1989年基礎科学部門数理科学(純粋数学を含む)
イズライル・モイセーヴィッチ・ゲルファント 写真

イズライル・モイセーヴィッチ・ゲルファント
(Izrail Moiseevich Gelfand)

  • ソビエト / 1913年-2009年
  • 数学者
  • モスクワ大学 教授

関数解析学における先駆的研究をはじめとする数理科学諸分野への多大な貢献

数理科学、とりわけ今世紀に飛躍的発展を遂げ、数学の様々な側面のみならず量子力学や素粒子論などの物理学に不可欠な数学的概念の供給源となった関数解析学の分野において、長期的展望に立つ先駆的研究を行い、創造性溢れる研究途上で多くの俊秀を育成するなど、数理科学の発展に多大な貢献をした現代最高峰の数学者である。

プロフィール

略歴

1913年
ソビエト、黒海北部のオデッサに生まれる
1932年
モスクワ大学研究生となり、コルモゴロフ教授の指導を受ける
1935年
モスクワ大学 助教授
1938年
博士号取得
1943年
モスクワ大学 教授
1968年
モスクワ数学会 会長

主な受賞と栄誉

1963年
赤旗勲章(2回)
1973年
レーニン勲章(3回)
1978年
ウルフ賞(数学部門)
会員:
ソビエト科学アカデミー、アメリカ科学アカデミー、アメリカ芸術科学アカデミー、スウェーデン王立科学アカデミー、王立アイルランドアカデミー、王立協会(英国)、フランス科学アカデミー、日本学士院(1988年)
名誉博士号:
オックスフォード大学、ハーバード大学、パリ大学、ウプサラ大学、ピサ大学、京都大学(1989年)各

主な論文・著書

1938年

『抽象的関数と線形作用素』

1941年

『ノルム環』

1943年

『局所コンパクト群の既約ユニタリ表現』(D・A・Rajkovと共著)

1958-1966年

『超関数』全6巻(G・E・Shilov他と共著)

1987-1989年

『論文選集』全3巻

贈賞理由

関数解析学における先駆的研究をはじめとする数理科学諸分野への多大な貢献

ゲルファント博士は、数理科学、とりわけ関数解析学の分野において、長期的展望に立つ先駆的研究を行うとともに広範な領域に及び数々の顕著な成果を挙げ、数理科学の発展に大きく貢献した。また、創造性溢れる研究途上で、教育や共同研究を通じて多くの優秀な研究者を育成し、学界の発展に多大の貢献をなした。

関数解析学は、関数のなす無限次元空間を解析的かつ代数的に取り扱う数学の分野であるが、今世紀に飛躍的発展を遂げた数理科学の中でもとりわけ著しい発展を遂げ、数学の様々な側面に大きな影響を及ぼしたのみならず、量子力学や素粒子論等の物理学に不可欠な数学的概念の供給源となった。この飛躍的発展の原動力となったのがゲルファント博士の諸研究である。

可換ノルム環に関する1983年の学位論文やヒルベルト空間の自己線形作用素環となる非可換位相環の研究は、関数解析学のその後の発展を決定づけた基本的成果であり、代数幾何学等の発展にも影響を及ぼし、物理学おける基本的手法をも提供した。

自然界の対称性を記述する群は、数学や物理学における基本的な研究対象である。群のユニタリー表現に関する博士の諸研究も関数解析学における輝かしい成果である。教授の研究対象は、局所コンパクト群、半単純リー群、さらには無限次元群にまで及び、表現論や物理学の発展に重大な寄与をしたのみならず、数論や幾何学の発展にも多大な影響を及ぼした。

また数名の共同研究者とともに著した超関数論全6巻は、微分方程式論、表現論、等質空間論、積分幾何学、保型関数論、確率過程論等をも含む有機的結合体であり、様々な分野の研究者にとって知識の宝庫となっている。

460編以上の論文や著書に発表された博士の業績はこの他にも、逆スペクトル理論、楕円型作用素の指数と位相不変性、等質空間上の測地流、無限次元リー環のコホモロジー、等質空間上の微分作用素、積分幾何学、組合わせ幾何学、数値解析等に関する重要な研究成果を含み、教授の研究領域の広さはまさに驚異的である。

博士は、その鋭い洞察力によって数理科学の諸分野の間に予想外の相互関係を発見し、まったく新しい研究の展望を提供した。

また、博士が40年以上にわたってモスクワ大学で主催しているセミナーは、非常に創造性に溢れ、多くのそうそうたる数学者を輩出している。

博士は現在もなお超幾何関数等の独創的研究を続行中であり、その豊かな発想と鋭い洞察力は、数理科学全般の発展に今後とも計り知れない影響力を持ち続けるものと期待されている。

