2014年基礎科学部門数理科学(純粋数学を含む)
エドワード・ウィッテン 写真

エドワード・ウィッテン
(Edward Witten)

  • アメリカ / 1951年8月26日
  • 理論物理学者
  • プリンストン高等研究所 教授

超弦理論の推進による数理科学の新しい発展への多大な貢献

今日まで30年以上に亘って超弦理論の飛躍的進化の過程において指導的役割を果たすことで理論物理に貢献しただけでなく、物理的直感と数学的技法を発揮して新しい数学を開発することによって多くの最先端の数学者の研究を触発した。その功績は他に類がなく傑出したものである。

プロフィール

略歴

1951年
米国メリーランド州ボルチモア生まれ
1976年
プリンストン大学 博士号(物理学)
1976年
ハーバード大学 博士研究員
1977年
ハーバード大学 ソサエティ·オブ·フェローズ ジュニア・フェロー
1980年
プリンストン大学 教授
1987年
プリンストン高等研究所 教授
1997年
プリンストン高等研究所 チャールズ・シモニー教授

主な受賞と栄誉

1985年
ディラック賞、アブドゥス·サラム国際理論物理学センター
1990年
フィールズ賞
1998年
ダニー·ハイネマン賞
2002年
米国国家科学賞
2008年
クラフォード賞
2010年
ローレンツメダル
2012年
ブレイクスルー賞基礎物理学部門
会員:
王立協会、フランス科学アカデミー、米国科学アカデミー、米国芸術科学アカデミー、米国数学会、米国哲学会、米国物理学会

主な論文

1977年
Anomalous Cross Section for Photon-Photon Scattering in Gauge Theories, Nuclear Physics B 120: 189-202, 1977.
1984年
Gravitational Anomalies (L. Alvarez-Gaume and E. Witten), Nuclear Physics B 234: 269-330, 1984.
1985年
Vacuum Configurations for Superstrings (P. Candelas et al.), Nuclear Physics B 258: 46-74, 1985.
1989年
Quantum Field Theory and the Jones Polynomial, Communications in Mathematical Physics 121: 351-399, 1989.
1991年
Two-Dimensional Gravity and Intersection Theory on Moduli Space, in H. B. Lawson, Jr. and S.-T. Yau (eds.), Surveys in Differential Geometry 1: 243-310, 1991.
1994年
A Strong Coupling Test of S-Duality (C. Vafa and E. Witten), Nuclear Physics B 431: 3-77, 1994.
1994年
Electric-Magnetic Duality, Monopole Condensation, and Confinement in N=2 Supersymmetric Yang-Mills Theory (N. Seiberg and E. Witten), Nuclear Physics B 426: 19-52, 1994.
1994年
Monopoles and Four-Manifolds, Mathematical Research Letters 1: 769-796, 1994.
1995年
String Theory Dynamics in Various Dimensions, Nuclear Physics B 443: 85-126, 1995.
2007年
Electric-Magnetic Duality and the Geometric Langlands Program (A. Kapustin and E. Witten), Communications in Number Theory and Physics 1: 1-236, 2007.
贈賞理由

超弦理論の推進による数理科学の新しい発展への多大な貢献

場の量子論と弦理論の発展の歴史は、一般相対性理論と量子力学の折り合いという問題から出発して微視的素粒子論から巨視的宇宙論に及ぶ、すべての力学を統一する理論を夢みた多くの才能溢れる科学者達が多彩に活躍する壮大なドラマである。新しい素粒子の発見、さらに革新的な力学理論を追求する研究の魅力は格別である。その発展の過程で、特に過去30年に亘ってエドワード・ウィッテン博士が果たした役割は他に類がなく、大きい。

1984年の「第一次超弦理論革命」と呼ばれる超弦理論の大きな進展において、ウィッテン博士によるゲージ場や重力場におけるアノマリーの幾何学的分析は、重要な動機となった。またウィッテン博士は、弦のコンパクト化の研究によって超弦理論と素粒子標準模型との関係を数理的に解明する道筋を示した。さらに1995年にウィッテン博士は、それまでそれぞれ特徴をもって構築されていた5つの異なる10次元超弦理論を1つの理論に統合するM理論を提唱して、「第二次超弦理論革命」の勃発に指導的役割を果たした。

