2002年先端技術部門バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー
レロイ・エドワード・フッド  写真

レロイ・エドワード・フッド
(Leroy Edward Hood)

  • アメリカ / 1938年10月10日
  • 生物学者
  • システム生物学研究所 社長兼所長

DNAの塩基配列と蛋白質のアミノ酸配列の決定および、合成の自動化機器の開発による生命科学への貢献

研究者の熟練的技法に依存していた分子生物学・分子遺伝学の分野に自動化装置の考え方を導入し、それを具現化することによって、100年近くはかかるであろうと予測されたヒトゲノムの構造決定をわずか数年で可能にし、生命科学の発展に多大な貢献をした。

プロフィール

略歴

1938年
アメリカ,モンタナ州生まれ
1960年
カリフォルニア工科大学(生物学)卒業
1964年
ジョーンズ・ホプキンス医科大学(医学) M.D.
1968年
カリフォルニア工科大学(生化学) Ph.D.
1975年
同校 生物学 教授
1977年
同校 生物学Bowles 教授
1980年
同校 生物学部 学部長
1981年
同校 癌センター 所長
1989年
NSF分子生物工学・科学技術センター 所長
(カリフォルニア工科大学およびワシントン大学)
1992年
ワシントン大学医学部 分子生物工学科 ウィリアムゲートⅢ 教授
1999年
システムズ生物学研究所 社長兼所長

主な受賞と栄誉

1987年
ルイス・パスツール賞
ディクソン賞
アルバート・ラスカー基礎医学研究賞
1991年
フランツ・グレーデルメダル
1994年
生体工学ベンチャー賞
1997年
ラグナ・ニグエル殿堂賞
会員
全米科学アカデミー,アメリカ芸術科学アカデミー,アメリカ科学振興協会

主な論文

1980年

New Protein Sequenator with Increased Sensitivity, Science 207:523 (with M. W. Hunkapiller), 1980

1984年

A Microchemical Facility for the Analysis and Synthesis of Genes and Proteins, Nature 310:105 (with M. W. Hunkapiller and others), 1984

1986年

Fluorescence Detection in Automated DNA Sequence Analysis, Nature 321:674 (with L. M. Smith and others), 1986

1996年

A New Strategy for Genome Sequencing, Nature 381:364 (with J. C. Venter and others), 1996

贈賞理由

DNAの塩基配列と蛋白質のアミノ酸配列の決定および、合成の自動化機器の開発による生命科学への貢献

フッド博士は、研究者の熟練的技法に依存していた分子生物学・分子遺伝学の分野に自動化装置の考え方を導入し、それを具現化することによって、100年近くはかかるであろうと予測されたヒトゲノムの構造決定をわずか数年で可能にし、生命科学の発展に多大な貢献をした。

1970年代にすべての生物の遺伝情報を司るDNAを断片化し、コピーするDNAクローニング技術、それに基づくDNA塩基配列決定技術といった遺伝子工学の技術が確立した。しかしそれらはいずれも長い時間と研究者の高度な熟練を要するものであった。

まずフッド博士は従来の100倍もの高感度の自動ペプチド配列解析機を開発した。これは我々の体の重要な構成要素である蛋白質のアミノ酸配列の決定 を自動的に行うペプチド配列解析機の高速化・高感度化であり、気体相を用いた検知方法によってその感度を従来よりも二桁も増大させ、生体内の微量蛋白質の 分析を可能とするものであった。1984年にフッド博士は自動ペプチド合成機と共に、自動DNA合成機の開発を行った。これはほぼ同時期に開発された DNAの増幅法であるPCR法の飛躍的な普及をもたらし、これによってDNA研究全体を飛躍的に推進したことは議論の余地がない。さらに1986年、フッ ド博士は世界初の自動蛍光DNA配列解析機を発表した。30億という膨大な量の遺伝暗号の解読が現実のものと捉えられる背景となった重要な報告であった。 この自動化によって従来よりもはるかに短時間で配列決定がなされるようになり、これが現在利用されているキャピラリー型のDNA配列解析機の開発の基盤と なった。

2001年にはヒトゲノムの概要配列が発表されたが、これらヒトゲノム計画の急速な進歩は博士らによる自動DNA合成機、自動DNA配列解析機の開発によるところが大きい。

