2004年先端技術部門情報科学
アラン・カーティス・ケイ  写真

アラン・カーティス・ケイ
(Alan Curtis Kay)

  • アメリカ / 1940年5月17日
  • コンピュータ科学者
  • ビューポインツ・リサーチ・インスティテュート 代表

現代のパーソナルコンピュータの概念の創出と実現への多大な貢献

計算機の大型化が主流であった1960年代後半、個人の知的作業を支援するための道具を創るという考えのもと、パーソナルコンピュータの概念を提案し、計算機のあり方にパラダイムシフトをもたらした。さらに、グラフィック・ユーザ・インターフェースやオブジェクト指向言語環境などの開発を先導し、今日のパーソナルコンピュータの実現に大きな貢献をした。

プロフィール

略歴

1940年
マサチューセッツ州スプリングフィールド生まれ
1969年
ユタ大学 博士号(計算機科学)
1969年
スタンフォード大学 人工知能プロジェクト 研究助手・講師
1971年
ゼロックス パロアルト研究所 研究員、フェロー
1981年
アタリ社 チーフサイエンティスト
1984年
アップルコンピュータ社 フェロー
1996年
ウォルトディズニー社 研究開発担当副社長
2001年
ビューポインツ・リサーチ・インスティテュート 代表
2002年
ヒューレット・パッカード社 上級フェロー
2002年
IPA 探究ソフトウェアプロジェクト プログラムマネージャー
2004年
京都大学大学院 情報学研究科 客員教授
2004年
カリフォルニア大学ロサンゼルス校 計算科学学部 兼任教授
2004年
ウィスコンシン大学 情報工学部 上級研究者

主な受賞と栄誉

1987年
ソフトウェアシステム賞、ACM
1989年
ライフタイム アチーブメント賞、SPA
1990年
ヴァルニエル情報賞
1992年
最優秀教育者賞、ACM SIGCSE
2001年
コンピューティング分野における最優秀功労者賞、IMAS
2001年
C&C賞、NEC
2003年
チューリング賞、ACM
2004年
ドレイパー賞、米国工学アカデミー
会員
英国王立芸術協会、米国工学アカデミー

主な論文

1977年

Personal dynamic media, IEEE Computer, March, 31 (with Adele Goldberg), 1977.

1984年

Computer Software, Scientific American, 251, 41, 1984.

1990年

User interface: A personal view, in The Art of Human-Computer Interface Design, ed. (Brenda Laurel, Addison-Wesley) 191, 1990.

1996年

The early history of smalltalk, in ACM History of programming languages II, (Addison-Wesley), 1996.

1997年

Back to the future: the story of squeak-a usable smalltalk written in itself, OOPSLA 1997 : 318 (with D. Ingalls, T. Kaehler, J. Maloney, S. Wallace), 1997.

贈賞理由

現代のパーソナルコンピュータの概念の創出と実現への多大な貢献

ケイ博士は、コンピュータのあるべき姿はダイナミックなパーソナルメディアであるとのビジョンを持ち、今日社会のあらゆる場面で利用されているパーソナルコンピュータの原型を提案し、その実現に貢献してきた。

1960年代後半は、コンピュータはまだ専門家が用いる高価な機械であり、利用するにはプログラム言語の習得が必要であった。そして、いかに大型のコンピュータを作るか、という点に力が注がれていた。そのような時代にあって、ケイ博士は「個人の知的作業を支援するためのコンピュータを創る」というビジョンを持ち、それを「パーソナルコンピュータ」と呼んで開発研究に取り組んだ。そして1970年代初めには、パーソナルコンピュータの理想形を描いた「Dynabook」マシンを構想した。子供が自由に使え、持ち運びが可能で、無線によるネットワーク接続機能も装備する、というコンピュータのあるべき姿を提案したことは、コンピュータの在り方にパラダイム・シフトをもたらした。

ケイ博士は、自身の概念を具体的に実現するものとして、ゼロックス社パロアルト研究所で「Altoコンピュータ」の開発に、中心人物の1人として貢献した。Altoではさまざまな新技術が実装されたが、その1つに、現在標準的に利用されているグラフィック・ユーザ・インターフェースがある。ケイ博士はオーバーラッピングウィンドウなどのデザイン形成に携わった。一方で博士はソフトウェアとしてプログラミング開発環境「Smalltalk」の開発も先導した。オブジェクト指向を用いたプログラミングの成功は、後の計算機言語設計だけでなく、今日の複雑な情報システム開発のための方法論全般にも大きな影響を与えた。

