2002年基礎科学部門数理科学(純粋数学を含む)
ミハイル・レオニドヴィッチ・グロモフ 写真

ミハイル・レオニドヴィッチ・グロモフ
(Mikhael Leonidovich Gromov)

  • フランス / 1943年12月23日
  • 数学者
  • フランス高等科学研究所 教授、ニューヨーク大学 クーラント研究所 教授

幾何学的対象の族に距離構造を導入する新しい方法により数学の多分野においてその飛躍的発展に貢献

斬新なアイデアと伝統にとらわれない大胆な数学的手法によって、現代幾何学に新しい局面を切り拓き、多数の難問を解決すると同時に、幾何学、代数学、解析学などの多方面において、これらを統合する新しい視点を提出し、数理科学全般に多大な影響を与えた。
[受賞当時の対象分野: 数理科学]

プロフィール

略歴

1943年
ロシア ボクシトゴルスク生まれ
1965年
レニングラード大学 (数学) M.S.
1969年
レニングラード大学 (数学) Ph.D.
1967年
レニングラード大学 助教授
1974年
ニューヨーク州立大学 ストーニーブルック校 教授
1981年
パリ第VI大学 教授
1982年
フランス高等科学研究所 (IHES) 教授(フランス)
1996年
ニューヨーク大学 クーラント研究所 教授

主な受賞と栄誉

1981年
オズワルド・ベブレン幾何学賞、アメリカ数学会
1984年
エリー・カルタン賞、フランス科学アカデミー
1993年
ウォルフ賞
1997年
ロバチェフスキーメダル
レロイ P. スティール賞、アメリカ数学会
1999年
バルザン賞
2009年
アーベル賞
会員
全米科学アカデミー、アメリカ芸術科学アカデミー、フランス科学アカデミー、ジュネーブ大学名誉学位

主な論文

1981年

Curvature, Diameter and Betti Numbers, Comm.Math.Helv., 56, 179, 1981

1985年

Manifolds of Non-positive Curvature, Progress in Mathematics, 61 (with W. Ballmann and others), 1985

1986年

Partial Differential Relations, Ergeb. Math., 9, Springer-Verlag, 1986

1987年

Hyperbolic groups, in Essays on Group Theory, MSRI Pub., 8. Springer-Verlag, 1987

1993年

Asymptotic Invariants of Infinite Groups, in Geometric Group Theory, G. Noble and others eds., London Math. Soc., 75, 1993

1999年

Metric Structures for Riemannian and non-Riemanian Manifolds, (with M. La Fontaine and P. Pansu), Birkhauser, Bale, 1999

贈賞理由

幾何学的対象の族に距離構造を導入する新しい方法により数学の多分野においてその飛躍的発展に貢献

グロモフ教授は斬新なアイディアと伝統にとらわれない大胆な数学的手法によって、現代幾何学に新しい局面を切り拓き、多数の難問を解決すると同時に、幾何学、代数学、解析学などの多方面において、これらを統合する新しい視点を提出し、数理科学全般に多大な影響を与えた。

グロモフ教授は、19世紀のリーマンとポアンカレ、20世紀のカルタンとチャーンに続く、現代の幾何学の巨星といえる。幾何学を振り返れば、空間の 大域的な構造と局所的な性質との関係を明らかにすることは、ガウスとリーマンが「空間」の数学的理論を提唱して以来の古くからの中心課題であった。

グロモフ教授の活躍は、1960年代から70年代の初めにかけての等長埋め込みや正則ホモトピー論の研究に始まり、70年代後半から80年代にリー マン空間の研究に対する真に革命的なアイディアを展開した。従来の幾何学では一つ一つの多様体の性質を考えていたのに対して、グロモフ教授はあらゆる多様 体を集めたいわば空間の空間を作り、そこに距離構造を導入することにより全体を俯瞰的に捉え、そこから逆に個々の多様体の性質を考える新しい方法を提唱し たのである。この方法を用いてこれまでの難問、特に局所的な見方である曲率と、大域的な性質である位相との関係を問う多くの問題に答を出し、一応の完成を 見たかに思えた現代幾何学に新たな突破口を開いた。

