2001年先端技術部門エレクトロニクス
林 厳雄 写真

林 厳雄
(Izuo Hayashi)

  • 日本 / 1922年-2005年
  • 応用物理学者
  • 日本工学アカデミー 会員

半導体レーザーの室温連続動作達成による光エレクトロニクス発展への先駆的貢献

室温環境での半導体レーザーの連続レーザー発振動作を達成し、世界的なIT革命を支える情報インフラ構築に不可欠な役割を担うデバイスの実用化への道を拓き、今日の光エレクトロニクスの発展に先駆的な貢献をした。

プロフィール

略歴

1922年
東京に生まれる
1946年
東京大学理学部物理学科卒業
1955年
東京大学原子核研究所助教授
1962年
理学博士,東京大学
1963年
MIT研究員
1964年
ベル電話研究所研究員
1971年
日本電気中央研究所フェロー
1982年
通産省・光技術共同研究所 首席特別研究員
1987年
光技術研究開発株式会社 つくば研究所 所長
1994年
同顧問
1996年
同退職

主な受賞と栄誉

1946年
藤原賞
1975年
電気通信学会賞
1976年
IEEEフェロー
1984年
GaAsシンポジウム賞
1984年
IEEE Electron Device(J. J. Ebers)賞
1986年
朝日賞
1986年
C&C賞(Panish氏と)
1988年
IEEE David Sarnoff賞
1993年
The Marconi Fellowship賞
2001年
応用物理学会 業績賞

主な論文

1968年

Effect of Band Shapes on Carrier Distribution at High Temperature. IEEE J. Quantum Electronics QE-4 (4)., 1968

1969年

A Low Threshold Room-Temperature Injection Laser. IEEE J. Quantum Electron, QE-5 (4). (with M. B. Panish and P. W. Foy), 1969

1970年

Double Heterostructure Injection Lasers with Room-Temperature Thresholds as low as 2300 A/cm2. Appl. Phys. Lett. 16 (8). (with M. B. Panish and S. Sumski), 1970

1970年

Junction Lasers Which Operate Continuously at Room-Temperature. Appl. Phys. Lett. 17 (3). (with M. B. Panish and others), 1970

1971年

GaAs-AlGaAs Double Heterostructure Injection Lasers. J. Appl. Phys. 42 (5). (with M. B. Panish and F. K. Reinhart), 1971

贈賞理由

半導体レーザーの室温連続動作達成による光エレクトロニクス発展への先駆的貢献

アルフェロフ博士ならびに林博士とパニッシュ博士は、1970年に、それまではきわめて困難であった半導体レーザの室温環境における連続動作を達成した。この成果は、その後の半導体レーザ実用化への道を拓き、今日の世界的なIT革命を支える情報インフラ構築に不可欠な役割を担うことになった光エレクトロニクスの発展に先駆的な貢献をした。

1962年に誕生した最初の半導体レーザはホモ接合のガリウム・ヒ素(GaAs)レーザで、液体窒素中でレーザ発振に成功したものの、レーザ発振に必要な最低電流密度である「しきい値」がきわめて高かったためにパルス動作に限られて実用化をはばんでいた。その後、光を導波路中に閉じ込める様々な努力、ストライプ状の電極にする方法、アルミニウム・ガリウム・ヒ素(AlGaAs)とガリウム・ヒ素のヘテロ構造の導入などいろいろな試みがなされたが、いくつもの技術上の壁が立ちはだかり、室温連続動作には至らなかった。このような状況の中、1970年、アルフェロフ博士がロシア(旧ソビエト)で、林博士とパニッシュ博士がアメリカで、ほぼ同時期に半導体レーザの室温連続動作に成功した。3氏が開発した半導体レーザの特徴は、光を放出するための薄膜状のガリウム・ヒ素活性層の両側をアルミニウム・ガリウム・ヒ素結晶層ではさむ二重へテロ構造により、発振しきい値電流密度を飛躍的に低減させたところにある。

この画期的な成果が基になって、その後有力な諸研究が活発になされ、半導体レーザの実用化への道が拓かれた。そして、半導体レーザを用いた様々な新しい技術が生み出され、その結果、光エレクトロニクスの分野が急速に発展し、世界の社会構造と産業構造に大きな変革をもたらしたのである。

