1991年基礎科学部門地球科学・宇宙科学
エドワード・ノートン・ローレンツ  写真

エドワード・ノートン・ローレンツ
(Edward Norton Lorenz)

  • アメリカ / 1917年-2008年
  • 気象学者
  • マサチューセッツ工科大学 名誉教授

気候の数値計算基盤確立と決定論的カオスの発見による地球科学と数理科学への多大な貢献

気象学における天気および気候の予測問題の理論的基盤を固めて、現代の大気物理学・気象学のコンピュータによる研究基盤を確立するとともに、それに伴う決定論的カオスの発見によって、ニュートン以来の近代科学の自然観に劇的な変革を与え、広い分野の基礎科学に大きな影響を与えた。

プロフィール

略歴

1917年
コネチカット州ウエスト・ハートフォードに生まれる
1938年
ダートマス大学(数学)卒業
1948年
マサチューセッツ工科大学博士号(気象学)取得
1946
マサチューセッツ工科大学 研究員
1962年
マサチューセッツ工科大学 教授
1981年
マサチューセッツ工科大学 名誉教授

主な受賞と栄誉

1969年
アメリカ気象学会 カール・グスターフ・ロスビー・メダル
1973年
イギリス王立気象学会 サイモンズ記念ゴールド・メダル
1975年
アメリカ科学アカデミー 会員
1981年
ノルウェー学術アカデミー 会員
1983年
スウェーデン王立科学アカデミー クラフォード賞
1984年
イギリス王立気象学会 名誉会員

主な論文・著書

1955年

『有効位置エネルギーと大循環の維持』Tellus 7巻

1963年

『決定論的・非周期的な流れ』Journal of Atmospheric Sciences 20巻

1967年

『大気大循環の本質とその理論』世界気象機関からの刊行物218号

1969年

『大気の予測可能性に関する3つの研究方法』Bulletin of American Meteorological Society 50巻 nce 86巻 ポリマー、および電子移動過程』Wiley(成書)

1976年

『気候変動の非決定論的理論』Quaternary Research 6巻

1990年

『カオスと自律性によって年々変化が発現するか?』Tellus 42A巻

贈賞理由

気候の数値計算基盤確立と決定論的カオスの発見による地球科学と数理科学への多大な貢献

エドワード・ノートン・ローレンツ博士は、現代の卓越した理論気象学者であるのみならず、「決定論的カオス」と呼ばれる科学の新しい重要な研究分野の開拓者として世界的に著名である。この理論は、博士自身の研究分野である大気圏科学にとどまらず、その応用は多岐にわたり、純粋数学から物理学、工学、化学、生物学、経済学、地学に及んでいる。

理論気象学者として、博士は有効位置エネルギーの概念を精密化し、大気大循環の力学系を支配する方程式を定式化し、さらにそれを単純化することによって天候や気候の予想をコンピューターモデルによって数値的に求めるための基礎を与えた。その数学的方法論は、地球環境問題に関連して大気循環の数値シミュレーションを作るためにも広く用いられている。

重力場における熱対流の研究において、博士は大気力学系の次数の低い簡素化された表現方法を導入し、最小限の非線形常微分方程式を用いて、大気循環現象の基礎物理を浮き彫りにすることに成功した。この方法によって、博士は典型的な決定論的カオスを解として持つ最初の微分方程式系、たった三つの自由度を持つ散逸系を発見した。この発見によって解明されたことは、決定論的非線形力学系においては、氏のいう「バタフライ・エフェクト」(蝶々羽叩きの効果)すなわち、初期の条件を極微小だけ変化することが、将来の状態に巨大な変異を発現するという現象が起こりうるということであった。博士は、さらに他律性と自律性の概念を導入して気候状態の多重性を指摘し、気候の唐突な変化に対する理論的根拠を与えた。

ローレンツ博士の決定論的カオスの発見は、遠い将来の予測は至難といえる現象が至るところに存在するという事実に、明解な数学的説明を与え、あらゆる科学、さらに科学を越えた学問分野においてさえもわれわれの自然観に革命的な変化をもたらした。ローレンツ博士は、第7回京都賞基礎科学部門の受賞者として、最もふさわしい。

記念講演

記念講演要旨

科学者という職業

優れた科学者になるにはどうすればよいか。このことについて、わたしは次のように主張する。すなわち、科学的問題に強い関心を持つこと、自分の選んだ分野の基本的問題を明確にして解決するための真の能力を持つこと、そして、いくら一般に受け入れられている説明でも論理的かつ明確に述べられていないものは疑ってかかり、もし満足に説明し直すことができないときは、その説明を退けて新たな説明を追求することだ、と。この主張を裏付けるため、わたしは自分自身の人生を例に挙げて、子供のころどんな科学者あるいは非科学的興味を抱いていたかということ、大学や大学院で数学を研究したこと、その後、気象学を学び、それを職業として選んだこと、そして最も重要な研究成果を得るに至った状況などについて、詳しくお話したいと思う。さらに、大気が無秩序に反応を示すことを指摘するとともに、そうした大気の状態によって、気象学研究に用いるべき方法がどのような影響を受けているかについて論じることにする。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

「天気予報からカオスへ」

From Weather Forecasting to Chaos

日時
1991年11月12日(火)13:00-17:25
場所
国立京都国際会館

プログラム

組織委員: 山口 昌哉 龍谷大学理工学部教授
山元 龍三郎 基礎科学部門専門委員会委員、京都大学名誉教授
廣田 勇 京都大学理学部教授
佐藤 文隆 基礎科学部門専門委員会委員、京都大学理学部教授
13:00
開会
挨拶 稲盛 和夫 稲盛財団理事長
13:20
座長 山元 龍三郎
業績紹介 廣田 勇
13:30
講演 エドワード・ノートン・ローレンツ 基礎科学部門受賞者
「天気予報とはどこまで当たるか-ある理論の誕生-」
14:15
座長 廣田 勇
講演 余田 成男 京都大学理学部助教授
「局所リアプノフ安定性と予測可能性」
15:00
講演 国府 寛司 京都大学理学部講師
「ホモ/ヘテロクリニック軌道の分岐とカオス」
15:35
休憩
15:50
座長 佐藤 文隆
講演 澤田 康次 東北大学電気通信研究所教授
「熱対流におけるカオス」
16:35
講演 津田 一郎 九州工業大学情報工学部助教授
「生物系におけるカオスによる計算過程」
17:10
総括 山口 昌哉
17:25
閉会
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