1990年基礎科学部門生物科学(進化・行動・生態・環境)
ジェーン・グドール  写真

ジェーン・グドール
(Jane Goodall)

  • イギリス / 1934年4月3日
  • 霊長類学者
  • ゴンベ・ストリーム研究センター 所長

野生チンパンジーの長期調査による行動及び社会、生態の解明

タンガニーカ湖北東岸のゴンベ国立公園で、30年間に及ぶ野生チンパンジーの調査により、その行動・社会・生態の詳細を明らかにした。人類のみに固有と考えられてきた行動や能力が、チンパンジーの社会にも見出しうることを実証し、従来の人間観に大きな衝撃を与え、人類進化に関する理論を一変させたばかりでなく、行動科学領域の理論構築にも影響を及ぼした。
[受賞当時の対象分野: 生物科学(行動・生態・環境)]

プロフィール

略歴

1934年
イギリス、ロンドンに生まれる
1952年
ロンドンの高等学校卒業
1962年
R.ハインド教授の指導のもと、生態学の博士号取得のためケンブリッジ大学で学ぶ
1965年
行動生態学で博士号取得
1967年
ゴンベ・ストリーム研究センター所長
1973年
ダルエスサラーム大学動物学客員教授

主な受賞と栄誉

1963年、1964年
フランクリン・バール賞
1970年
ケンブリッジ大学 ストット科学賞
1972年
アメリカ芸術・科学アカデミー 外国名誉会員
1974年
ボストン科学博物館 ブラッド・ウォッシュバーン賞
1980年
W. W. F. ゴールデンアーク勲章
1984年
W. W. F. J・ポール・ゲッティ野生生物保護賞

主な論文・著書

1973年

『チンパンジー地域社会における文化要素』Precultural Primate Behaviour所収(W. E. Menzel編)Vol. 1 Karger: Fourth IPC Symposia Proceedi

1977年

『野生チンパンジーの子殺しと共食い』Folia Primatologica所収

1979年

『ゴンベ国立公園のチンパンジー地域社会における集団間関係』The Great Apes.所収(D. A. Hamburg and E. R. McCown共編)Benjamin/Cummings. California

1983年

『ゴンベ国立公園の野生チンパンジーの1集団における15年間の個体群動態』Z. Tierpsychologie所収

1986年

『ゴンベのチンパンジー:行動の形態』Harvard University Press, Boston

贈賞理由

野生チンパンジーの長期調査による行動及び社会、生態の解明

ジェーン・グドール博士は、1960年にタンガニーカ湖北東岸のゴンベ国立公園で野生チンパンジーの調査に着手して以来、30年間に及ぶ長期調査によって、その行動・社会・生態の詳細を明らかにした。それは、道具の使用と製作、狩猟と肉食行動、食物の物乞いと分与、多彩な社会的調整行動、個体間の協調、子殺し、殺戮を含む集団間闘争等々、数々の驚異的な発見からなっている。人類のみに固有と考えられてきた行動や能力がチンパンジーの社会にも見いだしうることを、彼女は明確に実証したのである。

これらの新知見とともに、彼女の研究の真髄ともいうべき、母子の絆についての詳細な自然誌的追跡は、長い寿命をもつチンパンジーが極めて複雑な社会化の過程を必要とすることをみごとに描き上げたといってよい。それは、真のナチュラリストによってもたらすことのできた研究成果であり、生涯を賭けることによってはじめて可能であった独自の方法論であったという輝きをも放っている。

科学的視点に立って人間自体を見なおすことは、今後ますます必要とされるものであり、グドール博士の研究はこの研究分野の展開に、極めて重要でかつ新鮮な一石を投じたものといってよく、従来の人間観に大きな衝撃を与え、人類進化に関する理論を一変させたばかりでなく、行動科学領域の理論構築にも影響を及ぼした。

グドール博士はチンパンジーの研究のほかに、ブチハイエナやキイロヒヒについての優れた研究をも残しており、また、自然保護になみなみならぬ努力を注いできたことも高い評価に値する。

自然科学の理論的体系は、自然現象の克明な観察と実験に基づいた考察を基盤にして構築されるものであり、グドール博士は、長期間にわたる困難な環境下での野生チンパンジーについての研究成果を通じて、人間自体を見つめなおすという研究分野の展開に重要な基盤を与えたことで、京都賞基礎科学部門で受賞するに最もふさわしい存在であるといえる。

記念講演

記念講演要旨

チンパンジー―人と動物を結ぶ生きたかけ橋

チンパンジーは、地球上でもっとも魅力ある動物の仲間である。複雑な社会生活をいとなみ、各々の個体が独自の個性と履歴をもっている。家族の絆は生涯にわたって存続し、様々の知能的行動を示す。森林破壊がアフリカ全般におよぶのにともなって、チンパンジーは急速にその数を減らしている。食糧として狩猟の対象になり、子どもは売買のために捕獲されている。行きつく先は、生理学的にヒトにたいへん似ているという理由で、医学研究用の実験動物となってしまう場合も多い。行動、感情、知能の面におけるヒトとチンパンジーの類似のことも、われわれは忘れてはならない。

チンパンジーはわれわれ人類にたいへんよく似ているので、ヒトの自然界における位置をよりよく理解するための多くのヒントを与えてくれる。

チンパンジーは「ヒト」と「動物」をつなぐかけ橋とみなすことができるのである。しかし人類は特殊であり、われわれの知能はこの世界を破壊しかねないところまで技術を発達させてしまった。われわれにはもう希望はないのか。ないわけではないが、それは、全人類が力を合わせ、ひとりひとりが重要な役割を担っているのだとの認識があってのことである。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

人と動物をつなぐもの

Humanity's Bridge to Our Animal Heritage

日時
1990年10月25日(木)13:00-17:30
場所
国立京都国際会館

プログラム

13:00
挨拶 稲盛 和夫 稲盛財団理事長
挨拶 広中 平祐 基礎科学部門審査委員会委員長、ハーバード大学教授
座長 伊谷 純一郎 基礎科学部門審査委員会委員、京都大学名誉教授
西田 利貞 京都大学理学部教授
13:25
講演 ジェーン・グドール 基礎科学部門受賞者
「チンパンジーの本姓に見られる二面性」
14:10
質疑
14:20
講演 西田 利貞
「野生チンパンジーにおける子殺しと共食い」
14:50
講演 加納 隆至 京都大学霊長類研究所教授
「ボノボ(ピグミーチンパンジー)の集団間関係」
15:20
休憩
15:45
講演 ジョン・ミタニ ミシガン大学人類学部助教授
「野生チンパンジーの音声行動」
16:15
講演 トーマス・ミリケン WWF/野生動植物国際取引調査記録特別委員会日本事務局長
「霊長類の取引-動物園、研究所およびペットとしての利用について-」
16:45
総括討論
17:25
閉会
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