今や半導体レーザの応用は、情報化社会を実現させる原動力となったインターネットで世界を結ぶ光ファイバー通信のみならず、CD(コンパクトディスク)やビデオディスクに代表される光記録、コンピュータのメモリ、レーザプリンタなどの情報処理、さらにディジタル出版のようなメディアの分野にも広がっている。

このような革新的な技術開発の原点になったのは、3氏によるアルミニウム・ガリウム・ヒ素系二重へテロ構造レーザによる室温連続動作であり、この達成なくして現在の光エレクトロニクスの隆盛はあり得なかったと言っても過言ではない。

よってアルフェロフ博士、林博士、パニッシュ博士に先端技術部門における2001年京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

半世紀の研究遍歴―応用物理を世に役立てる―

基礎医学者の四男として1922年、東京に生まれました。生来サイエンス的思考を持っていたらしく、科学者である父の話を好んで聞き、今も印象に残っていることがたくさんあります。小、中学、高校と学習院に学び、東京大学理学部に進む頃には、第二次世界大戦の末期に近く、空襲の中で米国のレーダー測定からマイクロ波を学んだことでした。これが光との一生のつき合いのきっかけとなるのです。

それから50年、ほぼ10年ごとに内外の研究機関を転々と渡り歩きました。初めの20年は東大の原子核関係の研究所で、自分の担当した仕事は、マイクロ波と同じ原理の大きなサイクロトロン発振器でした。ここで測定用エレクトロニクスの整備などに携わる中、発達している米国のエレクトロニクスをこの目で見たいとの願望から米国行きを決意しました。この渡航は生涯における大きなジャンプになりました。米国内で2回の移籍の後、1966年、ベル研究所内でリサーチ部門のゴールト(J. K. Galt)部長と会い、半導体レーザーの研究を…という予期せぬ言葉をかけられました。ここで自分の後半生の幕が切って落とされました。

東京大学の職を辞してベル研究所の正式研究員となりました。

それまで不可能とされてきた―室温で働くレーザーができれば通信技術に絶大なインパクトを与える―とのゴールト部長の言葉に、パニッシュ(Morton B. Panish)と2人で研究をスタート。暗中模索の中、彼のつくった結晶の中から理想的なヘテロ接合を発見、これを手がかりにレーザーの室温発振を達成したのが1970年6月1日でした。

これを機に再び日本に帰ることにしてNEC研究所に籍を置き、レーザーの実用化に没頭しました。先の見えない難関に、信念を持って進むだけでした。若い研究者の執念から、ついに解決の道が開けました。長期にわたる努力によって、光通信からコンパクトディスクに至る各種の光応用装置が開発されたのです(1970年代から80年前半)。光の応用はこれで終わりか否、本命はこれからです。光と電子の融合的複合装置として発展すると信じます。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

半導体レーザ ―連続動作と将来への発展―

Semiconductor Laser - Continuous Operation and Progress for the Future -

日時
2001年11月12日(月)13:00
場所
国立京都国際会館
企画・司会
伊賀 健一[(専門委員会 委員)日本学術振興会 理事]
主催
財団法人 稲盛財団
後援
京都府、京都市、NHK
協賛
電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ、応用物理学会、IEEE/LEOS日本チャプタ、光産業技術振興協会、日本学術振興会

プログラム

13:00
開会 伊賀 健一
挨拶 稲盛 豊実 [稲盛財団 常務理事]
挨拶 末松 安晴[(審査委員会 委員長)国立情報学研究所 所長
受賞者講演 林 厳雄 - 先端技術部門 受賞者
「半導体レーザーの室温連続発振の成功と実用化の難関」
受賞者講演 モートン・B・パニッシュ - 先端技術部門 受賞者
「超格子のX線特性評価と量子井戸におけるサブバンド間遷移を用いるデバイス」
受賞者講演 ジョレス・イワノヴィッチ・アルフェロフ - 先端技術部門 受賞者
「ダブルへテロ構造レーザ ―過去・現在・未来―」
休憩
パネル討論 司会:中村 道治[(専門委員会 委員長) 株式会社日立製作所 常務 研究開発本部 本部長]、伊賀 健一
パネラー:ジョレス・イワノヴィッチ・アルフェロフ、林 厳雄、モートン・B・パニッシュ、末松 安晴、赤崎 勇[名城大学 理工学研究科 ハイテク・リサーチセンター 教授]、池上 徹彦[(審査委員会 委員) 会津大学 学長]
17:30
閉会 伊賀 健一
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