博士は、教育へのコンピュータ利用の重要性を早期から認識し、子供、特に幼児に対するコンピュータ教育にも情熱を傾けてきた。現在、ソフトウェアの基本的な概念やシステムを作る際の発想法を子どもの発達段階をふまえて無理なく習得させ、情報化社会に対応できる人材を育成するプロジェクトを指導している。

ケイ博士は、30数年にわたり一貫して、コンピュータ開発者に夢を与え、コンピュータの利用分野に飛躍的な拡大を与え、今日の知的創作活動や社会・経済活動の基盤に大きな変革をもたらすことに多大な貢献をした。

以上の理由によって、アラン・カーティス・ケイ博士に先端技術部門における第20回(2004)京都賞を贈呈する。

記念講演

記念講演要旨

「なぜ?」と思う心

私は、長年にわたって美術、音楽、演劇から数学、科学、工学に至る様々な分野の偉大な功績から大いに学び、また美、ロマンス、理想主義に突き動かされてきました。芸術家肌で音楽好きの母と科学者の父に始まり、おそらく人並み以上に多くの人や物事から、知的恩恵を受けてきたと思います。興味深い考えに出会うと、どの分野であろうと徹底的に研究し、多様な考え方を貪欲に取り込むことで、私はパッチワーク・キルトのような知性を培ってきました。私のいくつかの大きな成果は、私の遭遇した考え方への何とも説明し難い反応に発しています。つまり、段階的進歩というより、発想の転換と考えます。

今回の講演では、私の経歴の紹介ではなく、若い頃の偶発的重大な転機のいくつかについて、手短にお話ししたいと思います。私が数ある可能性の中から1つの進路を選び、今の思考法を身に付けるきっかけとなった考え方、人、さらに環境との思いがけない出会いについての話です。

今回ご紹介する出来事は、いずれも私の心を大きく揺さ振り、また物の見方を一変させる契機となったものとして、強く印象に残っているものです。中には50年以上も昔の出来事もあるため、事実確認のために、該当する本、雑誌、映画、小物について調べることも必要になりました(この過程自体も楽しく、また、参考文献や資料の入手にはインターネットが大いに役立ちました)。

マーシャル・マクルーハン氏の最大の功績は、研究の発表を口頭で行なう場合と書面で行なう場合の、重要な違いを指摘したことです。私はその指摘を参考に、本講演の原稿を用意するにあたり、口頭発表用と記録用で若干の違いを設けました。前者では字数を少なめにして画像を多用し、後者では文章で多くの逸話を取り上げ、それぞれをより詳しく説明しています。

【関連情報】
記念講演録(PDF)
ワークショップ

ワークショップ

パーソナルコンピュータと教育の将来像

Future of Personal Computing and Education

日時
2004年11月12日
場所
国立京都国際会館
企画・司会
米澤 明憲 [(専門委員会 委員)東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授]

プログラム

13:00
開会
挨拶 池田 克夫[(専門委員会 委員長)大阪工業大学 情報科学部 教授]
受賞者紹介 米澤 明憲
受賞者講演 アラン・カーティス・ケイ
「Making the Invisible More Visible ― Children, Powerful Ideas, and Technologies」
(形あるものへ ― 子供、パワフルなアイデア、そして技術)
講演 五十嵐 健夫[東京大学 大学院情報理工学系研究科 講師]
「誰もが気軽に使える3Dグラフィクス環境の実現にむけて」
講演 竹内 彰一 [ソニー株式会社 パーソナルソリューションビジネスグループ 部門長]
「ウェブにおけるグラフィック表現」
講演 西田 豊明[京都大学 大学院情報学研究科 教授]
「会話情報学をめざして ― 時空を超えた会話の実現」
講演 高田 秀志[京都大学 大学院情報学研究科 研究員]
「コンピュータによる創造性教育の実践とその可能性」
パネル討論 Future of Personal Computing and Education: Breakthrough Needed?
司会:米澤 明憲
パネリスト:アラン・カーティス・ケイ、五十嵐 健夫、高田 秀志、竹内 彰一、西田 豊明(五十音順)
17:10
閉会
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