2006年先端技術部門バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー
レナード・アーサー・ハーツェンバーグ 写真

レナード・アーサー・ハーツェンバーグ
(Leonard Arthur Herzenberg)

  • アメリカ / 1931年-2013年
  • 免疫・遺伝学者
  • スタンフォード大学教授

蛍光標識単クローン抗体を利用した細胞分別・分取装置の開発による生命科学への多大な貢献

細胞をその特性に従って判別しながら自動的に生きたまま分取する装置(FACS)の開発を主導し、蛍光標識単クローン抗体を用いた解析を組み入れることにより、今日の生命科学や臨床医学の飛躍的発展に多大な貢献をした。

プロフィール

略歴

1931年
米国 ニューヨーク市ブルックリン生まれ
1952年
ブルックリン大学 卒業(生物・化学)
1955年
カリフォルニア工科大学 博士号(生化学・免疫学)
1955年
パスツール研究所 米国がん協会博士研究員
1957年
国立衛生研究所 公衆衛生サービス局 局員
1959年
スタンフォード大学 医学部 遺伝学助教授
1964年
スタンフォード大学 医学部 遺伝学准教授
1969年
スタンフォード大学 医学部 遺伝学教授

主な受賞と栄誉

1998年
生涯功績賞、米国免疫学会
2002年
エドウィン・F・ウルマン賞、米国臨床化学会
2004年
ノバルティス免疫学賞、国際免疫学会
2005年
アボット研究所賞(臨床・診断免疫学)、米国微生物学会
会員:
米国科学アカデミー、米国科学振興協会

主な論文

1969年

Cell sorting: automated separation of mammalian cells as a function of intracellular fluorescence, Science 166: 747-749 (Hulett, H. R., Bonner, W. A., Barrett, J. and Herzenberg, L. A.), 1969.

1972年

Fluorescence activated cell sorting, Review of Scientific Instruments 43: 404-409 (Bonner, W. A., Hulett, H. R., Sweet, R. G. and Herzenberg, L. A.), 1972.

1976年

Fluorescence-activated cell sorting, Scientific American 234: 108-117 (with Sweet, R. G.), 1976.

1979年

Fetal cells in the blood of pregnant women: detection and enrichment by fluorescence-activated cell sorting, Proceedings of the National Academy of Sciences, U.S.A. 76: 1453-1455 (with Bianchi, D. W., Schroder, J., Cann, H. M. and Iverson, G. M.), 1979.

1981年

Evolutionary conservation of surface molecules that distinguish T lymphocyte helper/inducer and cytotoxic/suppressor subpopulations in mouse and man, Journal of Experimental Medicine 153: 310-323 (Ledbetter, J. A., Evans, R. L., Lipinski, M., Cunningham-Rundles, C., Good, R. A. and Herzenberg, L. A.), 1981.

2004年

Genetics, FACS, immunology, and redox: a tale of two lives intertwined, Annual Review of Immunology 22: 1-31 (with Herzenberg, L. A.), 2004.

 

贈賞理由

蛍光標識単クローン抗体を利用した細胞分別・分取装置の開発による生命科学への多大な貢献

レナード・アーサー・ハーツェンバーグ博士は、Fluorescence-Activated Cell Sorter(FACS)と名付けられた、細胞をその特性に従って生きたまま分取する装置の開発を主導した免疫・遺伝学者である。博士は、2種類のリンパ球、T細胞とB細胞、それぞれの機能を調べるため、その特性に従って細胞を分取する装置を発想した。ロスアラモス国立研究所で開発された大きさに基づいて粒子を分画する装置を改造するために、エンジニアを含む開発チームを独自に組織して試作機を作り、1969年に蛍光標識した細胞を生きたまま分取することに世界で初めて成功した。さらに、改良を続け1970年代初めには医用機器会社との共同により、商業的生産ベースの装置開発を成功させ、世界中に普及させた。この方法は、細胞表面抗原に特異的な蛍光標識単クローン抗体を用いることにより飛躍的に発展した。この装置は、細胞の特性を示す蛍光標識した単クローン抗体の発する蛍光強度、細胞の大きさを示す前方散乱光、細胞の内部構造を示す側方散乱光を正確に測定し、その情報に基づき一個一個の細胞を生きたまま無菌的に分取するものである。

