2014年先端技術部門バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー
ロバート・サミュエル・ランガー 写真

ロバート・サミュエル・ランガー
(Robert Samuel Langer)

  • アメリカ / 1948年8月29日
  • 生体医工学者
  • マサチューセッツ工科大学 インスティテュート・プロフェッサー

組織工学及び薬物送達システム技術の創出

生体吸収性ポリマーを応用して、細胞の「足場」を構築することにより、様々な臓器の形成に成功して、再生医療の実現に不可欠な組織工学を創出した。また、タンパク質や核酸など高分子の徐放化の技術を開発し、薬物送達システム技術の実用化を積極的に推進し、医工学融合領域を牽引している。

プロフィール

略歴

1948年
米国ニューヨーク州オールバニ生まれ
1974年
マサチューセッツ工科大学(MIT)博士号(理学)
1974年
ハーバード・メディカル・スクール(HMS) ボストン小児病院 研究員
1977年
MIT 栄養食品科学科 客員助教
1978年
MIT 栄養食品科学科 助教
1981年
MIT 栄養食品科学科/ハーバード・MIT健康科学技術部門(HST) 准教授
1985年
MIT 応用生物科学科/HST 教授
1988年
MIT 化学工学科/HST ケネス・J・ゲルメシャウセン教授
1999年
HMS ボストン小児病院 上級講師
2005年
MIT インスティテュート・プロフェッサー
2009年
MIT デビッド・H・コーク・インスティテュート・プロフェッサー

主な受賞と栄誉

1996年
ガードナー国際賞
2002年
チャールズ・スターク・ドレイパー賞
2005年
オールバニ・メディカルセンター医学・生物医学研究賞
2006年
米国国家科学賞
2008年
ミレニアム技術賞
2011年
米国国家技術賞
2013年
ウルフ賞化学部門
2014年
ブレイクスルー賞生命科学部門
会員
米国医学院、米国科学アカデミー、米国芸術科学アカデミー、米国工学アカデミー、米国発明家アカデミー

主な論文

1976年

Polymers for the Sustained Release of Proteins and Other Macromolecules (R. Langer and J. Folkman), Nature 263: 797-800, 1976.

1993年

Neocartilage Formation in vitro and in vivo Using Cells Cultured on Synthetic Biodegradable Polymers (L. E. Freed et al.), J. Biomed. Mater. Res. 27: 11-23, 1993.

1993年

Tissue Engineering (R. Langer and J. P. Vacanti), Science 260: 920-926, 1993.

1994年

Biodegradable Long-Circulating Polymeric Nanospheres (R. Gref et al.), Science 263: 1600-1603, 1994.

1998年

Drug Delivery and Targeting, Nature 392: 5-10, 1998 .

贈賞理由

組織工学及び薬物送達システム技術の創出

ロバート・サミュエル・ランガー博士は工学、医学、薬学にまたがる融合領域において、世界的パイオニアとして基礎研究で輝かしい成果を挙げるとともに、それらの研究成果を医療に応用し、実用化を積極的に推進した。博士は化学工学・材料科学を基盤として、2つの革新的成果を成し遂げた。

1つは組織工学分野の創出と確立である。ランガー博士は再生医療の実現に不可欠な「足場」の概念を世界で初めて提唱した。細胞が組織化されるにつれて吸収される生体吸収性ポリ乳酸を応用して、動物モデルで骨、肝臓、筋肉などの形成に成功している。ヒトの組織形成も実現しており、損傷臓器の修復など新しい治療法開発に向けた研究が進展している。

もう1つの革新は、タンパク質の薬物送達システム(DDS:Drug Delivery System)技術の展開とその医療への応用である。ランガー博士は、世界で初めてタンパク質でも生理活性を有した状態で安定的に長期間放出させる徐放化技術を開発し、この技術によってタンパク質、核酸などの高分子のDDS研究が進展し、再生医療への応用展開も始まっている。手術で除去しきれなかった脳腫瘍に対する脳内留置徐放性製剤、狭心症に対する薬剤溶出性ステント、前立腺がんのホルモン治療薬など、博士の研究から派生した医療技術や医薬品は広く患者の治療に用いられている。また、体外から超音波などの刺激あるいは体内の化学的刺激に対応して薬物の放出量を調節できる放出制御DDS技術や、標的部位で薬剤を徐放するように設計された生分解性ポリマー製剤の開発に成功している。これらの研究成果の実用化を目指して、遠隔操作で薬剤放出可能な体内埋め込み型マイクロチップや、がん細胞を標的とした抗がん剤封入ナノ粒子治療薬などが臨床試験中である。