ウィッテン博士の功績は理論物理学者としての業績だけにとどまらず純粋数学に対しても著しい貢献があった。優れた物理的直観と高度な数学的技能をもって多数の数学者の新しい研究を触発した。微分幾何学のモース理論の再構成、カラビ‐ヤウ多様体を用いる弦のコンパクト化などにより、新しい幾何の研究テーマを誕生させた。チャーン‐サイモンズ理論と結び目理論のジョーンズ多項式との関係を解明し、その両者に新しい見方を与えた。他にも、超対称性ゲージ理論の低エネルギー解とそのトポロジーへの応用(いわゆるザイバーグ‐ウィッテン理論)、ゲージ理論の双対性の理論的検証(いわゆるバッファ‐ウィッテン理論)とその幾何学的ラングランズ・プログラムとの関係の指摘、グロモフ‐ウィッテンの不変量の創出やミラー対称性の研究による新理論の触発など枚挙に暇がない。このような最先端の純粋数学に対する独創的貢献は、数学界からも高く評価されている。 1970年代には理論物理学者と数学者との関係が余りにも疎遠になったというフリーマン・ダイソン博士の嘆きがあった。しかし1980年以後、純粋数学と理論物理との交流にルネサンスが始まったとの国際的認識がある。その意味でもウィッテン博士の功績は正に傑出したものであった。

以上の理由によって、エドワード・ウィッテン博士に基礎科学部門における第30回(2014)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

物理と数学を巡る冒険

私は幼いころから天文学に興味がありました。とはいえ、特別変わった子供であったわけではありません。私が育った1950年代は誰もが宇宙に関心を持っていたのですから。私は小型の望遠鏡を持っていて、土星の環を捉えては有頂天になっていました。今にして思えば、もう少し腕を磨いて、土星やその他の星など簡単に望遠鏡で見つけられるようになっておけばよかったのですが。11歳ごろになると、数学に強い興味がわき、数年間その情熱を燃やし続けました。

しかし、私が選んだ科学者になるという道は紆余曲折に満ちたものでした。数学よりも理論物理を目指そうと決めた(21歳の)時にしても、どちらの分野についてもおよそ乏しい理解しか持ち合わせていませんでした。私は素粒子に魅せられました。20年間にわたって、粒子加速器からは目覚ましい成果が驚異的なペースで産み出されていました。それが最高潮に達した一つの瞬間は、私が大学院の2年目に進んで間もない頃にあった、ジェイプサイ中間子の発見(1974年11月11日に発表)でした。

もしも粒子加速器がそのようなペースで驚くべき発見を続けていたなら、私は、そこで発見されたものを分析する専門家を目指したかもしれません。しかし、当時のその分野の人のほとんど誰もが予想しなかった変化が起こりました。1974年以降、加速器は素粒子の標準模型の正しさを確認するように使われるようになりました。標準模型は、その創案者が予測できたものよりはるかに優れたものでした。その後、標準模型をより良く理解するための新たな気運が高まりました。弦理論でそれを越えようとする試みや、現代の理論物理学の手法を現代数学の概念に関連付けようとする動きです。この新しい機会が私の研究活動の中心テーマになりました。

私が研究人生から学んだことの一つは、自分がしたいと思っていることに対して凝り固まった思い込みを持ちすぎては、研究を進めることはできないということです。湧き上がるチャンスを受け止めなければなりません。ある問題はその時点では困難にすぎることもあります。問いの立て方そのものがあまり適切ではないこともありえます。人生は無数の驚きを秘めています。最高の研究をするためには、新しい発想や疑問をオープンに受け入れる姿勢をもち続けるようにしなければなりません。これは言うは易きで、特に年齢を重ねるほどに実行が難しいものです。しかし、このオープンな姿勢を維持する努力をしなければならないのです。

ワークショップ

ワークショップ

超弦理論の拓く21世紀の数理科学

String Theory and Mathematical Sciences in the 21st Century

日時
2014年11月12日(水)13:00~17:30
場所
国立京都国際会館
企画
江口 徹[立教大学 特任教授] 小谷 元子[東北大学 教授]
司会
小谷 元子
主催
公益財団法人 稲盛財団
共催
京都大学
後援
京都府、京都市、NHK
協賛
日本数学会、日本物理学会

プログラム

13:00
開会
歓迎の辞 湊 長博[京都大学 理事・副学長]
開会挨拶・受賞者紹介 江口 徹
受賞者講演 エドワード・ウィッテン[基礎科学部門 受賞者]
「結び目と量子物理学」
休 憩
講演 中島 啓[京都大学 教授]
「4次元ゲージ理論と表現論」
講演 立川 裕二[東京大学 准教授]
「ザイバーグ-ウィッテン理論の20年」
休 憩
講演 高柳 匡[京都大学 教授]
「AdS/CFT対応と量子エンタングルメント」
講演 深谷 賢治[ニューヨーク州立大学ストーニー・ブルック校 教授]
「余接束上の開弦理論はチャーン-サイモンズ摂動論なのか」
閉会挨拶 小谷 元子
17:30
閉会
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