1997年思想・芸術部門音楽
イアニス・クセナキス 写真

イアニス・クセナキス
(Iannis Xenakis)

  • フランス / 1922年-2001年
  • 作曲家

音楽を音という分子の集合として統計的処理の対象と捉えユニークな音響を創出した作曲家

音楽を一つの物理的音響現象として数学的に捉える創造技法を確立し、一貫してコンピュータを駆使した創作により、第1作《メタスタシス》から《アトレ》などの代表作を通じ、ヨーロッパの枠組みから解き放たれた人間的・精神的宇宙を豊かに構築した。音楽史の中にあって全く新しい世界を開示した20世紀音楽の巨人。
[受賞当時の部門: 精神科学・表現芸術部門]

プロフィール

略歴

1922年
ルーマニア、ブライラに生まれる
1932年
両親とともにギリシャに戻る
1940年
アテネ工科大学で建築・数学を学ぶが戦争が勃発、反ナチの地下運動に参加
1947年
パリに亡命
1948-1959年
ル・コルビュジエのもとで建築に従事、この間、音楽を学ぶため、オネゲル、ミヨー、メシアンに師事
1955年
作曲家として「メタスタシス」でデビュー以降活発な作曲活動を展開
1965年
フランスに帰化
1965年
数学と自動音楽センター「EMAMu」を設立(1972年CEMAMuに改編)

主な受賞と栄誉

1965年,68年,70年,77年
フランス・レコード・アカデミー大賞
1977年
オランダ・エジソン現代音楽最優秀レコード賞
1982年
レジオン・ドヌール5等勲章
1985年
フランス国家名誉賞
1991年
レジオン・ドヌール4等勲章
アメリカ文芸アカデミー名誉会員
ヨーロッパ文芸・科学アカデミー会員
ソルボンヌ大学名誉教授

主な作品・著書

1953-1954年

メタスタシス

1955-1956年

ピソプラクタ

1956-1962年

ST/4,10,48

1967-1968年

ノモス・ガンマ

1973年

エヴァリアリ

1986年

ホロス

1963年

Musiques formelles, 1963.(英訳Formalized Music, 1971.)

1975年

Musique-Architecture, 1975.(高橋悠治訳『音楽と建築』 全音楽譜出版社 1975年)

贈賞理由

音楽を音という分子の集合として統計的処理の対象と捉えユニークな音響を創出した作曲家

イアニス・クセナキス氏は、音楽を物理的音響現象として数学的に捉える立場に立ち、コンピュータを駆使する独自の創作技法を用いて活動を続け、20世紀音楽史の中にあって独自の世界を開示した作曲家である。

クセナキス氏は、当初音楽の勉学のかたわら、建築学と数学を修得、フランスに亡命後はオネゲル、ミヨー、メシアン(第1回京都賞受賞者)に学び、音楽の新しい表現方法を探求した。クセナキス氏のデビュー作《メタスタシス》は、建築設計上の発想にヒントを得て大量のグリッサンド群が交錯するダイナミックな展開を行うもので、初演されたドナウエッシンゲン音楽祭で一躍注目を浴びることとなった。続く《ピソプラクタ》ではストカスティック(確率統計学、ST)と呼ばれる数学理論を導入した。

氏の基本的な思考は、音楽とは音という分子が集合して形成される雲状の音響形態の変化の過程である、とするものである。従ってストカスティックとは、多量の音を扱う際に、音の諸パラメータの分布状況を数理的に決定していくもので、多くの場合、自然現象を公理化した公式が用いられている。コンピュータで演算を行ったSTシリーズ《アトレ》《モルシマ-アモルシマ》など一連の作品は、この領域での先駆的な業績とされている。1965年には「数学の自動音楽センター(EMAMu)」を設立し、音楽の新たな方向付けを行っている。

クセナキス氏は音楽的時間論が主流であった時期に、「音楽的空間」という物理的空間と、「時間外構造の音楽」という考えに着目した最初の作曲家でもあった。特に時間外構造の概念は、ヨーロッパ音楽の伝統である時間内音楽とは違った更に肥沃な音楽の世界を準備するものとされるが、その意味で、氏は非ヨーロッパ的な哲学をヨーロッパ音楽に導入したものといえる。

