Izuo Hayashi

第17回(2001)受賞

先端技術部門

エレクトロニクス

林 厳雄

/  応用物理学者

1922 - 2005

日本工学アカデミー 会員

記念講演会

半世紀の研究遍歴—応用物理を世に役立てる

2001年

11 /11

会場:国立京都国際会館

ワークショップ

半導体レーザ ―連続動作と将来への発展―

2001年

11 /12

13:00~17:30

会場:国立京都国際会館

業績ダイジェスト

光エレクトロニクスにおける先駆的貢献としての半導体レーザの室温連続動作達成

室温環境での半導体レーザの連続レーザ発振動作を達成し、世界的なIT革命を支える情報インフラ構築に不可欠な役割を担うデバイスの実用化への道を拓き、今日の光エレクトロニクスの発展に先駆的な貢献をした。

贈賞理由

アルフェロフ博士ならびに林博士とパニッシュ博士は、1970年に、それまではきわめて困難であった半導体レーザの室温環境における連続動作を達成した。この成果は、その後の半導体レーザ実用化への道を拓き、今日の世界的なIT革命を支える情報インフラ構築に不可欠な役割を担うことになった光エレクトロニクスの発展に先駆的な貢献をした。

1962年に誕生した最初の半導体レーザはホモ接合のガリウム・ヒ素(GaAs)レーザで、液体窒素中でレーザ発振に成功したものの、レーザ発振に必要な最低電流密度である「しきい値」がきわめて高かったためにパルス動作に限られて実用化をはばんでいた。その後、光を導波路中に閉じ込める様々な努力、ストライプ状の電極にする方法、アルミニウム・ガリウム・ヒ素(AlGaAs)とガリウム・ヒ素のヘテロ構造の導入などいろいろな試みがなされたが、いくつもの技術上の壁が立ちはだかり、室温連続動作には至らなかった。このような状況の中、1970年、アルフェロフ博士がロシア(旧ソビエト)で、林博士とパニッシュ博士がアメリカで、ほぼ同時期に半導体レーザの室温連続動作に成功した。3氏が開発した半導体レーザの特徴は、光を放出するための薄膜状のガリウム・ヒ素活性層の両側をアルミニウム・ガリウム・ヒ素結晶層ではさむ二重へテロ構造により、発振しきい値電流密度を飛躍的に低減させたところにある。

この画期的な成果が基になって、その後有力な諸研究が活発になされ、半導体レーザの実用化への道が拓かれた。そして、半導体レーザを用いた様々な新しい技術が生み出され、その結果、光エレクトロニクスの分野が急速に発展し、世界の社会構造と産業構造に大きな変革をもたらしたのである。

今や半導体レーザの応用は、情報化社会を実現させる原動力となったインターネットで世界を結ぶ光ファイバー通信のみならず、CD(コンパクトディスク)やビデオディスクに代表される光記録、コンピュータのメモリ、レーザプリンタなどの情報処理、さらにディジタル出版のようなメディアの分野にも広がっている。

このような革新的な技術開発の原点になったのは、3氏によるアルミニウム・ガリウム・ヒ素系二重へテロ構造レーザによる室温連続動作であり、この達成なくして現在の光エレクトロニクスの隆盛はあり得なかったと言っても過言ではない。

よってアルフェロフ博士、林博士、パニッシュ博士に先端技術部門における2001年京都賞を贈呈する。

プロフィール

略歴
1922年
東京に生まれる
1946年
東京大学理学部物理学科卒業
1955年
東京大学原子核研究所助教授
1962年
理学博士,東京大学
1963年
MIT研究員
1964年
ベル電話研究所研究員
1971年
日本電気中央研究所フェロー
1982年
通産省・光技術共同研究所 首席特別研究員
1987年
光技術研究開発株式会社 つくば研究所 所長
1994年
同顧問
1996年
同退職
主な受賞・栄誉
1946年
藤原賞
1975年
電気通信学会賞
1976年
IEEEフェロー
1984年
GaAsシンポジウム賞
1984年
IEEE Electron Device(J. J. Ebers)賞
1986年
朝日賞
1986年
C&C賞(Panish氏と)
1988年
IEEE David Sarnoff賞
1993年
The Marconi Fellowship賞
2001年
応用物理学会 業績賞
主な論文
1968年
Effect of Band Shapes on Carrier Distribution at High Temperature. IEEE J. Quantum Electronics QE-4 (4)., 1968
1969年
A Low Threshold Room-Temperature Injection Laser. IEEE J. Quantum Electron, QE-5 (4). (with M. B. Panish and P. W. Foy), 1969
1970年
Double Heterostructure Injection Lasers with Room-Temperature Thresholds as low as 2300 A/cm2. Appl. Phys. Lett. 16 (8). (with M. B. Panish and S. Sumski), 1970
1970年
Junction Lasers Which Operate Continuously at Room-Temperature. Appl. Phys. Lett. 17 (3). (with M. B. Panish and others), 1970
1971年
GaAs-AlGaAs Double Heterostructure Injection Lasers. J. Appl. Phys. 42 (5). (with M. B. Panish and F. K. Reinhart), 1971

プロフィールは受賞時のものです