Hiroo Inokuchi

第23回(2007)受賞

先端技術部門

材料科学

井口 洋夫

/  化学者

1927 - 2014

東京大学名誉教授/自然科学研究機構 分子科学研究所名誉教授

記念講演会

私の化学研究の旅路—人から学び、物に学ぶ—

2007年

11 /11

会場:国立京都国際会館

ワークショップ

有機半導体・伝導体の新たな展開

2007年

11 /12

13:00~17:10

会場:国立京都国際会館

業績ダイジェスト

有機分子エレクトロニクスへの先駆的・根幹的貢献

複数のベンゼン環を含む有機分子間の電気伝導に関する研究を先駆的に進め、有機物質の電気伝導性に関する科学の礎を築いた。また、多種の有機物質の光電子分光計測を先導的に進め、電子構造を系統的に明らかにした。これらの研究により、有機物質の電子的な研究に必須の学術基盤を築き、その後の有機分子エレクトロニクスの発展に根幹的な貢献を果した。

贈賞理由

井口洋夫博士は、1940年代後半から複数のベンゼン環を含む有機分子に着目し、分子間の電気伝導に関する先駆的な研究を進め、これが半導体的な性質を示すことを初めて見出した。さらに、有機分子群に電子受容性物質を加えると、電気伝導率が飛躍的に高まり、有機の伝導体となることを発見し、有機物質の電気伝導性に関する科学の礎を築いた。さらに、井口博士は、多種の有機物質を対象に光電子分光計測を先導的に進め、それらの電子構造を系統的に明らかにした。井口博士は、これら一連の研究により、有機物質の電子的な性質や機能を理解し活用する上で必須の学術基盤を築き、有機分子エレクトロニクスのその後の発展に根幹的な貢献を果した。

井口博士は、1950年前後に、赤松秀雄博士と共同でベンゼン環を9個含む有機物であるビオラントロン分子間の電気伝導特性を体系的に調べる先駆的研究を行い、この有機物質が、無機物質と同様に、半導体的な伝導性を持つことを見出した。さらに、ペリレンなどの有機物質に臭素やヨウ素などの電子受容性物質を添加すると、2成分の間で電子が移動し、電荷密度の高い電荷移動錯体が形成されて、電気伝導率が桁違いに高まることを、赤松博士と松永義夫博士と共同で発見した。これらの先駆的研究が契機となり、その後半世紀にわたって導電性有機物質に関する科学が著しく進展し、それを利用する新たな技術体系の基盤も確立された。さらに、井口博士は、有機物質の電子構造を解明するために光電子分光の研究を系統的に進め、多くの有機物質に関し、そのイオン化エネルギーなどを決定した。この研究で得られた電子構造に関する系統的な知見は、その後に有機発光素子(EL素子)などを設計・実現する上でも重要な役割を果している。

これら井口博士の先駆的研究は、その後半世紀にわたり著しく発展してきた導電性有機物質に関する科学の礎となった。また、有機物質の電子的機能を活用する技術の誕生と発展の基盤ともなり、有機EL素子や有機トランジスタへの応用など有機分子エレクトロニクスの確立に根幹的な貢献をなした。さらに、井口博士は、有機分子の科学と技術の分野において優れた人材と研究グループを育て、電子機能性有機物質の世界的研究拠点を築き、国際的な学術交流にも大きく貢献している。

以上の理由によって、井口洋夫博士に先端技術部門における第23回(2007)京都賞を贈呈する。

プロフィール

略歴
1927年
広島市生まれ
1950年
東京大学 理学部 助手 (1955-1957年 ノッティンガム大学 ラムゼーフェロー)
1956年
東京大学 理学博士
1959年
東京大学 理学部 助教授
1960年
東京大学 物性研究所 助教授
1967年
東京大学 物性研究所 教授
1975年
東京大学 名誉教授
1975年
岡崎国立共同研究機構 分子科学研究所 教授
1987年
岡崎国立共同研究機構 分子科学研究所 所長
1993年
岡崎国立共同研究機構 機構長
1995年
岡崎国立共同研究機構(現自然科学研究機構) 分子科学研究所 名誉教授
1996年
宇宙開発事業団 宇宙環境利用研究システム長
2001年
財団法人 国際高等研究所 学術参与
2003年
宇宙航空研究開発機構 顧問
2005年
自然科学研究機構 分子科学研究所 特別顧問
2006年
財団法人 日本宇宙フォーラム 会長
主な受賞・栄誉
1965年
日本学士院賞
1978年
日本化学会賞
1989年
藤原賞(藤原科学財団)
1994年
文化功労者
2001年
文化勲章
会員
日本学士院、中国科学院
主な論文
1950年
On the Electrical Conductivity of Violanthrone, Iso-Violanthrone and Pyranthrone, The Journal of Chemical Physics 18: 810-811 (Akamatsu, H. and Inokuchi, H.), 1950.
1954年
Photoconductivity of Condensed Polynuclear Aromatic Compounds, Bulletin of the Chemical Society of Japan 27: 22-27, 1954.
1954年
Electrical Conductivity of the Perylene-Bromine Complex, Nature 173: 168-169 (Akamatu, H., Inokuchi, H. and Matsunaga, Y.), 1954.
1961年
Electrical Conductivity of Organic Semiconductors, Solid State Physics 12: 93-148 (with Akamatsu, H.), 1961.
1964年
「有機半導体」、槇書店、201頁
1986年
A Novel Type of Organic Semiconductors. Molecular Fastener. Chemistry Letters: 1263-1266 (with Saito, G., Wu, P., Seki, K., Tang, T.B., Mori, T., Imaeda, K., Enoki, T., Higuchi, Y., Inaka, K. and Yasuoka, N.), 1986.

プロフィールは受賞時のものです

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