このように、ランガー博士は再生医療とDDSにおいて核心となる医工学融合領域を創成し、それを疾患治療へ応用する技術を確立し、さらには医療応用へ展開した創始者である。その研究成果は、膨大な数の学術論文、総説、著書、特許などに結実している。

さらに自らベンチャー企業を作り、また多くのバイオ企業の技術顧問を務めている。ランガー博士の研究室には、毎年各国から多くの研究者が訪れ、優れた研究成果を挙げて帰国していく。このような世界的な人的および学術的交流が、ランガー博士の創成した医工学技術の世界展開を加速している。

以上の理由によって、ロバート・サミュエル・ランガー博士に先端技術部門における第30回(2014)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

ある若き化学工学者の夢と奮闘

私は、米国ニューヨーク州の州都オールバニで育ちました。初めて化学に魅せられたのは、化学実験セットをプレゼントされた11歳のときです。色の変化を起こす化学反応をさせてみたり、ゴムやその他の材料を作ったりして楽しみました。大学と大学院では化学工学を専攻しました。大学院を修了すると、クラスメートの大半は石油業界に就職していきました。しかし私には、高給ではあってもそうした仕事は魅力的に感じられませんでした。私は健康・教育を向上させる仕事について人々の役に立ちたいと思っていたのです。そこで、私は大学での教育や医学部で健康関連の研究を行う職に応募しましたが、雇ってくれるところはありませんでした。ようやく、有名な外科医のジュダ・フォークマン先生がボストン小児病院で採用してくださいました。結局、その病院では研究を行うエンジニアとしては私が唯一の存在でした。そして、工学を医療に応用する方法についていくつもの着想が得られたのです。小児病院での任期が終わって大学で教員職を得ようとしましたが、私は工学の研究をしていないと思われ、工学部では採用されませんでした。最終的にマサチューセッツ工科大学(MIT)の栄養食品科学科で採用が決まりましたが、最初のうち事態は最悪でした。私の初期の発見(高分子科学の分野の発見と血管新生を停止させる方法)は、従来からある見解と相反するものであったため、多くの科学者から間違いであると言われ、最初の9件の研究助成金申請もすべて却下され、長老格の教授2人からは大学を辞して別の職を探すように迫られました。しかし、私は諦めませんでした。その結果、数多くの科学者や企業が私の研究成果を利用し始め、研究助成金も得られるようになりました。現在では、私たちの開発したコンセプトの多くが、人々の生活を向上させたり生命を救ったりする製品へと繋がっています。このように、挑戦と挫折の人生を通して私の人生観は確立されていきました。すなわち、世の中を変えられるような大きな夢を描くこと、そして、行く手に障害が立ち塞がろうとも、その夢を決して諦めないということです。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

バイオマテリアル研究の最前線

The Frontline of Biomaterial Studies

日時
2014年11月12日(水)10:00~12:30、14:00~16:00
場所
国立京都国際会館
企画
田畑 泰彦 [京都大学 教授]
主催
公益財団法人 稲盛財団
後援
京都府、京都市、NHK
協賛
高分子学会、日本炎症・再生医学会、日本癌学会、日本口腔外科学会、日本再生医療学会、日本人工臓器学会、日本整形外科学会、日本創傷治癒学会、日本DDS学会、日本バイオマテリアル学会、日本分子生物学会、日本免疫学会、日本薬学会、日本薬剤学会、日本薬物動態学会、日本臨床分子医学会

プログラム

10:00
開会挨拶・受賞者紹介 橋田 充 [京都大学 教授]
午前の部 「組織工学と再生医療」
司会 田畑 泰彦
受賞者講演 ロバート・サミュエル・ランガー博士[先端技術部門 受賞者]
「バイオマテリアルとバイオテクノロジー
—初の血管新生阻害剤の発見から放出制御DDSの進展と組織工学の創出まで—」
講演 田畑 泰彦
「バイオマテリアル技術からみた再生医療— 再生治療と再生研究—」
講演 中村 雅也 [慶應義塾大学 准教授]
「脊髄再生医療の実現に向けて」
12:30
休 憩
14:00
午後の部 「DDSと薬物治療」
司会 橋田 充
講演 髙倉 喜信 [京都大学 教授]
「核酸を基盤とするナノメディシンの最適化設計」
講演 片岡 一則 [東京大学 教授]
「難病の標的治療に向けたスマート・ナノシステムの創製」
講演 菊池 寛 [エーザイ株式会社 理事]
「DDS医薬品開発における種差の問題」
16:00
閉会挨拶 橋田 充
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