2017年思想・芸術部門音楽
リチャード・タラスキン 写真

リチャード・タラスキン
(Richard Taruskin)

  • アメリカ / 1945年4月2日
  • 音楽学者
  • カリフォルニア大学バークレー校 名誉教授

音楽史研究と批評を通じて基本概念や作曲家像を決定的に更新し、音楽観の変革を促してきた知の巨人

従来の歴史記述の方法を乗り越えた斬新な音楽史研究と、該博な知識に裏打ちされた先鋭的な批評によって、西洋の音楽文化に新たな次元を切り拓いてきた。他の追随を許さないその仕事は、音楽において言論が創造的価値を持つことを示し、音楽の世界に大きな足跡を残した。

プロフィール

略歴

1945年
米国ニューヨーク市生まれ
1975年
コロンビア大学 博士(歴史的音楽学)
1975年-1981年
コロンビア大学 助教(音楽)
1981年-1986年
コロンビア大学 准教授(音楽)
1986年-2014年
カリフォルニア大学バークレー校 教授(音楽)
2015年-
カリフォルニア大学バークレー校 名誉教授

主な受賞と栄誉

1980年
アルフレート・アインシュタイン賞
1987年
デント・メダル
1993、2005年
ASCAPディームズ・テイラー賞
1996年
ロイヤル・フィルハーモニック協会音楽賞
1997、2006年
オットー・キンケルディ賞
会員:
ハンガリー科学アカデミー、米国芸術科学アカデミー

主な著作

1981年

Opera and Drama in Russia as Preached and Practiced in the 1860s, UMI Research Press, 1981.

1993年

Musorgsky: Eight Essays and an Epilogue, Princeton University Press, 1993.

1995年

Text and Act: Essays on Music and Performance, Oxford University Press, 1995.

1996年

Stravinsky and the Russian Traditions: A Biography of the Works through Mavra, University of California Press, 1996.

1997年

Defining Russia Musically: Historical and Hermeneutical Essays, Princeton University Press, 1997.

2005年

The Oxford History of Western Music, Oxford University Press, 2005.

2008年

The Danger of Music and Other Anti-Utopian Essays, University of California Press, 2008.

2008年

On Russian Music, University of California Press, 2008.

2016年

Russian Music at Home and Abroad: New Essays, University of California Press, 2016.

業績

音楽史研究と批評を通じて基本概念や作曲家像を決定的に更新し、音楽観の変革を促してきた知の巨人

リチャード・タラスキン博士は、古楽の演奏、研究から出発し、近代ロシア音楽に関する画期的かつ重要な研究を行い、さらに大部の西洋音楽史を発表して、読者を啓発し続けてきた音楽学者、批評家である。
1945年ニューヨーク生まれのタラスキン博士は、コロンビア大学でロシア語科に学び、大学院ではP・H・ラング教授のもとで西洋音楽史を中心に音楽学を専攻し、歴史的音楽学で博士号を取得後、同大学に奉職した。研究と同時に演奏でも研鑽を積み、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者として活動したほか、コロンビア大学コレギウム・ムジクムでは合唱指揮も行った。これらの経験は、のちに彼が論争を巻き起こす古楽に関する議論につながってゆく。1980年代を中心にタラスキン博士が『ニューヨーク・タイムズ』紙をはじめとする新聞や論文などで展開した主張は、同時代の古楽演奏が、しばしばその拠り所とする「真正性(オーセンティシティー)」にではなく、むしろ20世紀後半の美学を反映しているというものだった。この刺激的な立論は、その後の古楽演奏に有形無形の影響を及ぼし、現代の演奏動向も実際にはこのタラスキン博士の主張を前提として、多様な試みを展開するものとなっている。
さらにタラスキン博士が音楽界に大きな影響を与えたのは、そのロシア音楽研究においてである。『ロシアのオペラとドラマ』(Opera and Drama in Russia as Preached and Practiced in the 1860s, 1981)、あるいは『ムソルグスキー』(Musorgsky: Eight Essays and an Epilogue, 1993)そして、『ストラヴィンスキーとロシアの伝統』(Stravinsky and the Russian Traditions: A Biography of the Works through Mavra, 1996)は、民俗学をはじめとする周辺情報を徹底的に渉猟しながら、作品自体にも深く斬りこむ画期的な手法によって作曲家像を決定的に塗り替え、音楽学研究の方法論自体を更新した。
さらに2005年に刊行された『オックスフォード西洋音楽史』(The Oxford History of Western Music, 6 volumes)は、記譜(書記性)によって伝承された音楽という独自の視点によって貫かれており、一人の著者によって書かれた音楽通史として最大のものであり、21世紀の音楽学における金字塔である。タラスキン博士は従来の歴史記述のなかにあった、何らかの美学的・歴史的普遍性からの記述方法を批判的に乗り越え、同質的な基準の下で書かれてきた西洋音楽の歴史が、その実、互いに異質で微細な歴史の集合体として成り立っていることを、実際の膨大な記述によって示そうとした。そこには、民族音楽学の方法論上の成果や、歴史記述に対する歴史学の批判的取り組みからの影響も読み取れるが、歴史、文化、政治、美術、文学、宗教等々についての広範な知見は言うに及ばず、それらの間の相互関係についての深い考察を駆使しながら、それを記譜された音楽の分析とより合わせていく斬新な西洋音楽学史の記述は、4,000ページを超える初版の、どの章、どの節をとっても、非常にスリリングかつ啓発的である。
このようにタラスキン博士は、批評を通じて聴衆や演奏界にも影響を与え、音楽学の上でも他の追随を許さない仕事をした。それは、音楽のあり方そのものをも問い直すほどの高度に学術的で深い洞察に基づいた批評的な実践によって、音楽に関する従来の批評と学問との境目を取り払い、また伝統的な音楽史学と民族音楽学との境目を取り払うという新たな次元を音楽研究に切り拓くものである。
その仕事の質と量は、音楽において、作曲や演奏だけではなく、それを聴きとどけ、緻密なことばを通して文脈化する作業がきわめて創造的であり、世界の音楽文化に貢献するものであるということを、きわめて高い次元で示している。

記念講演

記念講演要旨

ワークショップ
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