1987年基礎科学部門地球科学・宇宙科学
ヤン・ヘンドリック・オールト 写真

ヤン・ヘンドリック・オールト
(Jan Hendrik Oort)

  • オランダ / 1900年-1992年
  • 天文学者
  • ライデン大学 名誉教授

銀河の構造及びその力学的特性の解明による天文学への多大な貢献

水素原子の発する波長21cm電波スペクトル線の観測によって、銀河の構造と力学的特性を解明し、銀河回転の基本パラメーターの決定、および銀河の渦状構造の全貌と中心位置を明らかにした天文学、天体物理学の第一人者である。

プロフィール

略歴

1900年
オランダ・フラネカーに生まれる
1921年
フローニンゲン大学卒業
1921
フローニンゲン大学助手
1922
イエール大学天文台助手
1924
ライデン天文台観測員
1926年
フローニンゲン大学博士号取得
1935
ライデン大学天文学教授
1945
ライデン天文台天文台長
1958
国際天文学協会会長
1970年
ライデン大学名誉教授

主な受賞と栄誉

1942年
太平洋天文学会ブルース賞
1946年
英国王立天文学会金賞
1966年
コロンビア大学ヴェトルスン賞
1984年
バルザン賞

主な論文・著書

1928年

「太陽近傍での銀河系の動力学」

1941年

「銀河系の中心部の構造について」

1950年

「太陽系を取り巻く彗星雲の構造とその起源について」

1954年

「水素原子波長21cm電波観測から導かれる銀河系の渦状構造」(H. C. バン・デ・フルスト、C. A. ミューラーとの共著)

1956年

「かに星雲の偏光と組成」(Th. ワルラーフェンとの共著)

1966年

「高緯度・高速水素雲」

1981年

「準星の超銀河団内分布の徴候」

贈賞理由

銀河の構造及びその力学的特性の解明による天文学への多大な貢献

銀河の構造及びその力学的特性の解明による天文学への多大な貢献 ヤン・ヘンドリック・オールト博士は、1987年の京都賞(基礎科学部門)を、長年にわたる天文学および天体物理学への貢献、特に我が銀河の構造と力学的特性の解明によって受賞することになった。

博士は天の川が円盤状の回転する星系で、太陽はその中心から半径の約3分の2の距離に位置することを見いだした。1920年代の後半、博士は最初に星の速度の光学観測からこの構造を導き、1950年代に彼の弟子たちと共に水素の21cmの線の観測から構造を定量化した。銀河回転は「オールト定数」と呼ばれる二つのパラメーターで代表され、銀河円盤に垂直な運動は太陽近傍における質量面密度の最大許容値である「オールト極限」によって支配される。

天文学への重要な貢献の一つに電波天文学の開発がある。これらを用いて、我が銀河に落下する高速水素雲、銀河中心における膨張ガス、系外銀河の興味ある性質等を見いだした。また電波や光の観測に基づいて、銀河中心までの距離を導いた。

オールト博士は太陽系の研究においても有名である。1950年、太陽から10万天文単位の彼方に「オールト雲」と呼ばれる彗星の巣があり、近傍を通る星の擾乱を受けてその雲から彗星が供給されることを示した。

博士は超新星の研究にも功績があった。最も顕著な発見の一つに1054年の超新星の残骸である「かに星雲」の光の偏光がある。これによって、電磁放射は高速電子が磁場中で放射するシンクロトロン放射であるという理論的予言が証明された。

これらの研究を通じて、またライデン大学教授およびライデン天文台長として現在、世界に広く指導的役割を演じている多くの天文学者と天体物理学者を育てた。博士自身はそう思ってないかもしれないが、世界にはもっと多くの人々がオールト博士の弟子と自称している。世界中の天文学者と天体物理学者は、博士の科学的研究と研究活動の組織の恩恵を受けており、この年齢に至ってなお研究を続けている博士の情熱に深く敬服している。

博士の学問上の功績は、いくつかの国際的な賞、いくつかのアカデミーの会員、名誉博士号等によって広く認められている。

記念講演

記念講演要旨

地平線

われわれが子どものころに、“われわれの”地平線によって境界を設けられた世界を見ていたときから、その地平線という仕切りが約130億光年かなたの<ビックバン>にまでひろがった現代の、膨張している宇宙の時代にいたるまでの、われわれの世界観の発展についてお話しします。