FACSは、基礎生物学から、幹細胞生物学を含む医学などの応用生物学に至るまで、生命科学全般にわたって広く用いられている。例えば臨床医学関係において、HIV感染者の病態把握や白血病を代表とする造血系悪性腫瘍の診断にも用いられるなど、バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー分野に対する貢献は絶大である。この画期的な細胞分別・分取装置の出現によって、我々の体に60兆個もあると言われている細胞中のうちの特定の機能を持つ細胞の数を数えたり、一細胞から生体成分を抽出できるようになった。細胞から調製した染色体の分離とそれに基づく各染色体ライブラリーの構築などによるゲノム科学研究のみならず、現在では特定細胞のプロテオミクス解析を可能にするなどポストゲノム研究の発展も確実に支えている。

FACSなくしては現在の進展が考えられなかった生命科学分野は数多く、FACSはバイオテクノロジー及びメディカルテクノロジーの金字塔の一つと言っても過言ではなく、博士の貢献は極めて高く評価されるものである。

以上の理由によって、レナード・アーサー・ハーツェンバーグ博士に先端技術部門における第22回(2006)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

果てしなき科学の世界

日本には「自分が何でも知っていると思ったら、それは大きな間違いだ」といった意味の古い諺がありますが、いやしくも科学者たるもの、この教えを決して忘れてはなりません。実際、これまで人類はDNA情報を解読し、そのヒトゲノムを解析することによって、いくつかの病気を地球上から撲滅することに成功しました。私が専門とするごく限られた研究領域においても、私どもが開発したFACSによって単一細胞に関する多くの謎が解明され、幹細胞移植、白血病治療に道が開かれてきました。もはや我々に知るべきことは殆ど残されていないかのように思いがちですが、決してそうではありません。先日も私の研究室の若手研究員がこれまでまったく確認されていなかった新種の免疫細胞を発見しています。

思えば私も、ブルックリン大学で化学装置に囲まれて研究に明け暮れ、とうもろこしの種子やショウジョウバエの神秘を学んでいた若かりし頃、いつの日か科学がこの世のあらゆる事象を解明してくれるであろうという幻想を抱いていました。これからも人類は多くのことを知り、我々には想像もできないような新しい技術を開発していくことでしょうが、私達の教え子、そして彼らの教え子の代になっても、謎が尽きることはないでしょう。私達の現実世界の問題を追い求める行為に終着点はありません。これこそが科学の喜びであり、力であります。我々科学者は、あたかも自分達は究極の真理を得たものと思い込んでいる狂信的宗教関係者からの不合理な攻撃を今後も退けていかなければなりません。

【関連情報】
記念講演会(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

「細胞分取技術の生物・医学への応用と未来」

Future of FACS Technology: Application to Biomedical Research

日時
2006年11月12日
場所
国立京都国際会館
企 画:
本庶 佑[(先端技術部門 審査委員会 委員長)京都大学 大学院医学研究科 教授]
企画・司会:
垣生 園子[東海大学 医学部 教授]、 中内 啓光[東京大学 医科学研究所 教授]

プログラム

13:00
開会挨拶 本庶 佑
受賞者紹介 垣生 園子
受賞者講演 レナード・アーサー・ハーツェンバーグ[先端技術部門 受賞者、スタンフォード大学 教授]
"History and Uses of Flow Cytometry and Sorting (the Fluorescence-Activated Cell Sorter)"
「蛍光励起細胞分取装置(FACS)開発の歴史と応用」
講演 垣生 園子
「FACSが拓いた免疫研究—T細胞分化—」
休憩
講演 中内 啓光
「FACSを利用した幹細胞研究と再生医療への期待」
講演 阿形 清和[京都大学 大学院理学研究科 教授]
「FACSを用いたプラナリアの再生メカニズムの分子・細胞生物学的解析」
17:00
閉会
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