1994年先端技術部門バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー
ポール・クリスチャン・ラウターバー 写真

ポール・クリスチャン・ラウターバー
(Paul Christian Lauterbur)

  • アメリカ / 1929年-2007年
  • 化学者
  • イリノイ大学バイオメディカルMR研究所 所長

臨床医学に大きな恩恵を与えているMRIの基本原理の提案及びその発展への多大な貢献

現在、医学領域において、画像診断法として広く行われているMRI(磁気共鳴イメージング)の基本原理を最初に提案し、実験的にその可能性を確かめ、MRIの進歩発展の基礎を創るとともに、多くの関連技術を開発し、臨床医学に多大な貢献をした。
[受賞当時の対象分野: バイオテクノロジー(メディカルテクノロジーも含む)]

プロフィール

略歴

1929年
オハイオ州、シドニーに生まれる
1951年
クリーブランド、ケース工科大学化学科卒業
1962年
ペンシルベニア、ピッツバーグ大学博士号取得
1969年
ニューヨーク大学ストーニィー・ブルック校化学・放射線学教授
1985年
イリノイ大学 シカゴ医学校教授
1985年
イリノイ大学 アーバーナ・シャンペーン医学校バイオメディカルMR研究所所長

主な受賞と栄誉

1982年
ゴールド・メダル(磁気共鳴医学会)
1984年
ラスカー賞(臨床部門)
1986年
AAMC賞
1987年
ゴールド・メダル(北米放射線学会)
1992年
国際磁気共鳴学会賞
2003年
ノーベル生理学・医学賞

主な論文・著書

1973年

Image Formation by Induced Local Interactions. Nature.242., 1973.

1975年

Zeugmatographic High Resolution Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy. Images of Chemical Inhomogeneity within Microscopic Objects. (with Kramer, D.M., House, Jr., W.V., and Chen, C. -N.) Am. Chem. Soc. 97., 1975.

1984年

Theory and Simulation of NMR Spectroscopic Imaging and Field Plotting by Projection Reconstruction Involving an Intrinsic Frequency Dimension. (with Levin, D.N. and Marr, R.B.) J. Magn. Reson. 59., 1984.

1993年

Nuclear Magnetic Resonance (NMR) Imaging of Iron Oxide-Labelled Neural Transplants. (with Hawrylak, N. and others) Experimental Neurology.121., 1993.

1993年

Three-Dimensional NMR Microscopy of Rat Spleen and Liver. (with Zhou, X. and others) Mag. Res. in Med. 30., 1993.

贈賞理由

臨床医学に大きな恩恵を与えているMRIの基本原理の提案及びその発展への多大な貢献

第10回京都賞は先端技術部門において「バイオテクノロジー(メディカルテクノロジーも含む)」の分野で、ポール・クリスチャン・ラウターバー博士に贈られる。

ラウターバー博士は、現在、医学領域において、画像診断法として広く行われているMRI(磁気共鳴イメージング)の基本原理を最初に提案し、実験的にその可能性を確かめ、MRIの進歩発展の基礎を創るとともに、多くの関連技術を開発し、今日の臨床医学の発展に多大な貢献をした。

ラウターバー博士は、傾斜磁場を使いNMR信号に位置情報をエンコードする技術と、CTで実用化した投影データから断層面データを構成する、画像再構成アルゴリズム(投影復元法)を用いたNMRズーグマトグラフィーを着想した。このアイデアを“Image formation by induced local interactons”と題する論文にファントム実験結果をつけて、1973年Nature誌に投稿し、NMR信号の空間分布を測定して画像化するという画期的な手法を、世界で初めて発表した。博士のこの発表が端緒となり、様々な手法が提案され、1982年頃から臨床応用が開始され、今日のMRI技術開発の急速な隆盛を見るに至った。

MRIは、無侵襲性で、骨の影響を受けることがなく、軟部組織のコントラストにも優れている。体の軟部組織の情報を本質的に三次元情報として取得しているので、様々な測定モードを用いることにより、癌の発見はもちろんのこと、脳の活動の様子など血液の変化や化学的変化を伴うものの画像化にも適しており、現在目覚ましい進歩をとげている脳機能解明の研究分野にとって、ますます重要な役割を担うことは確実である。

ラウターバー博士はその後も、選択励起法、化学シフトイメージング、流速の測定、常磁性金属塩による造影、三次元MRI、サーフェイスコイルイメージングなどに関する論文を発表してMRIの発展に貢献し続けてきた。最近ではNMR顕微鏡の改善やNMRによる脳の研究を行っており、またMRIの提案以前には13Cスペクトロスコピーを初めて行い、これに関する数多くの実績もあげている。

