2009年基礎科学部門生物科学(進化・行動・生態・環境)
ピーター・レイモンド・グラント 写真

ピーター・レイモンド・グラント
(Peter Raymond Grant)

  • イギリス / 1936年10月26日
  • 進化生物学者
  • プリンストン大学 名誉教授

環境変化に応じた自然淘汰による急速な進化の実証

ガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチ類に関する35年以上にもわたる野外研究を通じて、生物の形態や行動が環境変化に応じて急速に進化することを示した。この研究は、野外における自然淘汰による進化機構の解明によって進化学、生態学の分野へ多大な貢献をしただけでなく、進化を実証することで、一般社会にも大きな影響を与えた。

プロフィール

略歴

1936年
イギリス ロンドン生まれ
1960年
ケンブリッジ大学 卒業
1964年
ブリティッシュ・コロンビア大学 博士号(進化生物学)
1964年
イェール大学 博士研究員
1965年
マギル大学 助教授
1968年
マギル大学 准教授
1973年
マギル大学 教授
1977年
ミシガン大学 教授
1985年
プリンストン大学 教授
1989年
プリンストン大学 動物学教授
2008年
プリンストン大学 動物学名誉教授

主な受賞と栄誉

1998年
E.O.ウイルソン博物学賞、米国博物学会
2002年
ダーウィン・メダル、ロンドン王立協会
2005年
バルザン賞(集団生物学)、国際バルザン賞財団
2008年
ダーウィン=ウォレス・メダル、ロンドンリンネ学会
会員:
ロンドン王立協会、米国科学アカデミー、米国芸術科学アカデミー、カナダ王立協会

主な論文

1976年

Darwin’s finches: Population variation and natural selection (Grant, P. R., Grant, B. R., Smith, J. N. M., Abbott, I. J. and Abbott, L. K.). Proceeding National Academy of Sciences, U.S.A. 73: 257-261, 1976.

1979年

Darwin’s finches: Population variation and sympatric speciation (Grant, B. R. and Grant, P. R.). Proceeding National Academy of Sciences, U.S.A. 76: 2359-2363, 1979.

1989年

Evolutionary Dynamics of a Natural Population: The Large Cactus Finch of the Galápagos (Grant, B. R. and Grant , P. R.). University of Chicago Press, Chicago, 350 pp, 1989.

2002年

Unpredictable evolution in a 30-year study of Darwin’s finches (Grant, P. R. and Grant, B. R.). Science 296: 707-711, 2002.

2006年

Evolution of character displacement in Darwin’s finches (Grant, P. R. and Grant, B. R.). Science 313: 224-226, 2006.

2008年

How and Why Species Multiply: The Radiation of Darwin’s Finches (Grant, P. R. and Grant, B. R.). Princeton University Press, Princeton, 272 pp, 2008.

贈賞理由

環境変化に応じた自然淘汰による急速な進化の実証

ピーター・レイモンド・グラント博士とバーバラ・ローズマリー・グラント博士は、1973年以来35年以上にもわたるガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチ類の研究を通じて、環境変化に応じて自然淘汰が生物の形態や行動を急速に変化させることを示した。この研究は、最も詳しく示された自然淘汰による進化の実証例として進化学、生態学の分野に多大な貢献をしただけでなく、進化の実例を示すことで、一般社会にも大きな影響を与えた。

グラント博士夫妻の最もインパクトの大きい研究業績は、急激に変化する自然環境下で自然淘汰によって地上フィンチ(Geospiza属)のくちばしの形態とサイズが急速に進化することを、自然淘汰の働く条件や原因も含めて詳細に実証したことである。自然淘汰を実証した研究はそれまでも存在したが、35年以上にわたり、自然淘汰が働く生態学的要因、進化的反応、複数の形質の進化の方向性、進化的変化に必要な遺伝的変異の維持機構まで含め、野外においてリアルタイムに進化を追跡した研究は、グラント博士夫妻によるものが初めてである。実験が困難である進化学において、グラント博士夫妻の実証研究は、ダーウィン以来の進化学における画期的な貢献であり、実証可能な科学としての進化学を確立した研究ともいえる。