ゲノム科学の発展とその成果は画期的な新しい治療法の開発や個人に最適の治療を選択する方法の開発につながるのみならず、種々の生物種の遺伝情報を 読み取ることにより、生命進化の歴史を辿るための貴重な情報を得ることを可能とし、さらに食糧問題や環境問題の解決の手がかりとなる有力な情報を提供する ことは疑いの余地がない。

このようなゲノム科学の進展には多くの種類の高速自動化機器類の開発が大きな原動力となってきたが、フッド博士はその先端を切り開いてきた。

以上の理由によって、フッド博士に先端技術部門における2002年京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

私の人生と冒険―生物学と技術の統合

研究者として私は2つのことを目指してきました。1つは最先端の生物学の研究を行うこと、もう1つは生物情報解読の妨げとなっていた障壁を取り除く技術を 開発することです。この2つを同時に行うという試みは困難を極めました。今こうして人生を振り返ってみると、生物学者としての私のキャリアに直接、間接的 に影響を与えた個人的関心、人生の選択などが思い起こされます。つまり、私がアウトドア派でスポーツ、運動が好きだったこと、音楽を演奏したり聞いたりす ることが好きだったこと、コミュニケーション力の重要性を早い段階から認識していたこと、教えることが好きだったこと、本を読んだり物を書いたりするのが 大好きだったこと、いつも自分で考え行動していたこと、科学技術に関心があったこと、そして研究機関の管理体制を改革していくリーダーシップの才覚があっ たことなどです。講演では子供の頃の話に加えて、進路決定の経緯、若い頃の職業選択の話などをいたします。また、これまでの研究成果を紹介するとともに、 そうした成果が、現在私がシアトルのシステム生物学研究所で行っている「システム生物学」という生物学への新たなアプローチや予知医学、予防医学といった 新しい考え方の医療の確立に向けた研究とどのように結びついているのかについてお話しします。さらに、こうした「新たな生物学」がもたらす倫理、社会、法 律面での課題について触れ、社会一般で行われる科学教育がその解決に重要な役割を担っているということを訴えたいと思います。これに関連して、現在、シス テム生物学研究所が幼稚園から高校までを対象として行っている科学教育プログラムについても触れます。最後に、研究者の社会的責務に関する私の私見、ま た、全人類が直面している課題、そして未来に拡がる可能性についてお話しします。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

ゲノム生物学からシステム生物学へ

From Genome Biology to Systems Biology

日時
2002年11月12日(火)13:00~17:30
場所
国立京都国際会館
企画
本庶 佑 [(専門委員会 委員長)京都大学 大学院医学 研究科長 医学部長] 榊 佳之 [(専門委員会 委員)東京大学 医科学研究所 教授、理化学研究所ゲノム科学総合研究センター プロジェクトディレクター]
司会
榊 佳之

プログラム

13:00
開会 榊 佳之
挨拶 本庶 佑
受賞者紹介 榊 佳之
受賞者講演 レロイ・エドワード・フッド
「システム生物学 ゲノム科学、蛋白質科学、計算機科学の統合」
講演 伊藤 隆司 [金沢大学 がん研究所 遺伝子染色体構築研究分野 教授]
「蛋白質相互作用の網羅的解析:カタログ化から機能的解釈へ」
講演 小原 雄治 [国立遺伝学研究所 生物遺伝資源情報総合センター 副所長]
「線虫 C. elegans 発生過程のコンピュータシミュレーションに向けて」
休憩
講演 冨田 勝 [慶應義塾大学 先端生命科学研究所 所長]
「E‐CELL プロジェクト:システム生物学と細胞シミュレーション」
講演 金久 實 [京都大学 化学研究所バイオインフォマティクスセンター センター長]
「細胞機能のコンピュータ表現と計算」
講演 野間 昭典 [京都大学 大学院医学研究科 生体制御医学講座 教授]
「心筋細胞の機能シミュレーション:KYOTOモデル」
講演 近藤 滋 [理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター チームリーダー]
「動物の皮膚にできる「移動波」と「固定波」」
質疑応答
17:30
閉会
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