今日MRIは、20年前の博士の基本原理に基づき、その後の多くの要素技術の発明と多くの技術者の努力によってなお急速に発展を続けている。

ラウターバー博士のMRIを通じた医学に対する貢献は絶大であり、ラウターバー博士は第10回京都賞先端技術部門の受賞者として最も相応しい。

記念講演

記念講演要旨

考え、実行し、信ずること

「科学は、ちょうど使いながら一枚ずつ板を張り替えて作り直していかなければならない舟のようなものである。哲学者と科学者は同じ舟の上にいる。」ノイラート

人々を動かしている衝動や人々の考えが違うからといって人間の生活が異なると言えるだろうか?道徳と芸術と政治、倫理と社会システム、宗教と経済システムはみな同じ状況を抱えている。板はどのような時にも暖かで静かな波の中で腐っているか、嵐の中で大破しているのだ。作り直すのに遅れれば、人々の生活には障害が生じ、企業や国、文化、文明は亡び、科学と哲学は沈滞して時代遅れになってしまう。大切なのは絶え間ない変化の中にあっても、人類が苦労して学んだ知識を失わないようにすることである。数学的定理や俳句は何千年にも渡って、私達人類の生活を豊かにしてきた。文字で記されるずっと前から提起されてきた謎の前に、私達は未だに困惑し、私達の能力は試され続けている。

科学や技術の進歩のスピードがますます速くなっていることはよく指摘される。新しい技術が生まれ、理解の程度が高まる度に、それが他にも影響を与え、時空を超えて結ばれた豊かなネットワークはものすごいスピードで拡大し、一層複雑になっている。しかしもっと広い意味での人類の文化がそれと同じほどの成長を遂げていることは見逃されがちである。これはその成長の大部分が、文化におけるテーマや人々を動かしている衝動が次々と完結しては、また新しく生じたものが混乱を引き起こしながら成長し整理統合していくという形で起こるからである。そのような成熟した文化複合体は後の世の新しい動きや全く違う起源を持った動きに影響を与える。人的ネットワークが世界中に広がり、過去へとも範囲を伸ばす中で、人間の記憶の短さや歴史の変化があっても、すべてが忘れ去られることはなくなった。建築と美術は昔から長い年月を乗り越えてきたが、次第に文学がその仲間入りをし、その次には音楽が、そして今では私達は過去に行われたパフォーマンスを楽しむことさえできる。もちろん完全に失われてしまうものもあり、人間の頭脳はすべての時代の豊かさを保持することはできない。しかし人類がまだ赤ん坊や子供だった時代に考えたり、行動したり、信じていたことの意味する知恵やその知識や経験はますます私達現代人の魂の一部になってきている。そこからこそ未来が生まれるのであり、私達の舟が航海に耐え得るかどうかは、私達が毎日、毎年、そして世代を超えて、舟を作り、また作り直していくとき、そのような知恵や知識や経験をバランスよく統合していけるかどうかにかかっている。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

磁気共鳴イメージング -その応用と展望-

Application and Prospectives of Magnetic Resonance Imaging

日時
1994年11月12日(土)13:00~17:30
場所
国立京都国際会館
司会
遠藤 真広 放射線医学総合研究所主任研究官 渡部 徳子 東京水産大学水産学部教授、日本磁気共鳴医学会理事

プログラム

13:00
開会
挨拶 稲盛 豊実 稲盛財団常務理事
挨拶 井村 裕夫 先端技術部門審査委員会委員長、京都大学総長
13:15
業績紹介 舘野 之男 先端技術部門審査委員会委員、日本磁気共鳴医学界会長
13:20
記念講演 ポール・クリスチャン・ラウターバー 先端技術部門受賞者
「巨視的・微視的NMRイメージング及びスペクトロスコピックイメージングの新しい試み」
14:10
座長挨拶 遠藤 真広
講演 田中 邦雄 旭川医科大学医学部付属実験実習機器センター助教授
「日本におけるNMRを用いた生体計測技術開発の経緯」
講演 亀井 裕孟 電子技術総合研究所主任研究官、日本磁気共鳴医学会副会長
「脳機能計測におけるNMRの役割」
15:10
休憩
15:30
座長挨拶 渡部 徳子
講演 ジェローム・L・アッカーマン マサチューセッツ総合病院NMRセンター主任
「生体医療材料の磁気共鳴マイクロイメージング及びスペクトロスコピー」
16:00
座長挨拶 古瀬 和寛 中津川市民病院院長
講演 成瀬 昭二 京都府立医科大学医学部講師
「磁気共鳴スペクトロスコピーの医学応用」
講演 高橋 睦正 熊本大学医学部教授
「MRI: 臨床応用の現状と将来」
17:00
質疑応答
17:25
閉会の辞 舘野 之男
17:30
閉会
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