記念講演

記念講演要旨

人類の心理学における二つの原型

1.この講演は、純粋数学と応用数学、神経生理学、細胞生物学、サイバネティックスにおける私の研究活動の経験に基づいております。

私が第一に注意しましたのは、科学、統計学、科学技術の多くの分野において極めて有用である古典数学が、生物学、医学、心理学等の多くの分野では役に立たない、ということであります。このような事柄について考える内に、これには深い理由があり、従って私たちはもっと広い視点からこれらの問題を考察しなければならない、ということに気付きました。この思索の最終段階はきつい研究が3ヶ月以上続きましたが、稲盛財団が私にそうするための機会と契機を与えて下さったことに深く感謝致しております。また、私は、稲盛財団の目的にかなうと思われる結論に到達したことを非常に喜んでおります。

2.私はこの講演の中で、人類にその始原から組み込まれた2つのアーキタイプがあるということ、そしてこれらの2つのアーキタイプ間の対立によって生じる二現性があるということを説明したいと思います。

第一のアーキタイプでは、人類は生物の進化における高度な達成-「創造の最高の栄誉」-と見なされます。この概念は、広く知られており、また科学技術、生物学、物理学などの目ざましい成功により具現しつつあります。

第二のアーキタイプでは、人類はあらゆる生命ある自然の一部であり、それから切り離すことは出来ません。たとえ出来たとしても、一時的で、そのような分離の限界を認識するだけになります。おそらく、これが才気【cleverness】と英知【wisdom】の違いをなすポイントになるのでしょう。私達は生命体についてほとんど知らないので、たとえそれが遺伝情報のように非常に優れたものであっても、個々の知識の断片から全体像を理解することは絶望的です。

一見、二元性は普遍的ではなく、例えば数学は第一のアーキタイプとのみ関係しているように見えます。しかし、私は、数学は明らかにまた第二のアーキタイプにも属していると思います。

3.現代世界の主な特徴の一つは、その極端な全世界化と、この全世界化によって引き起こされる諸問題が世界へ蔓延することだと思われます。実際、あらゆる現代のコミュニケーション手段(自動車、飛行機、遠距離通信)は、世界を相互に強く影響を及ぼし合う一つの結合したシステムに変えています。しかし、人間性の精神面にとってもそうであるとは言えません。ですから生命の論理的、科学技術的な面(第一のアーキタイプ)と精神的な面(第二のアーキタイプ)との間に大きな不均衡があるのです。

講演では、この不均衡によって起こる、人類にとって非常に重大な問題のいくつかに注目したいと思います。

4.「適切な言語」を創り出す必要性があるのには、二つの基本的な理由があります。  一つは、全世界化は異なった伝統、文化等を持つ世界の様々な地域が相互に作用(コミュニケート)する必要性を引き起こします。そして私の言う適切な言語がなければ、誤解が生じ、危険な状態になるからです。

もう一つの理由は、このいわば対立は世界の異なった地域間にのみあるのではなく、二つのアーキタイプ自体の間にもあるのです。もし言語が適切でなかったら、第一のアーキタイプの方がより大きな能力を持っているため、第二のアーキタイプは抑圧されてしまうでしょう。

もちろん、いかなる適切な言語であっても、人類の両面であるこれらのアーキタイプを統一することは出来ませんが、少なくとも相互に作用させる可能性があります。こういった適切な言語という概念を少しお話させていただきます。

5.20世紀の数学にとって、「構造」という概念は非常に重要です。私は、この概念は適切な言語を創るために有効であろうと思います。この構造の基本的な構成要素を構造単位と呼びましょう。この構造単位は三つの条件をそなえていなければなりません。

1)構造単位の内部構造は、これが外界と相互作用する形態よりも遙かに複雑であること;

2)構造単位の部分は、一つの構造単位ではないこと;

3)a.減退の法則:たとえば進化の過程で見られるように、構造単位の機能しない部分は除去されること;

3)b.過剰の法則:構造単位の機能しない部分は、その構造単位の中で仕事を見つけようとすること;

生物学や社会学などにおいて、1、2、3aのタイプと、1、2、3bタイプの興味深い例が数多くあります。

6.講演の最後に、社会に対する数学者の責任について意見を述べ、その後、数学におけるいくつかの新しい方向についてコメントしようと思います。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

数学-絶えざる心理と美の追求

Mathematics - the Incessant Search after New Truth and Beauty

日時
1989年11月12日
場所
国立京都国際会館
司会
砂田 利一 基礎科学部門専門委員会委員、名古屋大学理学部教授

プログラム

13:00
開会の辞 小田 忠雄 基礎科学部門
13:15
講演 イズライル・モイセーヴィッチ・ゲルファント 基礎科学部門受賞者
「A-判別式とその量子化」
14:00
講演 齋藤 恭司 基礎科学部門専門委員会委員、京都大学数理解析研究所教授
14:50
休憩
15:10
講演 大島 利雄 東京大学理学部教授
「半単純対象空間上の調和解析」
16:00
講演 青本 和彦 名古屋大学理学部教授
「ホロノミックスな線形q差分系における接続問題」
16:50
質疑応答
17:15
閉会
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