1992年思想・芸術部門思想・倫理
カール・ライムント・ポパー  写真

カール・ライムント・ポパー
(Karl Raimund Popper)

  • イギリス / 1902年-1994年
  • 哲学者
  • ロンドン大学 名誉教授

「批判的合理主義」の立場から、「反証可能性」に基づく科学理論の解明及び開かれた社会の実現を呼びかけ、世界に大きな影響を与えた哲学者

科学的思考の特徴は反証可能性にあるとする「批判的合理主義」を主張した新しい思想と、社会の発展のあり方を的確に捉えることにより、哲学のみならず人文・社会科学から自然科学にまで及ぶ、現代の知的状況の形成に多大な影響を与えてきた20世紀の開かれた精神を象徴する哲学者である。
[受賞当時の部門 / 対象分野: 精神科学・表現芸術部門 / 哲学(20世紀の思想)]

プロフィール

略歴

1902年
オーストリア ウィーンに生まれる
1922年
ウィーン大学卒業
1937年
ニュージーランドへ亡命
1946年
イギリスへ移住
1949年
ロンドン大学論理学、科学方法論教授
1969年
ロンドン大学名誉教授

主な受賞と栄誉

1965年
精神科学賞(ドイツ)
1965年
名誉勲位
1966年
国際科学哲学アカデミー会員
1976年
イギリス王立協会会員
1989年
カタロニア国際賞(スペイン)

主な論文・著書

1934年

Logik der Forschung(1971年邦訳『科学的発見の論理』)

1945年

The Open Society and Its Enemies(1980年邦訳『開いた社会とその敵』)

1963年

Confectures and Refutations(1980年邦訳『推論と論駁』)

1972年

Objective Knowledge(1974年邦訳『客観的知識』)

1977年

The Self and Its Brain(1986年邦訳『自我と脳』)

1983年

The Open Universe: An Argument for Indeterminism

贈賞理由

「批判的合理主義」の立場から、「反証可能性」に基づく科学理論の解明及び開かれた社会の実現を呼びかけ、世界に大きな影響を与えた哲学者

カール・ライムント・ポパー卿は、その思想の卓越性と影響力において、20世紀を代表する正統本格派の哲学者であり、その批判的合理主義の哲学は、あらゆる独断論を斥け、柔軟で開かれた思考に貫かれている。

業績の中核をなす科学哲学において、ポパー卿は帰納主義的な科学論を批判して、科学法則は普遍的言明であり、それは個々の事実によって完全に検証されえないが、逆にただ一つの事例によっても完全に反証されることを指摘して、科学的知識の特質は検証ではなく反証すなわち批判の可能性にあるとする鋭利な議論に展開した。

こうしてポパー卿は、科学をはじめ人間の知的営為における批判活動の重要性を強調しつつ「批判的合理主義」の立場を確立して、その立場から、進化論的認識論とも呼ばれるその認識論や、物理的世界(「世界1」)とも心理的世界(「世界2」)とも区別されるべき客観的思考内容の世界(「世界3」)の実在性の主張など、多くの優れた独自の理論を提示した。

他方ポパー卿は、第二次世界大戦の状況に思いをこらして、『開いた社会とその敵』を世に問い、左右両派の全体主義と徹底的に対決した。その厳しい批判の標的は、歴史的発展の法則の把握によって人類の未来を予見できるとする宿命論的・決定論的な歴史観、すなわち、ヘーゲルとマルクスに代表される「歴史主義」の思想である。ポパー卿はこの思想が生み出す「閉じた社会」を斥け、自由で民主的な「開いた社会」のために、人間の本性への洞察に基づく「漸次的社会工学」を提唱した。

このようにしてポパー卿の哲学は、今世紀を特徴づける知的混乱の中で、科学の基礎を明晰に解明するとともに、新しい社会発展のあり方に着実な指針を与えて、哲学の固有領域のみならず、広く自然科学から人文・社会科学にわたる第一線の科学者たちに多くの影響を与えてきたのである。

以上のような偉大な業績により、カール・ライムント・ポパー卿は、第8回京都賞精神科学・表現芸術部門の受賞者として最もふさわしい人である。

記念講演

記念講演要旨

気がついたら哲学者

私はこの講演の中で、私自身の教育とその後の学究的な生活について、順を追って説明していきたい。また、これに合わせて、私の成長に様々な影響を及ぼした書物や博識な知人との交流についても述べたい。

職業を選ぶに当たって、小学校の教師になろうと決心したが、後に中学校の教師になろうと考え直し、そのために、ウィーン大学で数学と物理学を専攻することになった。

私は哲学上の問題にも大いに興味をそそられたが、自分でそうした問題を解決できるなどとは思ってもみなかった。ダーウィンの進化論をはじめとする物理学上の問題の方にはるかに大きな関心を持っていたのである。教師になった後、現在のいわゆる科学哲学をテーマに扱った『The Logic of Scientific Discovery(科学的発見の論理)』を出版したのであるが、ヒットラーの侵攻で海外移住を考えなければならなくなった時に、この本のおかげで、それまでは夢にも思わなかった大学での研究の道が開けることになった。

私が科学の方法論の道に進んだきっかけは、マルクス主義を批判しようという試みからで、1919年の秋のことであった。社会主義または共産主義は「資本主義」を必ず打破しなければならないというマルクス理論の科学的地位に対する主張を分析しようという試みの中で、私は真の科学と疑似科学とを区別する基準は何かを自問することになった。このマルクス主義批判は、25年後に『The Open Society and its Enemies(開かれた社会とその敵)』という本となって実を結ぶことになるが、科学の方法論における問題は、私自身の哲学の中心的問題となり、結果として、他の多くの有益な問題へと導いてくれたのである。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

「開いた社会の哲学」

Philosophy of Open Society

日時
1992年11月12日(木)13:00-17:30
場所
国立京都国際会館

プログラム

企画委員: 長尾 龍一 精神科学・表現芸術部門専門委員会委員、 東京大学教養学部教授 
河上 倫逸 精神科学・表現芸術部門専門委員会委員、京都大学大学院法学研究科教授    
13:20
開会の辞 沢田 允茂 慶応大学名誉教授
挨拶 稲盛 和夫 稲盛財団理事長
業績紹介 碧海 純一 関東学院大学法学部教授
13:45
講演 カール・ライムント・ポパー 精神科学・表現芸術部門受賞者
「西洋文明の起源 -根源としての文学と科学-」
14:30
講演I 竹内 啓 精神科学・表現芸術部門専門委員会委員、東京大学先端科学技術研究センター教授
「開かれた社会の内なる敵」
14:50
講演II 神野 慧一郎 大阪市立大学文学部教授
「ポパーの批判的合理主義について」
15:20
質疑応答
15:40
休憩
16:00
講演III 高島 弘文 神戸学院大学人文学部教授
「知識の成長理論としてのポパー哲学」
16:30
講演IV 小河原 誠 鹿児島大学法文学部助教授
「開かれた社会と批判的合理主義」
17:00
質疑応答
17:20
閉会の辞 矢崎 光圀 大阪大学名誉教授
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