地球外の世界の最初の科学的おモデルは、古代ギリシャ人たちが考えたものでした。このモデルは非常に精巧なもので、ほぼ2000年近くもわれわれの天文学的知識の基準となっていました。太陽系に最初に興味をもったのも、古代ギリシャ人たちでした。太陽系外の世界が観察できるようになったのは19世紀になってからで、技術的大進歩のおかげで大型の望遠鏡が開発されたからでした。太陽系外の研究理論の先駆者の一人がオランダ・フローニンゲン大学のJ.C.カプタインです。彼は自分の研究所で、われわれを取り巻く莫大な星の数に関するすべての研究を指導していました。

私と天文学との関わりは、このフローニンゲンで研究をはじめたときに始まりました。カプタインからの多くの学問的刺激の影響のもとで、私は銀河系研究の初期の段階に深くかかわっていったのです。

銀河系の研究においては、一つ特別な問題がありました。カプタインのいう<選択領域>の星を基本的な論点とする、いわゆるカプタイン・システムと、シャープレーによって提唱された球形のクラスターの分布を基礎とした理論モデルとが明らかに矛盾することでした。1925~27年にリンドプラッドとオールトによって銀河系の回転が発見去れた為、この論争は解決しました。ほんとうの銀河系は、カプタイン・システムともシャープレーの説とも違うということが証明されたわけです。この銀河系の回転の発見のおかげで、いくつかの積年の問題にも新たな考察が加えられました。1902年にカプタインに発見された<星の流れ>や、高速の星の動きなどはその結果の一例です。

新しい銀河系の主な特徴は、星々と、惑星間にあるガスとちりの雲とで、薄い円盤状になっていることでした。その星の円盤の大部分はちりで見えにくくされていたため、われわれの視界には入らなかったのです。それらは、電波天文学、つまり、ちりにじゃまされずにやってこれる電波の出現によって、はじめて観察できるようになったのです。銀河系の円盤の大規模な構造を表す電波地図は、1954年、オランダではじめて作成されました。それによってわれわれの銀河系は、宇宙にある多くの銀河系外の<星雲>と同じように、渦状の構造をしていることが証明されたのです。

これらの星雲、または<銀河系>はいまや、宇宙の構造と進化に関する研究対象の中心となっています。そしてすでに2つの大きな発見がなされています。1つは、宇宙は膨張しつつあるということで、約130億年前に小さな体積のものから膨張しはじめたに違いない、ということ。2つ目は、宇宙は等方的な放射に満たされていることです。その放射は、はるか昔には宇宙は非常に高温だったが、今は絶対零度の上の3度にまで冷えてしまったということを表し、その温度も実際に計測されています。

現在研究中の主な“実験的”課題は、銀河や銀河団、<超銀河集団>と呼ばれる巨大な構造がどのように形成され、進化してきたかということです。多くのことが、いまだに謎です。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

宇宙における構造の起源

Origin of Structure in the Universe

日時
1987年11月12日(木)10:30-17:00
場所
国立京都国際会館
司会:
佐藤 文隆 基礎科学部門委員会委員、京都大学理学部教授

プログラム

10:30
挨拶 稲盛 和夫 稲盛財団理事長
開会の辞 広中 平祐 基礎科学部門審査委員会委員長、京都大学数理解析研究所教授
10:40
業績紹介 高窪 啓弥 東北大学理学部教授
11:00
座長 林 忠四郎 京都大学名誉教授
講演 ヤン・ヘンドリック・オールト 基礎科学部門受賞者
「銀河の空間分布」
12:00
昼食
13:30
座長 小田 稔 宇宙科学研究所所長
講演 田中 靖郎 宇宙科学研究所教授
「X線でみた銀河核」
講演 奥田 治之 宇宙科学研究所教授
「赤外線で見た銀河中心」
14:30
座長 古在 由秀 東京天文台台長
講演 祖父江 義明 東京大学理学部助教授
「銀河中心の電波構造および活動と垂直銀河磁場」
講演 松本 俊雄 名古屋大学理学部助教授
「宇宙背景放射」
15:30
休憩
15:45
座長 成相 秀一 広島大学名誉教授
講演 杉本 大一郎 東京大学教養学部教授
「球状星団の力学」
講演 池内 了 東京天文台助教授
「ライマン・アルファー・フォーレストの起源と銀河形成」
17:00
閉会の辞 川口 市郎 基礎科学部門専門委員会委員
京都大学名誉教授
【関連情報】
記念講演録(PDF)
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