1988年思想・芸術部門思想・倫理
パウル・ティーメ 写真

パウル・ティーメ
(Paul Thieme)

  • 西ドイツ / 1905年-2001年
  • インド学者
  • チュービンゲン大学 名誉教授

ヴェーダ文献の詳細な研究によって、インド・アーリア語及び古代インド思想の解明に大きく寄与した、20世紀を代表するインド学者

インド古典(ヴェーダ文献)の研究を厳密な文献学的方法によって推進し、インド思想史研究に確実で堅固な基礎を与えるとともに、門下に優れた研究者を育成して学界に多大な貢献をなした。
[受賞当時の部門 / 対象分野: 精神科学・表現芸術部門 / 哲学、古代インド及びギリシャ思想史]

プロフィール

略歴

1905年
ドイツ、ベルリンに生まれる
1928年
ゲッティンゲン大学 哲学博士の学位取得
1932年
ゲッティンゲン大学 講師
1932年
アラハバード大学(インド)講師
1935年
ブレスラウ大学(ポーランド)助教授
1941年
ハレ大学(東ドイツ)教授
1953年
フランクフルト大学 教授
1954年
エール大学(アメリカ)教授
1960年
チュービンゲン大学 教授
1975年
チュービンゲン大学 名誉教授

主な受賞と栄誉

1951年
ザクセン学士院(ライプツィヒ)会員
1977年
ベンガルアジア協会 タゴール賞
1984年
バイエルン学士院(ミュンヘン)客員会員

主な論文・著書

1935年

『パーニニとヴェーダ』

1938年

『リグ・ヴェーダにおける”外来者”』

1949年

『リグ・ヴェーダの語義的・解釈学的研究』

1964年

『リグ・ヴェーダ抄訳』

1966年

『ウパニシャッド抄訳』

1971年

『論文集』

贈賞理由

ヴェーダ文献の詳細な研究によって、インド・アーリア語及び古代インド思想の解明に大きく寄与した、20世紀を代表するインド学者

古代インド思想といえば、我が国で古くから親しまれてきたものとして仏教思想があるが、その背景をなす思想をどんどん掘り下げていくと、最も深く、最も古い層として、「ヴェーダ」とよばれる巨大な古典群に到達する。

ティーメ博士は、このヴェーダ文献の正確な解明のための堅実な基礎を確立し、その門下からは、ヴェーダ学、インド哲学、サンスクリット文法学、インド・アリアン語学などの各分野における優れた学者が多数輩出し、博士の母国のドイツだけでなく、広く世界の学界で活躍している。

博士が主要な研究対象としたヴェーダ文献は、仏教やヒンドゥー教を含む豊かなインド思想の源泉として、思想研究の観点から重要であるばかりでない。それは最も古い層に属するサンスクリット語で書かれた文献として、ギリシャ古典とならんでインド・ヨーロッパ語族の比較言語学的研究の観点からも、極めて貴重な資料である。ティーメ博士は、西洋古典学の伝統とインド・ヨーロッパ語族の比較言語学の成果を踏まえながら、ヴェーダ文献の言語学的研究ならびに解釈学的研究において、新たな展望を切り開く役割を果たした。

博士の方法は、思想的ないし文化的に重要な概念を表す語について、まずその用例をヴェーダ文献の全領域から集めること、次にそれらの用例を文脈に従って整理、分析し、問題となっている概念の基本的な意味を確定するとともに、その意味のさまざまな方向への展開過程を明らかにするというように、厳密で実証的な手続きを特徴としている。

博士は、「語義研究 Wortkunde」と呼ばれるこのような方法によって、インド思想の中心概念で、宇宙の最高原理を意味する「ブラフマン brahman」とか、ヴェーダを生み出した人々が自らの集団に与えた名称「アーリア arya」など、多数の重要な概念の解明を行った。

ヴェーダを頂点とするインドの古典は、ギリシャや中国の古典とともに、人類共通の貴重な精神的遺産である。我々は、物質的な生活において、大いに石油や石炭など化石燃料のおかげをこうむっているが、古典はまさしく精神の化石燃料であり、これを正しく認識し、正しく活用することができるならば、我々の精神生活に寄与するところは極めて大きいに違いない。

そうした意味で、古典研究の堅実な指針を与えたティーメ博士の業績は、世間の注目を集めやすい科学・技術の業績に劣らず、人類の未来に対する贈り物だと確信している。

記念講演

記念講演要旨

インド哲学の始まり

1923年に始まる私の大学での研究の対象は、当初は古代インドの聖典語サンスクリットの研究を含む「(インド・ヨーロッパ諸語の)比較言語学」であった。まもなく、私は「インド学」に転向した。言語学に対する関心をすっかりなくした訳ではなかったが、古代インドの宗教(ヴェーダの宗教文化、バラモン教文化)、哲学、およびサンスクリット文学全般のほうに強い興味を抱くようになったからである。

ヴェーダ宗教文化の特徴は、古代イランの宗教と同様に、自然の諸力と諸要素、および人格化した倫理概念に対する崇拝から成っている。前者は、暁(ウシャス)、太陽(スーリア)、火(アグニ)、風(マルト)などでデーヴァ「天上に(住まうもの)」と呼ばれ、後者は、真理(ヴェルナ)、契約/盟約(ミトラ)、厚遇(アリアマン)、公正(バガ)などでアスラ「支配者・王」あるいはアーディティアと呼ばれた。

事物の原因と起源を求める宗教的探究は、宇宙生物成論の形をとる問と思索へ、そして究極には「形而上学」に至る道を歩んだ。

私が特に関心を抱くテーマは、「リグヴェーダ(紀元前二千年紀中葉以降成立の、最古の宗教詩集成)における哲学的賛歌」であり、これらは宇宙生成論を主題としている。これらの「哲学詩篇」は、様々な観点が提示される議論の場として解するべきである。例示としてリグヴェーダ第十巻七十二篇、第十巻百二十九篇を挙げ、後者については詳細に論じる。ここで特に興味を惹く点は哲学的懐疑の深まりがみられることにあり、この懐疑から、人間には、そして又、神々ですらも「創造の始源の始源」の闇を透察する事はできないのだという確信が導きだされる。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

ヴェーダ研究における若干の問題

Some Problems in Vedic Studies

日時
1988年11月12日(土)13:00-17:00
場所
国立京都国際会館
司会
徳永 宗雄 京都大学文学部助教授

プログラム

13:30
開会の辞 徳永 宗雄
挨拶 稲盛 和夫 稲盛財団理事長
挨拶 上山 春平 精神科学・表現芸術部門審査委員長、京都国立博物館館長
業績紹介 服部 正明 精神科学・表現芸術専門委員 京都大学名誉教授
13:50
座長 原 實 精神科学・表現芸術部門専門委員、東京大学文学部教授
15:00
休憩  
15:40
座長 服部 正明
講演 土田 龍太郎 東京大学文学部助教授
「ヴェーダ祭式における潔斎と仏教の布薩」
16:15
座長 服部 正明
講演 井狩 彌介 京都大学人文科学研究所助教授
「ヴェーダ文献に見られる再生の観念」
16:50
閉会挨拶 原 實
17:00
閉会
PAGETOP