また、グラント博士夫妻は、ガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチ類の長期的な研究の中で、さえずりと生殖隔離の関係、形質間の遺伝的相関と進化的変化、新たな島への移住と創始者効果、野生状態での近交弱勢の検出、雑種形成による遺伝子浸透、環境激変によって生じる形質置換など様々な進化現象を明らかにした。このような一連の研究は、野外における進化のモデル研究として、他の生物での野外進化研究の推進に大きな影響を与えた。

これに加えて、一般社会への進化現象の正しい理解を浸透させ、今後の環境変化に対する進化学の重要性を示唆するなど、グラント博士夫妻の実証科学としての進化学への貢献は極めて高く評価されるものである。

以上の理由によって、ピーター・レイモンド・グラント博士とバーバラ・ローズマリー・グラント博士に基礎科学部門における第25回(2009)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

ダーウィンの志を継いで

チャールズ・ダーウィンは1835年にガラパゴス諸島に5週間滞在し、動物、植物、火山を観察して、自然淘汰による進化についての画期的な考えを発展させました。現在ダーウィンフィンチ類として知られているフィンチ類は、当時の彼の考察の中で重要なものでした。私達は、200万年から300万年前にガラパゴス諸島にやって来たフィンチ類の祖先種が、どのようにして、現在もそこに生息する13種のダーウィンフィンチ類に分化したのかを解明するために、この37年間、毎年ガラパゴス諸島を訪れています。

私達は、二人ともイングランド育ちで、田舎の自然に触れる機会がありました。英国で学部課程を修了した後、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学に移り、二人はそこで出会いました。結婚し、カナダのマギル大学で職に就き、そして家庭を築いて何年もが過ぎてから、私達は、ガラパゴス諸島での野外研究プログラムを開始しました。それまでの二人は研究分野が異なり、ピーターは生態学、ローズマリーは 遺伝学が専門でした。この専門分野の違いは、私達の共同研究の成果を、単純に二つを足し合わせた以上のものにしました。問題に対する見方の違いから相互作用が生まれ、それぞれが専門分野だけに留まっているよりも大きな見識を得ることができたのです。

研究は、当初三つの疑問を解決するためのものでした。一つ目は、「新しい種はどのように分化したのか」、二つ目は、「進化において種間競争は重要だったか」、そして、三つ目は、「なぜ、ある個体群のくちばしや体の大きさ等の形質が他と較べて多様であるか」という疑問です。その答えを得るために、私達はガラパゴス諸島のいくつかの島の異なるフィンチの集団の研究と、ヘノベサ島での11年間、及び大ダフネ島での37年間の詳細な研究を結び付けました。つまり、生息域の空間的分布と時間の経過を結び付けたのです。私達の最も重要な発見は、自然淘汰による進化を観察、測定、解釈できた事、そして、それは環境変化によって繰り返し起こるという事です。進化のスピードは非常にゆるやかで、人の目では観察できないと信じていたダーウィンは、きっと驚くでしょうが、喜んでもくれるでしょう。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

進化・種分化・長期フィールド研究

Evolution, Speciation and Long-Term Field Study

日時
平成21年11月12日(木) 13:00~17:10
場所
国立京都国際会館
企画・司会
巌佐  庸[(専門委員会 委員長)九州大学 大学院理学研究院 教授]
主催
財団法人 稲盛財団
後援
京都府 京都市 NHK
協賛
個体群生態学会、種生物学会、日本進化学会、日本生態学会、日本鳥学会、日本動物学会

プログラム

13:00
開会挨拶 巌佐 庸
受賞者紹介 重定 南奈子[(審査委員会 委員)同志社大学 文化情報学部 教授]
受賞者講演 ピーター・R・グラント[基礎科学部門 受賞者]
B・ローズマリー・グラント[基礎科学部門 受賞者]
「ダーウィンフィンチの進化」
講演 中村 浩志[信州大学 教育学部 教授]
「カッコウ-卵擬態の急速な進化-」
講演 矢原 徹一[(専門委員会 委員)九州大学 大学院理学研究院 教授]
「送粉昆虫に対する花の適応とその遺伝的背景」
講演 加藤 真[京都大学 大学院地球環境学堂 教授]
「コミカンソウ科で発見された絶対送粉共生系:パートナー同士の急速な相乗多様化」
17:10
講演 岡田 典弘[(審査委員会 委員)東京工業大学 大学院生命理工学研究科 教授]
「ビクトリア湖シクリッドの急速な種形成の分子機構をさぐる」
PAGETOP