そのような確固たる哲学的思惟があればこそ、クセナキス氏は戦後の前衛音楽のさまざまな流行に乗ることなく、また70年代半ばから始まったポストモダン、新ロマン主義にも独自の道を歩み続けた。氏の音楽はその数学的方法論にも拘わらず、豊かで強い人間的感触と感動を与えるものとして評価されており、またその素朴な人柄も親しまれている。よって、クセナキス氏に精神科学・表現芸術部門の第13回京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

我が道

(1)日本への賛辞

日本の都市、国民、伝統文化、現在の文化に対する賛辞

(2)問いかけのモザイク

私が芸術の道を選択するに至った経緯 -統一空間の階層化から見た説明-
行動と知識をもたらす各基準の定義
芸術:部分的に推論的なもの
数学・自然科学:完全に推論的なもの
実験による実証を必要とする数学・自然科学と、実証不可能な美的価値を含む芸術の領域

(3)経歴

私の知的、芸術的発展における各段階
ギリシャの全寮制私立学校での子供時代
ギリシャの古典と天文学との出会い  ギリシャ内戦
アテネ工科大学での勉学
第二次世界大戦
共産党入党と街頭デモ
フランスへの亡命
建築家ル・コルビュジエとの共同作業

(4)ギリシャ音楽とヨーロッパの前衛音楽

伝統的なギリシャ音楽とヨーロッパの前衛音楽を融和させようという最初の作曲上の試み
全ての音楽を音のシグナル、メッセージとして理解すること

(5)推計音楽

「推計音楽」の構想と確率計算の作曲への応用(メタスタシス:1953~54年;ヒトプラクタ:1954~55年)
直線的なポリフォニーの限界から脱出し、ミクロおよびマクロの作曲に、音群、および一般的な確率を取り入れ、また、発展させるため、組み合わせた計算法を開発したこと(アホリフシス:1956~57年)
最初のコンピュータ・プログラム「ST」の開発と実現(ST10:1956~62年)

(6)形成化された音楽

私が実践している作曲方法を理論化し、「形成化された音楽」として1963年に出版。1992年改訂・増販。
「時間内」と「時間外」の構造の区別
「時間」とは何か、「時間」の定義
群理論の発展(ノモス・アルファ:1956~66年)

(7)ポリトープ

1970年代における音楽と建築を融合させる新たな方法の開発(クリュニー等)

(8)樹枝状態

上記の関心事と平行して、しかし、それらとは無関係に発展した「樹枝状態」という新たな概念について(エリフソン:1974年)

(9)ユーピック

1970年代半ばから、数学自動音楽センター(CEMAMu)において開発したユーピック(UPIC)システムと、その後研究を続けたミクロサウンド合成について(ミシーネス・アルファ:1978年)その後の、ダイナミックな推計音楽合成のためのGENDYNプログラム開発

(10)ふるいの理論

1970年代後半、全音楽のパラメーターにおける音階の問題を解決するため編み出された「ふるいの理論」について(ヨンカイエス:1977年;プレアデス:1978年)

(11)最近の心境

新しい理論を持たない現在の心境は、大いなる自由の境地であり、新たな独創性の始まりであること

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

クセナキス イン 京都

Workshop: Xenakis in Kyoto

日時
1997年11月12日(水)
場所
国立京都国際会館
企画・進行:
佐野 光司 [専門委員会委員]桐朋学園大学音楽学部教授

プログラム

13:00
開会 佐野 光司
13:05
挨拶 稲盛 豊実 稲盛財団常務理事
13:10
業績紹介 佐野 光司
13:20
受賞者紹介 高橋 悠治 作曲家
「師クセナキスから学んだこと」
13:40
記念講演 イアニス・クセナキス 精神科学・表現芸術部門受賞者
「音楽・建築」
14:40
15:10
シンポジウム 「20世紀におけるクセナキス」
司会: 武田 明倫 [専門委員会委員]武蔵野音楽大学教授
16:30
演奏 曲目
弦楽四重奏のための《ST/40》(1956・62)
ピアノ独奏のための《ミスツ》(1981)
弦楽四重奏のための《テトラ》(1990)
打楽器独奏のための《プサッファ》(1975)
出演
打楽器 吉原 すみれ
ピアノ 矢沢 朋子
アルベリ弦楽四重奏団
17:30
閉会
PAGETOP