1996年基礎科学部門生命科学(分子生物学・細胞生物学・神経生物学)
マリオ・レナト・カペッキ 写真

マリオ・レナト・カペッキ
(Mario Renato Capecchi)

  • アメリカ / 1937年10月6日
  • 分子遺伝学者
  • ユタ大学 教授

遺伝子ターゲティング法の開発によるノックアウトマウスの実用化及び遺伝子機能解明への多大な貢献

今日、生物学において世界で広く用いられているジーンターゲティング法(標的組み換え法)を開発し、任意の遺伝子の機能を欠いたマウス、いわゆるノックアウトマウスを作成して、その遺伝子の働きを研究する道を確立するなど、生物学、医学、農学などの生命を研究する科学に計り知れない恩恵を与えた。

プロフィール

略歴

1937年
イタリア、ベローナで生まれる
1961年
アメリカ、アンティオック大学卒業
1967年
ハーバード大学で博士号取得
1968年
ハーバード大学 医学部 助教授
1973年
ユタ大学 生物学 教授
1988年
ハワード・ヒューズ医学研究所 主任研究員
1989年
ユタ大学 医学部人類遺伝学 教授

主な受賞と栄誉

1969年
アメリカ化学協会賞、生化学部門
1974年
アメリカ癌協会賞
1986年
分子遺伝学ゴードンカンファレンス委員長
1991年
アメリカ科学アカデミー会員
1993年
ガードナー財団国際賞医学部門、カナダ
1994年
スローン賞、GM癌研究財団、アメリカ
2007年
ノーベル生理学・医学賞

主な論文・著書

1980年

High efficiency transformation by direct microinjection of DNA into cultured mammalian cells. Cell, 22, 1980.

1987年

Site-directed mutagenesis by gene targeting in mouse embryo-derived stem cells. (with K.R. Thomas) Cell, 51, 1987.

1988年

Disruption of the proto-oncogene int-2in mouse embryo-derived stem cells: a general strategy for targeting mutations to non-selectable genes. (with S.L.Mansour and K.R. Thomas) Nature, 336, 1988.

1991年

Regionally restricted developmental defects resulting from targeted disruption of the mouse homeobox gene hox-1.5 (with O. Chisaka) Nature, 350, 1991.

1995年

Absence of radius and ulna mice lacking hoxa-11 and hoxd-11. (with A.P. Davis, others) Nature, 375, 1995.

贈賞理由

遺伝子ターゲティング法の開発によるノックアウトマウスの実用化及び遺伝子機能解明への多大な貢献

マリオ・レナト・カペッキ博士は任意の遺伝子の機能を欠いたマウス、いわゆるノックアウトマウスを作り出し、その遺伝子の機能を研究する道を確立した。この研究法は現在広く世界で用いられており、生物学、医学などの生命科学に計り知れない恩恵を与えている。

医学、生物学において、ある遺伝子の機能を解明するためには、その遺伝子に変異を生じた変異体を作成し、行動や機能などを調べる手法が大変有用である。博士はDNAの一部に変異を挿入した遺伝子を動物細胞内に導入すると、細胞内の染色体上にもともと存在していた相同の部位と置き換り(相同組み換え)が起こることを明らかにし、その頻度を上げると同時に、非相同組み換えを起こした細胞を排除する手法を開発した。この方法はジーンターゲティング法(標的組み換え法)と呼ばれ、これまで夢のような話であった脊椎動物の任意の遺伝子に、任意の変異をもつ個体を得る道を拓き、その遺伝子の機能を確かめることを可能にした。これは医学、生物学にとり革命的な方法であり、生命科学の研究における大きなブレークスルーとなった。

博士はこの方法を用いて、任意の遺伝子の機能を欠いたノックアウトマウスを効率よく作成する方法を確立した。このノックアウトマウスの実用化により、発生生物学には新しく広大な研究分野が拓かれ、またリセプターやシグナル伝達、細胞の機能調節などに関わる多くの脊椎動物の遺伝子の働きの解明が大いに進むとともに、遺伝病や癌をはじめとする様々な疾患のモデル動物の開発により、それらの治療の研究が非常に活発になっている。更には、動植物の品種改良などの応用にも無限の可能性を秘めるもので、学術上のみならず社会的にも非常にインパクトの大きい業績といえる。

以上のように、カペッキ博士は今日の生命現象の研究に新しい局面を開き、生命科学の飛躍的な発展に大きく貢献しており、よって、基礎科学部門の第12回京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

ある科学者の形成

ジーンターゲティング(標的組み替え)法の利点は、どの遺伝子に修正を加えるか研究者が選択できるという点、さらにはその遺伝子のDNAの配列をどのように変更するかを事実上完璧にコントロールすることができるという点である。

この技術により、生きたほ乳類の遺伝子の機能評価や、発達や学習といった最も複雑な生物学的プロセスを系統的に解明することができる。ほぼ全ての生物学的現象は遺伝子が仲介しているので、この技術はほ乳類のガン研究、免疫学、神経生物学、人間の先天的疾病といった諸現象の分析に新たなる道を拓くことになろう。

本講演では、私達がこの技術の開発にどのような貢献をしたかということを紹介し、同時に私の科学者としての歩みに影響を与えたいくつかの個人的体験も折り込んで話したいと思う。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

遺伝子から細胞機能と体の設計図を探る

From Genes to Cellular Functions and Body Plan

日時
1996年11月12日(火)13:00~17:20
場所
国立京都国際会館
企画・司会
廣川 信隆 基礎科学部門専門委員会委員、東京大学医学部教授 竹市 雅俊 基礎科学部門専門委員会委員、京都大学大学院理学研究科教授

プログラム

13:10
開会
挨拶 稲盛 豊実 稲盛財団常務理事
13:15
受賞者紹介 豊島 久真男 基礎科学部門専門委員会委員長、大阪府立成人病センター総長
13:20
記念講演 マリオ・レナト・カペッキ 基礎科学部門受賞者
「体の形づくりにおけるHox遺伝子の役割」
14:20
講演 岸本 忠三 基礎科学部門専門委員会委員、大阪大学医学部学部長
「サイトカインシグナル伝達;ノックアウトマウスからのレッスン」
15:00
休憩
15:20
講演 廣川 信隆
「細胞内物質輸送の分子機構;モーター分子群KIFの分子細胞生物学」
16:00
講演 中西 重忠 基礎科学部門審査委員会委員、京都大学大学院医学研究科教授
「グルタミン酸受容体の脳機能における役割」
16:40
講演 竹市 雅俊
「細胞接着分子による組織構築の制御」
17:20
閉会
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