この結果、多くの副産物が得られた。例えば従来、球面のような正曲率空間に対してのみ考察されていたピンチング問題を負曲率空間にも拡張し、多くの 結果を得た。さらに空間の空間における位相的な極限を考えることによって、その境界に現れるアレキサンドロフ空間の研究を促した。グロモフ教授は、空間族 に距離構造を入れるという考え方を、それまで理解の浅かった離散群にも適用し、ここでも新しい結果を得ている。さらにグロモフ教授は、離散群における双曲 群の概念を提唱し、組み合わせ群論、位相幾何学の発展に大きく寄与した。また、シンプレクティック多様体では、グロモフ―ウィッテン不変量と呼ばれる全く 新しい位相不変量を発見している。

グロモフ教授のアイディアと手法は、その後も様々な方向に発展を遂げ、その適用範囲は、幾何学を超えて、解析学、代数学にも及んでいる。現在ではグ ロモフ教授はBio‐informaticsの研究を続けており、教授の影響は数理科学全体に及び、計り知れないものとなりつつある。グロモフ教授の成し 遂げた功績は枚挙に暇がなく、そのそれぞれが最大級の賞賛に値するものである。

以上の理由によって、グロモフ教授に基礎科学部門における2002年京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

空間のイメージを超えて

空間のイメージを超えて;私たちは数学者がユークリッド空間と呼ぶ3次元空間に住んでいます。この名前はアレキサンドリアの幾何学者であったユークリッド に敬意を表してつけられたものですが、彼は、2000年以上も前に、私たちの持つ直感的な空間のイメージを公理としてリストアップしようと試みました。し かし、20世紀、特にベルンハルト・リーマンの仕事以降、空間の概念はユークリッドの原点からどんどん離れて発展し続けています。それは当初、純粋数学の 必要からでしたが、その後、他の科学、まずは物理、続いて化学、生物学、経済学の発展によって促進されてきました。数学やその他の科学で出会うほとんどの 空間は、3次元空間の中で視覚化することができません。曲線や曲面というようなものではないのです。したがって映像的なイメージとして私たちに入ってこな いのです。たとえ、そのような空間がユークリッド空間に密接に関係していて、私たちが生活のあらゆる瞬間にそれらに依存していたとしても、私たちはそれら を認識していません。それどころか、私たちはその動作の間、それらに気づくことなくそれらの性質を利用しているのです。(泳ぐ魚が水の存在に気がつかない のと同じことです。)では、どのようにしてそのような空間を理解できるのでしょうか。どのようにして研究すればよいのでしょうか。私たち幾何学者は、その 想像力を持って得た知識をいかにして機械に伝えればよいのでしょうか。例えば、動物や人間のような敏捷さを持って空間を移動する能力をロボットにどのよう にしてつけるのでしょうか。私たちの助けとなるのは、そして私たち幾何学者が日常の空間のイメージをはるかに押し広げて、現代の幾何学を構築し続けていく ことができるのは、私たち生命の持つ視覚や運動系の中に無意識のうちに潜んでいる空間の感覚の驚くべき柔軟性といえるでしょう。幾何学のある種の分野を研 究することは自転車に乗ることを学ぶのによく似ています。最初はとても困難に見えるのですが、学んでしまえばどうということはないのです。ただし幾何学の それといえば、積み上げた自転車に曲乗りするようなものです。この講演では、皆さんにシンプルな自転車操縦法をお教えするつもりです

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

数学の世界

World of Mathematics

日時
2002年11月12日(火)13:00~17:20
場所
国立京都国際会館
企画・司会
砂田 利一 [(専門委員会 委員)東北大学 大学院理学研究科 教授]

プログラム

13:00
開会 砂田 利一
挨拶 広中 平祐 [(専門委員会 委員長)京都大学 名誉教授]
受賞者紹介 ジャン-ピエール・ブルギニォン [フランス高等科学研究所 所長]
受賞者講演 ミハイル・レオニドヴィッチ・グロモフ
「幾何学的対象の生成と記述」
講演 深谷 賢治 [京都大学 大学院理学研究科 教授]
「概正則曲線、グロモフ-ウィッテン不変量、ミラー対称性
講演 山口 孝男 [筑波大学 数学系 教授]
「4次元多様体の崩壊 曲率の下からの bound のもとで」
休憩
パネルディスカッション 「グロモフ教授を囲んで、数学の未来の可能性を語る」
司会:砂田 利一
パネリスト:ミハイル・レオニドヴィッチ・グロモフ、ジャン-ピエール・ブルギニォン、深谷 賢治、塩濱 勝博 [佐賀大学 理工学部数理科学科 教授]、加藤 毅 [京都大学 大学院理学研究科 助教授]
17:20
閉会
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