自然に、数学と生物学、とくに生態学と進化論の統合を目指すこととなりましたが、これは40年前には比較的斬新な考えでした。今回の講演では私自身の興味の対象が、そして今や面白い研究分野に成長し優秀な若き研究者たちを魅了して止まない数理生物学が、相互に関連しながらどのように発展してきたかを振り返ります。また私たちが直面する重大な課題をいくつか取り上げると共に、現在私が情熱を傾けている取り組みについても語りたいと思います。たとえば、環境変化の影響を最も受けやすい発展途上国を中心に、世界中でこれらの分野の取り組みを強化すること。物理学者に加え、エコノミストや社会科学者との間に学際的なパートナーシップを構築すること。さらに、環境利用をめぐる利己的行為の原因を解明し、人類共通の資源と遺産の持続性確保にむけて協同して解決策を探し当てることです。

【関連情報】
記念講演会(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

「バイオスフェア、複雑適応系として」

Biosphere as a Complex Adaptive System

日時
2005年11月12日
場所
国立京都国際会館
企画・司会
巌佐 庸[(専門委員会 委員長)九州大学 大学院理学研究院 教授]

プログラム

1:00
開会挨拶 日高 敏隆[(審査委員会 委員長)総合地球環境学研究所 所長]
受賞者紹介 巌佐 庸
受賞者講演 サイモン・アッシャー・レヴィン[基礎科学部門 受賞者]
「地球という共有地での生き方を学ぶ:持続的環境を実現するための社会経済学的課題」
講演 重定 南奈子[同志社大学 文化情報学部 教授]
「空間と生態学」
休憩
講演 山村 則男[京都大学 生態学研究センター 教授]
「種間相互作用の進化と生物群集の安定性」
講演 竹中 明夫[国立環境研究所 生物多様性研究プロジェクトグループ 総合研究官]
「森林のパターン:木の視点と森の視点」
講演 中丸 麻由子[東京工業大学 大学院社会理工学研究科 専任講師]
「社会科学と生態学」
5:00
閉会
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